③
「私は魔物ではなく地蔵だ」
「はあ?」
「お兄ちゃん、地蔵さんは私をお兄ちゃんのとこまで送ってくれたの。 お兄ちゃんを助けてくれたのも地蔵さんなんだよ?」
私のことをお兄ちゃんは理解出来なかったのか、私を怪しい者のように見ているがお嬢ちゃんは私を庇うように言っている。
お兄ちゃんも理解はしているが私のような地蔵が目の前に居たからびっくりしただけだろう、地蔵は心が広いのだよ。
「えっと……地蔵さん?」
「何だい?」
「妹と俺を助けてくれてありがとうございます」
ほら、やはりお兄ちゃんも良い子だ。
素直にお礼を言える子は地蔵から特別なプレゼントだ。
「大したことはしていないさ。ほら、疲れただろう? これをお食べ」
何でも入る地蔵収納からいちご飴を取り出すと二人に渡してあげる、お兄ちゃんはまだ少し警戒してるようではあるが、お嬢ちゃんは嬉しそうに飴を舐めている。
子供は人類の宝である、大切にしなくてはならない。
傲慢な子供は教育しなくてはいけないが。
「あ、俺はケイド、妹はミシェルと言います。 地蔵さんの名前は……?」
「お兄ちゃん、地蔵さんお名前ないんだって」
「え?」
うむ、私が人間であったことならば名前がなければ大変だったであろうが、私はこの世界唯一の地蔵。
名前がないくらい問題はない、地蔵と呼べばいいのだからな。
「そうだ、地蔵さん! 私が地蔵さんにお名前をつけてあげる!」
「ほう、名前か」
特別名前なんてのは必要のだがミシェルがせっかく嬉しそうにしているのだから受け入れてあげよう、うんうんと唸りながら考えてる様子は愛らしいので大人しく待つことにする。
しばらく考えていたミシェルが笑顔のまま顔を上げて私を見た。
「”アヴニール”、地蔵さん、どう? お父さんから聞いたんだけどエルフ語で未来って言うんだって!」
アヴニール……未来……ふむ、良い名前ではないか、どこか懐かしく、どこかで聞いたことのあるような感覚に見舞われるが悪いことではない。
よし、これからは地蔵のアヴニールと名乗ることにしよう。
「ミシェル、素晴らしい名前をありがとう。 私は地蔵のアヴニールだ」
「えへへ、やったー!」
私がそう名乗るとミシェルは嬉しそうに笑って居る、この世界に来て初めての人助けで良き子供たちに会えたことは幸運だったな。
でも、この森は危ない、早く子供たちを安全なとこに連れて行かなければならない。
「さて、それではミシェルとケイドを村まで送ろう。 ここに居てはいつまた魔物が来るかわからないからな」
「で、でも、俺は薬草を持って帰らないと……」
「それなら問題ない。 さて、頭の中でケイドたちの家を想像してみろ」
ケイドは心配そうな表情を浮かべていたけども私の言葉に素直に頷いて家のことを考えてるようだ。
よし、今こそ地蔵転移!