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箱庭世界の何でも屋  作者: オムニバス形式みたいのを書きたいなあと思う粒餡
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ようこそ! 愛があふれる恋町へ!

 「ところで所長」

 「なんだよ、もう準備はできたのか?」

 「準備はできたんですけど……どうやって相手の箱庭にまで行くんですか? リチェさんはいけるようにしておいたって言ってましたけど」

 あれから数時間後、準備を整えた。まあ、整えたといっても荷物などは携帯型倉庫に収納されているため、動きやすい服装にしたぐらいなもんだが。

 「ああ、そういえば転送装置を使うのも初めてか、お前は」

 「転送装置?」

 「そう、色んな形をしているが、俺の所有している物の場合だと、これだな」

 そういって俺は扉を開ける。するとそこには奥が見えない白い空間が広がっている。

 「うわ、この奥ってこんな風だったんだ……で、これでどうやって移動を?」

 「こちらの転送装置と、あちらの転送装置の情報を送りあって、その間に飛んでる電波を通して移動する装置のことだ」

 「電波に乗るって……どうやるんですか、そんなの」

 「自分の体をエネルギーに変換してびゅーんと」

 「それ大丈夫なんですか!?」

 「詳しい理屈は俺も知らないけど。電波って言っても、ライフハックで強化された通路みたいなもんらしくてな。その通路の間だけならちゃんとした自我を持った存在なら大丈夫らしい。まあその分精神が不安定だったり、何らかのアクシデントで通路からエネルギーになったまま外に放り出されると死ぬらしいけど」

 「激しく不安なのですが!」

 「って言われてもなあ、これ以外の移動手段なんて存在しないからな。ま、我慢しろ、どうせお前もこれからは使うことは増えていくんだから」

 「死んだら一生恨みますからね! 枕元で恨み言呟きまくりますからね!」

 「大丈夫。お前のバックアップは常に取ってあるから、枕元と言わず直接言えるぞ」

 「そんな薄情な!」

 「薄情でもドジョウでも結構結構。それじゃあ行くぞ、こういうのはさっさと解決するのに限るんだからよ」

 「ううう……」

 やっと観念したのか、陽菜が扉に進んだのを見て、俺も行先をあらかじめリチェが登録しておいた箱庭にして入っていく。

 扉の奥へと脚を踏み入れると、その瞬間自分がそこにいるはずなのに、そこにいないように感じる不思議な感覚に包まれる。そして、歩いているわけでもないのにどこかに移動し始める……そういえば、陽菜に伝え忘れたことがあったような気がしたが……はて、何だろう。

 考え込むが、その答えに行きつく前に俺の意識は、消えた。


 「……よっと、ついた、か……わーお、こいつは中々だな、おい」

 次に俺の意識が覚醒した時、目から入ってきた情報が多すぎて、いや。あまりにもインパクトが強すぎて理解に時間がかかった。

 まず、目に映ったのは、赤やらピンクやらでデゴレーションされたケーキ。そして、その上にある『恋町にようこそ!』と書かれた垂れ幕。それ以外は何もなかったが、だからこそ目の前のケーキの存在感が際立つ。

 この部屋はそれ以外には俺のとこと同じく扉型の転送装置なので、スペースはいらないはずなのに、妙に天井が高い部屋だった。しかも、天井も壁も床も、すべてピンクで統一されていて目に悪い。

天井を見上げればざっと十メートルぐらいはありそうなのに、こちら側から向こうの壁までは歩いたとしても一分もかかりそうにもなかった。だが、目の前にあるケーキは天井に触れるか触れないかぐらいの高さをしていて、ケーキであるはずなのに、近さも相まってとんでもない威圧感を与えてくる。

 「あれ? ああ、もう来てくださったんですか、探偵さん!」

 そして、その巨大なケーキの向こう側から一人の少女が歩いてくる。

 少女はかなり身長が小さく、百五十あるかないかにも関わらず、床にまでつきそうなピンクのツインテールで、俺が想像していたリチェの友人像にまあまあ当てはまるので、恐らくこの子が管理者なのだろうが、趣味なのかどうかは知らないが、丈の長いメイド服を着ている。

