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竜血琥珀と運命の姉弟  作者: ワタリヤ
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野盗と狩人の少女

7章 野盗と狩人の少女


 テンベルク国境の町、ターミナを出発したレジスタンス『緋色の剣』のメンバー達。ターミナへ向かったルートを逆行して戻ることはせず、別なルートを使用して翡翠の鉱山を目指すことになった。鉱山とテンベルク間のルートは多数開拓しておいたほうがいい、というバーネットの判断である。マシアスは飛竜が目立つのでつかず離れず付いてくる。周囲の見張りも兼ねていた。


「……黒い煙、か?」


 煙を見つけたマシアスが言うには、この先に村があるそうだ。火事なのかもしれない。鉱山麓のラキ達の村の荒れようを思い出せば、鉱山周辺の治安の悪さは容易に想像できた。


「急ごう!」


 目の前の人々を助けられずに、『緋色の剣』がレジスタンスを名乗れるものか。


「一人なら乗せていけるぞ!誰が乗る?」


「……ベル、頼めるか?野盗かもしれん。俺は周囲の警戒をしながら皆を連れて行く」


 バーネットの提案にわかった、と頷く。


「無理はするなよ!」


 バーネットと残されたティアーナ達に手を挙げてマシアスとヴェルナントは黒煙の下へ急ぐのだった。




 ……なんで、あたしのウチが燃えてるの~!

 狩人の少女、ミュウは心の中で叫んだ。声に出さなかったのは、明らかに野盗にしか見えない男たちが燃える少女の家の前で高笑いしていたからである。仕掛けた罠の様子を見に行き、成果がなかったことにめげずに帰ってきたらこうなっていた。突然の火事に村の住人が外に出てきたが、野盗たちの姿を見て萎縮している。住人たちが出てきたのを待っていたかのように男は叫んだ。


「俺様は鉱山帰りのカーボルだ!竜石を使えばこんなことは朝飯前だぜ!まずはぁ、食いモンをよこしなぁ!」


 見せしめのためにあたしのウチを燃やしたの!

 ミュウの中に怒りが沸々と湧き上がる。手持ちの矢の本数と、弓の調子を確認する。どこから打ち込んでやろうかと、周囲を見渡した時、目の前にもう一人、ろくでもなさそうな男が立っていた。


「お嬢ちゃん、そんな危ないもんは持つんじゃないぜ」


 逃げる間も無く、手を掴まれる。弓は掃われてしまった。


「……」


 どうしてこうなっちゃうの……?

 少女は己の理不尽な運命を呪いたくなるのであった。




 煙に向かって急ぐマシアスとヴェルナントだったが、煙の発生源とみられる小屋と、その周辺の人だかりを認めた。


「野盗だな、ヴェルナント殿。……?」


「どうした?」


「まずいな。村人が人質になっているようだ」


 人質がいなければ飛竜で威圧して終わり、だったんだが、仕方ない。ヴェルナントは腹をくくった。


「人質を捕まえている男を不意打ちする。それまで引き付けてもらえないか?」


「了解した!」


 速度と高度を下げた。ヴェルナントは鞍から飛竜の足を伝って降りた。そのまま村に向かい、野盗たちの後ろに回り込むように動く。マシアスは上から威圧できるように高度を少し上げ、弓を警戒しつつ村に近づいた。

 さすがに野盗たちや村人も飛竜の存在に気付いた。


「竜騎士だ!アニキ、逃げよう!」


「一人じゃねえか!人質もいるんだ。手は出せねぇよ」


「こいつがちょうど弓持ってましたぜ」


「!」


 人質になった少女、ミュウは助けが来たことに安堵したものの、自分の相棒である弓が状況を悪くしていることに気を落とした。今日はつくづくついていない。こらえていた涙が溢れそうになる。今までの人生を思い出す。親を失い、村の人たちに支えられて猟師として必死に生きてきたのに、 世の中は理不尽だ。神様なんていないんだ。


