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『鷹』と『牙』




青い世界はただ僕を迎えてくれた。


これから何をするか知っているかい?


君が今迎えている他の人から君を奪うんだ。


でも……許しておくれ……






――――――――


既にそこは戦場だった。

何羽もの機械鳥が空を黒で塗りつぶさんとしている。

単純に見て100から150と言ったところか。

僕達の軍隊のものも同数程度僕の後に続いているので結局空は黒で塗りつぶされそうだった。


機械鳥は自由に空を駆ける。

縦横無尽に動く姿は完全に一羽の鳥だった。

羽を羽ばたかせることも無く、鳴き声をあげることもないけれど。

僕はただ一羽の鳥になっていた。


でも、空にはこんなに沢山の鳥は要らないんだ。


どれが自分の軍の機械鳥なのか判断するのも難しい状況。

それは普通の人ならばの話、僕には関係ない。


僕の命を狙ってくる人は沢山いるんだ、だから攻撃されたら反撃すれば良い。


最初は本当に単純だった。

ただちょっと機械鳥の乗るのがうまいから、両親に軍に入れさせられた。

今考えると僕は邪魔だったのかな。


世界が反転する、上が下になり下が上になる。

横が上になり、下になる。

この不自然な動きにも、常に地面にひきつけられるような感覚にもとっくに慣れた。


一羽、二羽、三羽。

『鷹』に襲い掛かってくる『雀』の羽をもいでいく。

羽を無くした『雀』は羽ばたくことも出来ずに、ただただ地面へと向かう、その先にあるものは死。


レーダーに映る後ろから追いかけてくる四羽目。

無理に機械鳥の前方を上げ、大きな円を書いて一回転する。

立場は、逆だ。


四羽目の羽をもぐと同時に戦場は異様な空気に満たされた。

それもそうだ、と思う。

二羽目の『鷹』……いや軍の『牙』が現れたんだ。


僕らの戦っている国の名前はカジャエル。

カジャエルって言うのは空想上の獣の名前なんだけど。

そのカジャエルの『牙』と呼ばれている人間が存在した。


僕はその『牙』を抜こうと何度も何度も戦って、『牙』は自身を『鷹』に食い込ませようと何度も何度も戦って。

結局今までどちらかの思い通りになる、なんてことは無かった。


「……牙」


小さく呟き、短く息を吐き出す。

僕がそうしている間にも『牙』は『雀』達を、命を、空を奪っていった。


「牙……牙!牙!牙!牙!」


牙と言うものが何かわからなくなりそうになるほど叫ぶ。

僕のしていることとなんら変わりない、もしかしたら『牙』も僕を憎く思っているかもしれない。

じゃあ殺してくれ、それじゃあすまない。


君が殺したのは僕の友達、部下、上司。

僕が殺したのも君の友達、部下、上司。


それなら……もう言葉なんて必要ないよね。



戦場から少し離れた位置でただ浮遊していただけの機械鳥を再度戦場に向ける。

いや、戦場ではなく『牙』の機械鳥に。

また戦場の空気が変わった。

僕と『牙』がぶつかる時はいつもこうだ。


『牙』も僕の存在に気づいたようで、機械鳥の前方を僕に向ける。


機械鳥同士の争いは普通ならば一瞬だ。

どちらかの機関銃がどちらかの翼を破壊すれば良い。

けど『鷹』にはそんなもの当たらない、『牙』には全てを叩き落される。

どうやっているのかはわからないけど、完全に不規則な動きをしている機関銃の弾を自由自在に操れるようだ。

だから僕と『牙』との争いはいつまでも終わらない、でも。

今日は何か違った、『牙』の動きがおかしかった。


機械鳥の出せる最高速を出し飛びまわる。

いつもの『牙』なら僕についてこれるはずなのに、まったく付いてきていない。

これでは……『牙』なんてものじゃない、ただの『雀』だ。


完全に『牙』の後ろを取ると、機関銃に残っていた全弾を吐き出させる。

銃弾は『牙』の両翼を破壊し、地面へと落下させる。


「……牙、なんなんだ、牙」


もしかしたら牙は、自分に負けたのかもしれない。

僕は覚悟を決めて『牙』を殺しにかかった、でも『牙』はもうこんなこと嫌だったのかもしれない。


いつの間にか空に存在する機械鳥の数は三分の一ほどに減っていた。

補給のために基地に戻ると、皆が笑顔で迎えてくれた。


「『牙』倒してくれたんだな!ありがとう!」

「もう戦闘も終わるよ。ゆっくり休んでくれ!」

「流石は『鷹』だな。俺達とは違うぜ」

「お前まじカッコいいよ。ありがとな!」


尊敬の眼差しや、心からのお礼の言葉。

今の僕にはそんなもの何の価値も無かった。

機関銃を取り外され、補給作業を行われている僕の機械鳥。


「ちょっと離れて」


それだけ言うと再度機械鳥へと乗り込む。

補給作業をしていた作業員達は機械鳥の飛翔準備音を聞くと一気に離れていった。

困惑、それだけがこの場を包んでいた。



機械鳥が空へと向かう。

既に青の中に赤が混ざり始めていた空へと。


それから、僕が基地に戻ることは無かった。

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