 「こんにちは何でも屋様!」

 「あ、ああ、こんにちは……こほん。俺は箱庭メモリーの管理者、霧崎星矢だ。リチェ・ドールズから伝言を受けてきたんだが、間違いないか?」

 先ほどから衝撃ばかりを与えられていて、崩されていた調子を取り戻すべく、一回咳払いし自己紹介をする。

 「なるほど、霧崎様ですね。リチェ様からの伝言の場所でしたら、ここで間違いないですよ! あ、申し遅れました。私、箱庭ドキドキ! 私と恋しよマイダーリン! でメイドをさせていただいております。クローンのラブカと申します!」

 「え、管理者じゃないのか?」

 「はい、そうですけど……何故そのような勘違いを?」

 「あ、あーっと……その、ほら……こう、威厳ってもんをね? 感じたなって」

 「もう、霧崎様ったらお世辞がお上手ですね! まあ、私はメイドといってもただのメイドではなく。メイド長という重要な役目を恋町様から受け持っていますので、そう勘違いされても仕方ないというものでしょう」

 「そうそう」

 適当に言っただけの言い訳を鵜呑みにし、勝手に納得してどや顔で頷いている目の前のラブカと名乗った少女を見て、俺は元々抱いていた不安が更に大きくなるのを感じていた。クローンだけでもこんなに変なのに、管理者は一体どんなやばい奴なんだ……。

 「そういえば、先程から倒れこんでいる方は、お連れの方ですか?」

 「え?」

 そういえば、先程から陽菜の声がしなかった。ツッコミ体質のあいつならこの部屋に対して何かしらのコメントをしてもおかしくないのだが……。

 「気持ち悪い……」

 目を向けると、そこには見事にくたばっていた陽菜の姿があった。

 「……ああ、そういえば言ってなかったな。この移動方法、慣れれば何ともなくなるが、最初の内は気分が悪くって」

 「それを先に言ってくださいよこのバカ所長! あ、やばいやばい、これ本当にやばいって……」

 「いやあ、悪い悪い。あ、こいつはうちのクローンで、俺の助手をしてる、霧崎陽菜って言います」

 「なるほど、では区別させていただくために、管理者様の方を霧崎様、そしてこちらの倒れている方をはき崎様と呼ばせていただきますね!」

 「まだ吐いてませんよ! うう、こんなことならやっぱり来なきゃよかった……」

 「大丈夫ですかはき崎様? あそこにケーキありますけど、酔い覚ましに食べますか?」

 「食べれるわけないじゃないですか……」

 「そうですか……あ、霧崎様はいかがですか?」

 「申し訳ないけど、飯を食べてきたばっかで腹がいっぱいでね」

 まあ、食べてきたといってもサンドイッチぐらいなものだが、あんな巨大なケーキは例え腹が減っていても食える気がしない。

 「そうですか……残念だな。せっかく部屋を改造して作ったのに」

 「部屋の改造を?」

 「はい!」

 「しょ、所長……そんな話はどうでもいいので、早く行きましょう」

 「もう大丈夫なのか?」

 「はい、だいぶ楽になってきました……帰りもこれ乗らなきゃなんですよね」

 「まあ、そうだな」

 「うう、今から憂鬱だ……」

 「本当に大丈夫ですか? はき崎様?」

 「大丈夫ですからその呼び方やめてください……」

 「むう、心配ですね……そうだ! ちょっと失礼しますね」

 「ちょ、何をするんですか!?」

 しばらくラブカが思案したかと思うと突然、自分より頭一個分ぐらい大きい陽菜を軽々と持ち上げ、お姫様抱っこにまで持って行った。

 「行き先までこうして運んで行って差し上げましょう!」

 「いいえお気になさらず結構ですから早く降ろしてください! 自分より小さな子にお姫様抱っこされて私の自尊心が悲鳴を上げてますからぁ!!」

 「そんな遠慮なさらず! それじゃあ、しゅっぱーつ!」

 「いやあああああ! 待って、止まって! 出ちゃう! 折角我慢してた乙女の尊厳出ちゃうからって、何あのケーキでか!?」

 見た目に反して、かなりの身体能力を持っていたのか、そのままケーキの向こう側にまで走り去っていってしまった。

 「……俺は一体どうしたらいいんだ」

 そして、置いていかれてしまった俺は、仕方がないのでとりあえず後をついていくことにした。

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