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竜血琥珀と運命の姉弟  作者: ワタリヤ
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教皇カルレオ

5章 教皇カルレオ


 トリエント王国の王都エンテディアの王城の中で、空の玉座の前に新たに置かれた豪奢な椅子と机。教皇カルレオはそこに居た。名目上、空位の間は王の代理として政を取り仕切る、としているのでカルレオが玉座に座ることはないであろう。しかし、玉座に座る者が現れることもないだろう。すでにトリエント王国の実権はカルレオの手中なのだ。


「さすがに全て順調、というわけにはいかんか」


 カルレオは一人、呟いた。2日前にストーナー家を襲撃させ、緋色の竜石の簒奪とストーナー家の人物の身体の回収を命じた。緋色の竜石の所在は今も知れず、レイオン自身は結局、服毒して使い物にならなくなった。竜石とともに行方の知れない2人の跡取りを見つけられれば、カルレオの目的は果たせるだろうが。


「相変わらず、あの男は」


 あの男とは、当代の『黒の魔剣』に指名したヴォルテイルのことだ。『黒の魔剣』の主は実はカルレオのままである。しかし、剣を振るうようなことはせず、カルレオが指名した人物に『黒の魔剣』の力を使わせることができた。カルレオ同様、老化の抑制、魔剣による強力な魔法の行使を行えるようになる。資格を持つ人物以外にはただの非常に重くて使いづらい大剣である。

 ヴォルテイルを指名したのは剣士としての実力、軍団の指揮能力とカリスマを評価したからである。決闘を好む性格で、決闘をする環境作りのために『黒の魔剣』を使用することもある。結果として、魔剣の魔力の消費は抑えられているようなのでカルレオはヴォルテイルの好きにさせていたが、今回はそれが裏目に出たようだ。


「もう少し、もう、少しで私は」


 カルレオは思い出す。


「神、同然の存在に」


 100年以上前に、自分に『竜神』が降りた日のことを。




 120年前、若かりしカルレオはまだ鉱山として認識される前の翡翠の山に来ていた。商人の駆出しであった彼は竜石を求めてここに来たのだ。戦乱の時代であった。有用な力を持った竜石は高値で取引され、戦場で数多の命とともに砕け散っていった。


「……しまったな。地図にない場所に迷い込んでしまった」


 竜石を求めてやってきたカルレオだったが、節約と独占のため護衛や案内をつけずに来た代償を払うことになりそうだ。もう日が暮れる。野宿をするために適当な洞でも探さなければ。しかし、足を滑らせ、転んでしまった。いくつか見つけた竜石や採取物が散らばる。怪我をして血も出ているようだった。


「くそぅ……」


 拾いながら悪態をつくも、むなしく夕闇に吸い込まれていく。


「ない……」


 一番価値のある竜石が見つからない。少し焦ったが、竜石のぼんやりとした光を頼りに見つけることができた。少し離れたところまで転がってしまっていたようだ。足早に駆け出す。竜石の光が突然消えたように見えた後、足元が突然、崩れた。


「う、おぉっ?!」


 足の裏の、地面の下からの衝撃!何が起こった!自分が落ちていることが解る!―――助からない。


「ご、ふっ、……」


 砕ける音とつぶれる音が同時にカルレオの中で響いた。カルレオは即死できなかった自分の悪運を呪った。意識もある。


「……ぅ」


 皮肉にも良質の竜石が大量に眠っていることを示すぼんやりと光る鉱床に囲まれている。カルレオは自らの血の温度を感じながら、目を閉じる。そのとき、頭の中にはっきりと『声』が響いた。



   チエト チカラト イノチヲ カシアタエル


   ワガ テアシトシテ シタガエ


 

 どれほどの時間が経っただろうか。カルレオは目覚めた。五体満足で、身体のどこにも異常はない。しかし、知らないはずの知識を有していた。竜石の魔力を癒しの力として使用する方法。効率よく竜石の魔力を引き出す方法。ほかの竜石から魔力を引き出し、収束させる方法。傍に置いてあった黒い竜石。どうしてこのようなことになったのか、カルレオはこのように理解した。


「……神が私を選んだのだ……」


 当時、竜石は身に着けていると暖かく、戦場での病死を避ける呪いのようなもの、火の中にくべるとよく燃えるもの、として理解されていた。そのような状況の中で、竜石の使用方法の知識をもったカルレオが重用されるようになったのは当然のことであった。どのようにしてその知識を知ったのか?という質問に、「神から授かった」と答えるようにしていたが、そう答えながら竜石で人を癒すカルレオは次第に人々の尊敬を集めるようになった。

 そして、後のトリエントの初代国王となるヘイルの下で、統治の都合という理由を挙げ、竜神教を起ち上げたのであった。そのころにカルレオは気付く。


「老化が遅れている……?」


 これも神からの贈り物か。思えばあの日以来20年ちかく病気知らずだ。……たまに、頭に響く声以外は。



   イシヲ アツメロ


   フタツノ ヤマヲ キリヒラケ



 10年近く、新月の日に頭に響く声。あの日と同じ声。神の声。その声は鉱山として翡翠の山、橙黄の山を開発することがトリエントの政策として決定したとき、聞こえなくなったのであった。

 それから何年か間隔を置いて、神からの声はカルレオの頭に響いた。『黒の魔剣』の制作もその声に従って成された。トリエント建国から100年近く経ち、ヘイル4世の時代にも声は響いた。



   シアゲダ 


   ヘイルタチノ チト イシヲ ササゲヨ


   コンドハ アタエル


 

「120年前は貸し与える、でしたな。神よ」


 100年近く竜神教の最高司祭として君臨し、トリエントの政を裏から操ってきたカルレオは、神同然の存在になれる、と確信し、ヘイル4世を陥れた。





「……」


 現在。カルレオは物思いに耽っていた意識と目を開き、状況を振り返った。。ここにきて鉱山の採掘量の急減は埒外であった。老いが遅れているとはいえ、100年も過ごせば多少は年を取った、という自覚はある。常人の年齢に直せば50過ぎ、といったところか。

 陥れ、血を捧げたヘイル4世はすでに高齢であったから、贄としては不十分であったかもしれない。血を捧げた黒い竜石は血をすべて吸い取ったが、何も起こらなかった。ここにきて躓きたくはなかったので、服毒して死んだ、ヘイル1世の弟の血統に当たる、レイオンの死体は使えなかった。……彼がどのようにしてヘイルの血統を引く者の血を求めている、と知ったことも気になる。


「……あせることはない」


 自分にいいきかせるように呟く。まだ、ヘイルの血統を引く者はいる。ストーナー家の、ヴェルナント、ティアーナ。二人とも若く、贄として申し分ないだろう。そして、先日竜石を献上し、領民の安全の保障を求めたザクセンの女領主の一人息子、フリーデンス=ザクセン。早々に竜石の献上を決定した母に反発し、わずかな部下と国を飛び出したと報告があるが、捕まるのも時間の問題だ。


「……?」


 神の声を聴いたあの日から身に着けている黒い竜石が震えた気がした。新たな神の言葉だろうか?しかし、何も聞こえない。カルレオは再び思索に戻った。

 王城の外では今にも雨が降りそうな空模様であった。

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