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箱庭世界の何でも屋  作者: オムニバス形式みたいのを書きたいなあと思う粒餡
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メモリー

箱庭歴百十二年 

 相も変わらずの一日。我が家でくつろぎ、助手をからかい、やがて寝る。その日もそうする予定だったのだが、一つのノックにより平和な一日は、人生で二番目くらいのくだらない事件の幕開けとなる一日であったことが後に判明してしまったのだった。

――霧崎星矢


住み心地がいい我が家での昼。俺は優雅にブルーマウンテンを飲みながら、今日もまた俺を頼ることしかできない哀れな人々に思いを馳せていた。

 「所長!」

 だが、それもすぐにやめることになる。声のする方を見てみると、助手の陽奈が若干不機嫌そうな顔でこちらをにらみつけている。

 「……何だよ、陽奈。俺は今、見ての通り忙しいんだけど」

 「どこがですか! ただ椅子に座ってコーヒー飲んでるだけじゃないですか!」

 「まったく、分かってねえなあ。こうやって、所長が余裕をもって座ってることで、客も安心できるってもんさ。ああ、今日もブルーマウンテンが上手い」

 「……それキリマンジャロですけど」

 「……知ってるけど? 知ってますけど、今日はなんだかコーヒーの気分じゃなくなったから、残りはお前にやるよ」

 「いりませんよ気持ち悪い」

 「ひどくない?」

 仕方ないので、残すのももったいないので飲み干す。

 「というか所長! 別に私はあなたとコーヒーの話をしたい訳じゃないんですよ!」

 「じゃあなんだよ。日頃の感謝でも述べる気になったか?」

 「違います! 毎日のように言っていますが、今日と言う今日はお部屋のお掃除をやっていただきますからね!」

 「掃除ー? この部屋のどこに掃除すべきところがあるんだよ」

 部屋を見渡せば、考え込まれた配置をしているインテリアの数々。我ながらどこに出しても恥ずかしくない素晴らしい部屋だ。

 「どこがですか! 部屋は物で溢れて足の踏み場もない! しかも妙にでかいものも多くて狭すぎる! このトーテムポールとかどっから持ってきたんですか!」

 「この前の仕事の時に持って帰ってきた」

 「何でもかんでも拾ってこないでくださいって言ってるじゃないですか!」

 「あー、はいはい。分かった、分かったよ、トーテムポールはなんとかしよう。ぶっちゃけ俺も邪魔でしょうがなかったし」

 「じゃあ持ってこないでくださいよ……というか、それだけじゃなくて、他の要らないものも捨ててください!」

 「おいおい、助手よ。いつも言ってるだろ? 人間は過去の積み重ねで生きている。だから要らないものなんて存在しないんだ」

 「じゃあ、この薄いのとか何に使うんですか」

 「スマホな、昔ー……ああ、戦争が始まる何百年か前に使われてた携帯機器。撮影とか、通話できるぞ」

 「……え、それだけ?」

 「まあ、他にもいろいろあるけど」

 「自衛のための兵器とかは?」

 「ある訳ねえだろ」

 「……ゴミじゃん!」

 「ゴミじゃねえ、貴重な歴史的資料と呼べ!」

 「じゃあ、この銃みたいなのは?」

 「みたいじゃなくて、銃だよ。まあ、当たりどころにもよるが、だいたい二、三発ぐらいで人を殺せる」

 「……ゴミじゃん!」

 「だからゴミじゃねえって言ってるだろうが! なんでお前は俺が作ったのに俺の趣味を全然理解できないんだ!」

 そう、目の前の生意気なガキは俺が作ったクローンであり、俺の箱庭で唯一のクローンである。

