友と天馬騎士
8章 友と天馬騎士
狩人の少女、ミュウをメンバーに加え、『緋色の剣』のメンバーは鉱山へ向かう。鉱山を脱走し、騒ぎを起こした村でまじめに働くことになったカーボル達の情報によれば、鉱山の監督官の部下の騎士たちが巡回をしているそうだ。もしかしたら『人攫い』も兼ねているのかもしれない、とヴェルナントは思った。
「こういう状況でなければ景色を楽しめるのですけど……」
ティアーナの言葉で、そういえば余裕を持てていないな、と気づく。周りを見てはいるのだが、それは見張りのためだ。
「あ、この草、傷に擦りこむと治りが早くなるんですよ」
言うが早いか、ミュウは薬草を採集していた。
「大事だな。しばらく食い物も現地調達だ。見つからない程度に狩りや採集はやっておきたい。見回りにもなるしな」
メモを取りながらバーネットが頷く。地図に書き込んでいるようだ。
「軽いけがで竜石にも頼ってちゃ、魔力も貯まらない。塵もつもれば、なんとやらっと」
「バーネット」
マシアスが飛竜を降ろした。
「カーボルの情報によればもうすぐ彼らが脱走に使った出口があるが、そこから侵入するのか?」
「ああ、見張りがいないことを確認してからな」
「ここからは私も徒歩にしよう。フレンタスには少し離れてもらう。見つかってしまうからな」
「来るのか?荷物の受け渡しの方法の打ち合わせは終わったから、一旦帰るのも手だと思うが」
「もう少し付き合おう。鉱山周辺を見ておかないとな」
マシアスの飛竜は離れるように飛んで行った。どうやって呼び戻すのだろうか?
「ああ見えて彼女は賢いぞ。ベル」
「そういえばお喋りしてたんだったな」
あの飛竜ってメスだったんだな。
「それより」
いつものシズヤより大きめな声を出す。『緋色の剣』のメンバー全員が立ち止まった。
「助けを求めているものがおる」
「ベルとティア嬢を助けに行くときもそんな感じの言い方だったな」
バーネットがメモを直す。
「相手はわからないか?賊ならいいが、黒鱗隊にマシアスを見られるのは拙い」
テンベルクとのつながりをまだ見せる時ではないことは理解できた。
「それなら私は姿を見せずに不意打ちをかけよう。騎士の戦いではないからな」
柔軟に状況に対応できる彼はこの無茶な戦いになくてはならない人物だと改めて思い知る。
「アニキ、行きますか!」
リックが声を掛けた。
剣戟の音が聞こえる。炎も見えた。竜石だろうか。
「竜石が使われてるってことは」
「……不意打ちを狙おう」
マシアスは少し残念そうだ。
「敵の数と助ける相手を確認してくる」
バーネットが先行する。足音は抑えられているうえに、速い。少し先で止まった。その先が戦場だろうか?その先は少し開けた道のようになっている。先ほどより剣戟の音も強く響いた。
「……なんで天馬がいるんだ?」
バーネットは弓を構えながらつぶやく。しかしヴェルナントには見覚えのある天馬だ。
「エミ―……!」
飛び出したい気持ちを抑えるヴェルナント。バーネットの合図を待ってからだ。
「相手は5人だ。矢と同時に出ろ!一気に制圧する!」
一人を狙った矢が放たれ、ヴェルナント、ロック、リックが飛び出した。
ヴェルナントは死角から矢を受けてよろめいた相手を切り伏せた。トリエントの騎士のようだが、黒鱗隊ではない。
「なんだ、貴様ら!っぐっ!」
バーネットの二射目がトリエント騎士を襲う。ロック、リックもそれぞれの相手をしている。あと一人は……、
「ぐあっ」
炎に巻かれていた。襲われている側が竜石を使用していたのか。トリエント以外で竜石を正しく扱える者はそうそういないはず。……知り合いに一人いたな。
ヴェルナントは残りの2人を制圧し、見知った顔の2人と再会した。
「ヴェルナント様!ティアーナ様!こんなところで会えるなんて!助かりました!」
「エミ―、無事だったのですね!……話さなければならないことがあります」
天馬騎士の修行でストーナー家から落ち延びたときには不在だったエミ―だ。天馬が怪我をしている。それで逃げられなかったみたいだ。ティアーナの話の内容はエミ―の兄、カルスのことだろう。そして竜石の使い手は……、
「久しいな、ベル。エミ―と同じことを言うが、助かった」
「ああ、久しぶり。フリード。なんでこんなところにいるんだ?」
フリーデン=ザクセン。ザクセンの公子で、彼の母親はヴェルナントの叔母に当たる。そのような縁もあり、幼少の頃から見知った顔であった。魔法剣士にあこがれ、我流で竜石を使いこなすようになった。……貴重な竜石を使うな、と怒られている所を見てばかりいた気がする。真っ直ぐな性格で、ロマンを大切にする人物だ。
「端的に言うと、家出だ」
「……は?」
ヴェルナントは少し固まった。
『緋色の剣』のメンバーは騎士たちの武装解除と拘束を済ませ、戦場になった場所を少し離れ、エミ―とフリードの紹介と情報交換を行った。ザクセンの竜石を、早世した夫に代わり領主を務めているフリードの母が早々に教皇派に献上したこと。その後ストーナー家の領民の疎開先がザクセンからテンベルクに変更されたこと。それに反発したフリードがザクセンを飛び出したこと。それにエミ―がついてきたこと。哨戒していた鉱山所属のトリエント騎士に見つかったこと。以上が彼らの状況であった。ヴェルナントとバーネットははレジスタンスとして『緋色の剣』が立ち上がったことを説明する。
「兄は無事だと信じてます。今は、お二人のお側で仕えます!」
いつだってエミ―は前向きだ。天馬の傷を癒せれば、連絡役として活躍してくれるだろう。
「そういうことなら、私もメンバーに加えてくれ!うらやましいぞ、ベル!」
こういう話、好きだもんな。フリード。竜石を扱える人物は貴重だ。
「いつの間にか大所帯になっちまったな。今10人か。飛べるのが2人」
バーネットが呟いた。
「意外と華やかだよなぁ」
「天馬は初めて見たぜ」
「ヴェルナント様の知り合いの女の子……」
十人十色の言葉通りだ。いろいろな声が聞こえてくる。
「それで、彼らはどうする?」
マシアスがバーネットに尋ねた。
「鉱山に帰られたら俺たちのことがばれる。今はまだその時じゃない。非情なようだが」
「もはやこれは戦争、か」
せめて、苦しまないようにとバーネットが首尾よくとどめを刺した。簡単ではあるが埋葬を済ませる。
「……戦い、なんだね」
ミュウが呟いた。昨日まで狩人であった少女だ。人の命を奪った経験は、まだ無いだろう。
「今なら、まだ抜けれる」
「……大丈夫」
ミュウは真一文字に口を結ぶ。気のせいだろうか、一瞬、エミ―の方を見た気がした。
「……ここか?」
先頭を歩いていたフリードが立ち止まる。夕方になる前に鉱山の入り口の一つに着くことができた。松明か竜石を置く場所があるが、今は使われていないようだ。暗闇が口を開けている。
「廃坑の入り口なら上々だ。この辺りをさしあたっての拠点とする」
バーネットが宣言する。いよいよ鉱山を取り戻す『緋色の剣』の戦いが始まるのだ。陽は落ちようとしていたが、ヴェルナントの心は高ぶっていた。