「うぅ……」


 押し殺した嗚咽は煙とともに流されていった。



「……一人が女の子を羽交い絞め、もう一人が斧をその子に突き付けている。残りの2人は弓と斧でマシアスを牽制、と」


 確認するようにヴェルナントは呟いた。


(短剣を持っていないのか?都合はいいけどね。)


 音を立てないように、なおかつ急いで野盗たちの後ろに回り込む。マシアスを視界にとらえる。剣を抜き、鞘も腰から外した。二回、剣を上下させて合図する。マシアスが野盗たちに呼びかけた。


「放火は重罪だが、村人を傷つけていないなら酌量の余地はある。……人質を解放し、武器を捨てよ」


 マシアスの飛竜も騎手に合わせて威嚇をする。

 これで済めばいいのだが……、人質を放す様子も、武器を捨てる様子もない。


 仕方ない。


 ヴェルナントは静かに間合いを詰め、一気に踏み込んだ!




 少女の耳を空気の切り裂かれる音、金属がぶつかる音が突き抜ける。

 少女の瞳に砂煙と、獣を思わせる影と、火花が映り込む。

 自分に向けられていた斧が弾き飛ばされ、地面を滑っていく!


「うおおっ!?ぐあっ!?」


 斧を向けていた男は雄たけびを上げたが、低い姿勢を崩さない影によって脛を打たれたようだ。足を押さえて倒れこむ。

 

「なんだぁ?」


 少女を羽交い絞めにしている野盗はまだ何が起こったのか把握できていない。ミュウのほうが一瞬早く行動を起こした。具体的に言うと、野盗の腕に噛みついたのだ。


「この、アマぁ!」


 そして、その隙を見逃す獣ではなかった。相手の脛にまたもや一撃。


「ぐぅう―――」


 うずくまる野盗はこれで2人目だ。ここで影は剣を構えた男だとミュウはようやく気付く。男はミュウをかばうように動き、残りの野盗に剣を向けている。


(……あれ、この状況って、あたし、助かっちゃう?)


 弓を構えていた男も騎士によってのされており、残りはカーボルと名乗っていた男一人になっていた。


「もう一度だけ言おう。武器を捨てよ。我々の仲間も到着するぞ」


 騎士が呼びかける。


「……くそっ。煮るなり焼くなり、好きにしやがれ!」


 カーボルは乱暴に斧を地面に叩きつけた。




 その後、程なくしてバーネットたちは到着した。


「ベル!マシアス!もう終わってんのか。……こいつらか?煙の原因」


(ふーん、ベルと、マシアスっていうんだ)


「ああ、煙は竜石を使って起こしたものみたいだ」


「ヴェルナント、怪我はないですか?マシアスさんも」


(剣士の人がベル、ヴェルナントっていうのか。たいそーな名前。て、ゆーか、キレーな女の人……)


「平気です。姉上。それよりこの野盗たちに人質にされていた少女がいるので、姉上からも声を掛かけてください」


(あ、お姉さんだったのか、ちょっと安心。名前と言葉遣いからして、もしかして、お貴族さま?)


「まあ、腕に噛みつく度胸があるので、大丈夫だと思いますが」


「余計ですよ。ヴェルナント」


(ホントにね!あ、キレーな人がこっち来た)


「大丈夫でしたか?弟が失礼なことを言いました。申し訳ありません」


「い、いえぇ!だいじょーぶですっ」


(声裏返った……)


 ミュウはティアーナと話始めようとしたが、


「アンタ、カーボルじゃねえか!なんでこんなことしてるんだよ!」


 鉢巻きをした男2人の声に中断されてしまった。


「リック、ロック、知り合いか?」


 バーネットが尋ねる。カーボルのほうも呆気にとらわれているようだ。


「ええ、鉱山で一緒に働いていましたし、結構面倒見がよくて慕われていたんですよ。確か食いもんを盗んで鉱山に入れられたって。ほかの3人も顔は知ってます。よくつるんでた奴らですね」