 名前は霧崎陽奈。年齢は高校生ぐらいに設定してあり、これ以上成長することはない。

 一応、クローンといえども性格とか身体的特徴とかをこちらで決めるのは可哀想なので、おまかせで作った結果がこれだ。

 胸は可哀想なことになってしまったが、所長と同じ苗字とかちょっと嫌ですねとか、好き勝手言うので同情はしない。

 「そんなこと言われたって、ゴミはゴミだし……」

 「あー、はいはい。分かった、分かりましたよ。片付ければいいんでしょ、俺の宝物たちを」

 「分かればいいのです。さあ、そうと決まったら早速始めましょう。何、大丈夫ですよ。今は所長は家事苦手人間ですけど、家事の楽しさに目覚め──」

 「ここら辺だっけな……ああ、あったあった。ぽちっとな」

 俺が片付け用のスイッチを押すと、たくさんあった物が、一瞬にして消える。

 「……な、な、な」

 「よし、片付いたな。じゃあ、もう一杯入れてくるわ」

 「何ですかこれはあ!?」

 「何って……ここにある物は全て、このスイッチを押したら収納空間に入るように設定してるから」

 そういって、俺は先ほど使った携帯型倉庫を取り出す。これは入れたいもの、出したいものを思い浮かべながら、ついているスイッチを押すとそれを入れたり出したりすることができる便利なものだ。

 「なんでそんな便利な物あるのに今まで使わなかったんですか!」

 「俺、大事なものに囲まれる生活って素敵だと思うんだ」

 「それは私も素敵だと思いますけど、限度って物があります!」

 「いいじゃん、片付いたんだから」

 「でも……」

 今日はどうやって陽奈をからかって遊ぼうかと思っていると、扉を叩く音が聞こえる。

 「星矢、邪魔するわよ」

 俺が入るように促す前に、勝手に扉が開く。そこにいたのは見慣れた金髪の幼女が立っていた。

 「邪魔するなら帰ってー」

 「嫌よ、なんであなたなんかの言うことを聞かなきゃいけないの?」

 「相変わらず、自己中心的だなお前は」

 「あら、こんな来るだけで気分が悪くなる場所、こちらから出向いてあげるだけ優しいわよ?」

 「何を言う、こんな快適な空間は他にはないだろ?」

 「さっき快適な空間になったばっかですけどね……」

 「あら、ヒヨコちゃんこんにちは。今日も可愛いわね」

 「リチェさん、そのヒヨコちゃんって呼び方やめてくださいって、私言いましたよね」

 「あら、雛鳥のひなちゃんだから、ヒヨコちゃん。我ながらいいネーミングセンスだと思うのだけれど」

 「字が違います! それに、これでも私、十七なんですよ!」

 「肉体は、でしょ。生まれてから一年も経ってないんだからまだまだ子どもよ。まあ、仮に十七歳でも私から見たら子どもだけどね」

 「ぐぬぬ……」

 そう、目の前の幼女改め、リチェ・ドールズは既に百歳を超えている、リアル合法ロリである。まあ、といっても俺自身も同い年なのだが。

 俺もリチェも、今この地球上に存在する全人類は、ある技術により疑似的な不老不死となっている。

 そのある技術とは、通称『ライフハック』。これは、人間の進もうとする意志を、メルゲンと呼ばれるエネルギーに変換するという技術だ。進もうとする意志というと難しそうに感じるが、ただ幸せに生きるという意志でも、数十人の人間がいれば一つの国の電力を賄えてしまうほどのエネルギー効率を誇っている。

 これだけだと不老不死には繋がらないが、この技術の発達により、人間は進もうとする意志が歳を取るとともに弱くなってしまい、結果として老化していってしまう。故に、同じ進む意志を持つもののメルゲンを使えば、不老不死を実現できるのではないかという考えられた。

