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あなたに送る物語

あなたに読む物語

作者: 速水詩穂

 


「おう、廣畑。たまには外で遊ぼうや」

 顔を上げると、白い歯にまず目が行った。逆光、という訳ではないが、それほど楽しげにその肌は日焼けしていた。

「何読んでんの? げ。平家物語・・・・・・」

 その人は眉をひそめると、本の表紙から私の顔に視線を移した。ものめずらしげ、と言うよりかは気持ち悪がっている。私はというと、この人の「立場にそぐわない」反応に白い目を向ける。

「『よっぴいてひょうと放つ』のか?」

 ひそめた眉の向こう側が、少しだけ好奇の色に染まる。目の奥がキラキラし始める。なんとなく、嫌な予感がした。

「何、何、誰に? 誰に?」

 私はため息をついた。


「おう、廣畑。たまには外で遊ぼうや」

 顔を上げると、鼻の頭にまず目が行った。立体の最たる場所だから、という訳ではないが、それほど楽しげにその鼻の頭は赤くなっていた。

「違う。寝てる間に蚊にくわれたの。で、今日は何読んでんの? げ。雨月物語・・・・・・」

 その人は眉をひそめると、本の表紙から私の顔に視線を移した。ものめずらしげ、と言うよりかは気持ち悪がっている。私はというと、この人の「立場にそぐわない」反応に白い目を向ける。

「・・・・・・。・・・・・・あれだろ? 旦那が稼ぎに出ちゃって、その間に嫁さん死んじゃうの」

 なんというつまみ方だ。だしをとった後のにぼしのような哀愁が漂う。

「ダメだぞ、待ってるだけじゃ。行け。行け。・・・・・・おう、何だー。行く行く」

 クラスの女子が呼ぶ声がした。その人はそっちを向くと「じゃな、」と言ってひょいひょいと机の間をすり抜けて行った。

 私はため息をついた。


「おう、廣畑。たまには外で遊ぼうや」

 顔を上げると、髪にまず目が行った。特に短くなった、という訳ではないが、それほど楽しげにその色は明るくなっていた。

「紫外線って怖いよねー。丸一日外にいただけで、すぐ痛んじゃうの。ほら、俺の髪って細くて繊細だから」

 曰く「痛ん」だ髪は、もはや金髪に近い。

「で、今日は何読んで・・・・・・げ。源氏物語・・・・・・」

 その人は眉をひそめると、本の表紙から私の顔に視線を移した。ものめずらしげ、と言うよりかは気持ち悪がっている。私はというと、この人の「立場にそぐわない」反応に白い目を向ける。

「いいか、恋は現実でするものだ。本の中でもいいが、やっぱりたまには外出て遊んだ方が」

「公共の人を想っての嫉妬は」

 ぎゅっと手のひらを握り締める。この人は、何も分かってない。

「やり場のない不満に変わるから、嫌なんです」

「外に行こう」と言うのなら、傷つく可能性のある場所へ連れ出そうと言うのなら、

 最後まで責任とってよ。途中で手を離したりなんかしないで。ねえ、

「先生」



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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませて頂きました! 文章も上手くて、読みやすかったです。 個人的に、雨月物語が出てきて、嬉しかったです!
2019/12/30 19:12 退会済み
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