「おれは脱走したおめーらを見てびっくりしてるよ。くたばったもんだと思ってたぜ」


(そういえば鉱山帰りだとかなんとか言っていたわね)


「つまり、脱走したはいいが、住むところも食いものも無いので野盗になったのか?」


 ヴェルナントの質問に、少し間を置き、ばつが悪そうにカーボルは頷いた。


「なぁ、ベル、ティア」


 バーネットは2人に相談を持ち掛けた。


「……私としてはそうしてもいいと、思います」


「姉上もそう言っているし、これからのことを考えると必要なことだと思う」


 了承を得たバーネットは、カーボルに取引を持ち掛けた。


「……竜石でケガは直してやるから、鉱山の状況と脱走ルートを教えろ、だと?」


 野盗だけではなく、村全体がざわつく。竜石による治療の奇跡は竜神教の司祭に多額の寄進をしたうえで施されるものだからだ。


「……一人分、まずは治療しよう」


 ティアーナが子守歌を歌いながらペンダントを近づけた。ヴェルナントが剣を叩きつけた野盗の脛が治っていく。


「す、すげぇ……。ホントに治った……」


「……わかった、話す、全部話す」


 観念したようにカーボルは鉱山の脱出前の状況と、今回彼らがたどったルートを話し始めるのだった。




「俺がロックと脱走した時より、状況がひどいですね。そんなに時間が経ってないのに」


「飯もロクに食えねぇ、病気しても治療もしねぇ。閉山して隣の山に移ればいいのに、監督者どもは自分たちの取り分を減らしたくないからなにもしねえ。やってられるかってんだ!」


 治療ついでに、村にいくらかの金銭を払い、食料を分けてもらい、カーボル達にも与えると、鉱山の状況への文句とともに情報を引き出すことができた。


「……少しつつけば何とかなるんじゃないか?油断してるわけじゃないが」


 ヴェルナントのつぶやきにバーネットは考え込む。


「鉱山の監督の居所に急襲をかけるなら、なおさら鉱山の中を把握しないとな。それと、こいつらの扱いはどうする?マシアス」


「一応、村人は無事だった。燃えた分の小屋を建て直させ、しばらく村の中で労働に従事してもらう。鉱山とテンベルクを往復するついでに、様子は見よう。この村には働き盛りが少ないようだ。鉱山にとられているのか……」


「食い物が出るんならありがてぇ。鉱山よりはきつくないだろうしな。……譲ちゃんも、悪かったな」


 カーボルのこの様子ならしばらくおとなしくはしているだろう。ヴェルナントはミュウのほうに振り返った。


「君は、……名前を訊いてなかったな」


「あ、……ミュウ、です」


「ミュウ、さっきは隙を作ってくれて助かった。あの小屋が寝床だって聞いたけど、建て直してはもらえるから。その間は村の人にお世話になってくれ」


「その話なんですけど」


 ミュウは一呼吸入れて、


「あたしも連れてってください!いつか村は出ようと思ってたんです!弓と罠なら自信があります!お願いします!」


 一気に捲し立てる。ヴェルナントは気圧されているが、断る理由をめぐらせていた時、


「よかろう!女子は歓迎じゃぞ」


 今まで気配のなかったシズヤがいた。なにをしていたんだとヴェルナントは尋ねたが、


「目立ちたくはないからの。マシアスの飛竜と話しておった。アイツ、おせっかいじゃな」


 その行動は十分目立つのではないかと思ったが、結局ミュウも『緋色の剣』のメンバーとしてついてくることになった。この村で一夜を明かすことになったが、夕飯は彼女が狩った獲物が振舞われた。


「よろしくね!ヴェルナント様!」


 ミュウの笑顔の朗らかさに、ヴェルナントは少し気を緩めるのであった。

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