 結果を言ってしまえばこの考えは正しく、不老不死は実現され、俺たちは百何年も生きていけているのである。

 「ま、そんなことはどうでもいいわ。ヒヨコちゃんで遊ぶのはまた今度にしましょう」

 「できればその今度は一生訪れないでほしいです……」

 「で、今日はどんなご用事で?」

 「仕事よ、それも別の箱庭でのね」

 「ほーう、最近はコレクションの貸し出しとかばっかりだったから、出張依頼は久しぶりだな」

 「当たり前でしょ。今生き残ってる連中が、自分の箱庭内で起きたことをそんな簡単に他人に依頼すると思う?」

 「そりゃそうだ。それで、何をしてほしいんだ? 人形のファッションとかに関しては前に済ませたはずだが」

 「残念ながら、今回は私じゃないわ」

 「そりゃまた珍しい。リチェが他人のパシリに使われてるなんて」

 リチェはプライドが高く、他人は全員見下している。そこそこ仲がいい俺ですら聞いてもらったことがないので、本当に珍しいのだ。

 「まあ、旧友からの頼みだったからね」

 「お前がたかだか旧友からの頼みでねえ……」

 「あら、せっかく依頼を持ってきてあげたのに、何か文句でも?」

 「ありませんよーっと。それじゃあ出かける準備しますか。陽菜、お前も準備しとけよ」

 「……えーっと、所長」

 「どうした?」

 「私って、あまり箱庭の話って聞いたことないじゃないですか。だから、教えてもらえたらありがたいなーって……」

 「あー……そういえばそうだったな。まあ、過去のアホどもがやらかした戦争のせいで、俺たちが唯一生きていける場所になった場所、って覚えておきゃあだいたい大丈夫だ」

 「えー……」

 「まあ、大体その認識であってるしねえ……補足するのであれば、箱庭にはそこの管理人が作った機能があるってことぐらいかしらね。私のところであれば人形ちゃんたちが一生美しくあれるもの。星矢のところであれば忘れてたことを思い出し、忘れることができなくなるというもの」

 「相変わらず趣味悪いよな、お前の箱庭の機能」

 「あなたに言われたくないわよ、ここに来たら嫌な思い出も何もかも全部思い出しちゃうんだから」

 「でも、忘れてた楽しい記憶も思い出せるから実質チャラみたいなもんだろ」

 「全然チャラじゃないわよ、全く……ああ、ちなみに。あなたが行くことになる箱庭の名前は……ドキドキ! 私と恋しよマイダーリン!……よ」

 「ごめんなんて?」

 絶対にリチェの口から放たれたとは思えない面妖な言葉が聞こえたが、多分空耳だろう、空耳であってくれ。

 「ドキドキ! 私と恋しよマイダーリン!……よ」

 「ごめん、その依頼断っていい?」

 頭が湧いてんのかその箱庭の名前つけたやつは、今までも何人もの変人をさばいてきた俺でも、流石にそのレベルは関わるのすら嫌になるレベルだぞ。

 「あなたが言いたいことは分かるけど。私のメンツというものもあるし、顔だけでも見せに行きなさい」

 「何か不都合でもあるんですか?」

 「あー……そうね、ヒヨコちゃん。さっきの説明でちょっとだけ言い忘れてたことがあるから、更に補足させてもらうわね」

 「何でしょうか?」

 「箱庭の管理人になってるやつらは、大抵とんでもない変人ばかりよ」

 「え」

 そうなのだ、箱庭は内部に人が快適に過ごせるようになる機能やら、趣味と実益を兼ねたクローン作製などによりかなり電力を食う。なので、ライフハックを使って電力を賄っているのだが、こいつが中々のくせ者なのだ。一応クローンからでも電力は作れるのだが、それまでが厳しい、何せ人を作るのだから一人作るだけでも莫大な電力がかかるのだ。

 だから箱庭の管理者は一人でクローンを作れるまで電力を作らなければならない。だが、生命維持装置などにも電力を割かなければならないので、クローンを作るにまで至らない。その悪循環を打破できるのが人を作るほどの目的を持った管理人で、そういうやつは大抵頭のねじが外れているやつばかりなのである。

 「ま、というわけで頑張りなさいな。ちゃんとヒヨコちゃんをエスコートしてあげるのよ?」

 「気が向いたらな」

 「まったくもう、すーぐそういう意地悪言うんだから。ヒヨコちゃん、気をつけなさいよ? どんな危険があるかわかったもんじゃないから」

 「私どんな魔境に行くんですか!?」

 「それじゃ、ばいばーい。その子の箱庭まではいけるようにしておいたから、詳細は本人から聞いてちょうだいな」

 そういってリチェは入ってきた扉を潜り抜け、消えていった。

 「さてと、それじゃあ準備しますかね」

 リチェが去った後、何が必要になるか、依頼主がどういう人物か思い浮かべながら俺は飲み終わったマグカップを持ち、キッチンまで向かう。どうせ今回もいつも通り、いや。いつもより変人な管理人が待ち受けているのだから警戒ぐらいしておいて損はないだろうから。

 「ちょっと、大丈夫ですよね!? 私変なところに連れていかれませんよね!?」

 「さあ、それは相手次第さ」

 「そんなあ!」

 まあ、何にせよ。また俺の人生に新しい過去が刻み込まれるのはやはり楽しみで仕方ない。

 「さてと、今回はどんな面白い事件が待っているのかねえ」

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