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竜血琥珀と運命の姉弟  作者: ワタリヤ
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飛竜の国

4章 飛竜の国へ


 トリエント国内の主流派となった教皇カルレオ一派の横暴を止めるため、鉱山を開放する活動を開始したレジスタンス『緋色の剣』。これからの活動の方針としては、教皇派の私軍にして主力である黒鱗隊の目を『緋色の剣』から逸らしながら鉱山を搔き回すことになった。これから黒鱗隊とぶつかることになるであろうテンベルク国境の様子を探るべく、『緋色の剣』のメンバーは移動していた。非戦闘員であるラキたちを預けるためでもある。ヴェルナントはテンベルクに来たことはない。険しい環境で、飛竜騎士を主力とした軍編成、竜石の力に頼ることをあまり好まず、ほとんど他国との交流もない、というのがヴェルナントの知識の中にあるテンベルクという国であった。父であるレイオンは伝手があったようで、今回のストーナー家領民の疎開は条件付きで受け入れてもらっている......といったところで思い出した。


「姉上、今までの出来事ですっかり頭から抜けていましたが、領民の受け入れ条件にストーナー家の緋色の竜石を譲渡すること、がありましたよね?」


「そういえばそうでしたね。……どうしましょう?シズヤ様の話ではこの竜石は必要になるでしょうし」


 疎開した領民を追い出されてしまってはどうしようもない。バーネットに相談することにした。


「……そうか、そういうことになっていたんだな。領民の疎開ならそのくらいの条件になるか。テンベルクは領主階級に知り合いがいるから何とか話をつけるしかないな。その緋色の竜石とシズヤは一緒にしなけりゃならない」


 どこかの密偵だとは思っていたが、やはりテンベルクか。


「シズヤとティア嬢はラキたちとテンベルク国内に残ることになれば俺たちも動きやすくなるが、鉱山内で竜石を集めるときの効率を考えるとシズヤは連れていきたい。話の分かるヤツが出てきてくれればいいんだが」


 ぼやきながらバーネットは足を進める。川が見えてきた。監視の目にかかるかもしれないと考えると、橋を使うことはためらわれた。昨日隠しておいた船を見つけた。特に壊れてもいないようだ。周囲を見渡し、3往復してようやく全員川を渡り終えた。険しい岩だらけの平野だ。さらに歩いてテンベルクを目指す。


「なあ、アレは飛竜か?」


 リックが空を見上げる。確かに何か飛んでいる。国境付近を監視しているのだろうか。ラキは少しはしゃいでいるようだが、ミミは少し怯えている。シズヤは空を一瞥した後、前を向いた。彼女は竜の少女だ。なにか思うところがあるようだ。


「そろそろテンベルクとトリエントの国境、ターミナだ。それなりの町にはなっているし、戦争状態に近いから検問もあるだろう。なんでテンベルクに来たのか、と訊かれたら、鉱山に労働者としてさらわれそうになったので、と答えてくれ。実際に起こっていることだしな」


 バーネットが歩きながら打ち合わせを始める。しかし、先ほどの飛竜が下りてくるようだ。襲撃、ではないようだ。ゆっくりと影が大きくなる。行く手に立ちふさがるように飛竜が着陸する。目の前で飛竜を見るのは初めてだ。天馬より大きい。バーネットはゆったりと構えている。騎手が降りてきた。降りるなり顔をほころばせた。


「生きてたのかぁ!バーネット!」


「なんとかな。随分と久しぶりに思えるぜ。マシアス」


「後ろの連れは?ガキも女もいるとかどういう状況だよ」


「町についたら話す。歩きづめなんでな」


 マシアスと呼ばれた竜騎士はヴェルナントたちの顔を一人ひとり確認し、案内をするように少し先をゆっくりと飛んだ。ちなみに子供の足ではつらいだろうと、ラキ達を乗せようかと提案してきた。はしゃぐラキと、兄といるか、空への恐怖におびえるかで前者を選んだミミが飛竜に乗ることになった。シズヤは遠慮した。


「飛ぼうと思えばわらわも飛べるのじゃ」


「もしかして高いところが怖いのか」


 シズヤがヴェルナントを睨む。


「……おいていきますよ」


 いつの間にか最後尾になっていたようだ。シズヤは小走りにティアーナの左手を掴んだ。はじめからティアーナにずっとなついているな、とヴェルナントは思った。


 


 しばらく歩くと、2つ並んだ巨岩を利用して作られた剛健な門が現れた。上のほうは物見になっており、弓を構えた兵士が数人。2匹の飛竜がいる。飛竜を伴った来訪者は珍しくないようで、そつなく検問はこなされていった。いくつかの質問に打ち合わせ通り答えた後、入国を許されることにはなったが、ヴェルナントとティアーナが竜石を伴ってきたので、詰所でさらに詳しく話をすることになった。

 

「まさかストーナー家の生き残りとはな。黒鱗隊につぶされたと昨日報告があったばかりだ」


 マシアスが言う。ティアーナは少し目を伏せた。それを見たマシアスが自分の発言の至らなさに気づき、バツの悪そうな顔をしている。悪い人間ではないのだろうということがよくわかる。仕事の顔に戻ったようだ。少し咳ばらいをして、


「……事情が事情なので、町長であるメリテス様が来ます。話しづらいことがあるとは思いますが、必要な手続きですのでよろしくお願いします」


 ほどなくして女性が入室してきた。この女性がメリテス町長だろうか。その後ろに、もう一人よく日に焼けた顔の壮年の男性がいる。バーネットが意外そうな顔をしている。こんな顔もするんだな。


「……アルクイン王?!」


 ……王だって?目の前の男が『竜騎士の王』なのか!血だらけのこんな格好で会うことになるなんて。そんなことをヴェルナントが考えていると、


「よく生きて戻ってきた!バーネット!訊かねばならないことがたくさんあるようだな。そしてストーナー家の2人もよく来てくれた。……レイオン卿のことは残念であったが、そなたらの領民の安全ついてはテンベルクは全力を尽くすことを約束する」


 力強い声が部屋を包む。王とは特別な存在なのだ、と改めて思う。テーブルを囲むのはアルクイン王、メリテス町長、バーネット、ヴェルナントとティアーナ、そしてシズヤである。マシアスは部屋のドアの前に立った。ヴェルナントは説明を始める。

 感謝と挨拶を述べた後、黒鱗隊が『黒の魔剣』を伴い襲撃してきたこと、竜石が起こした奇跡、鉱山麓の村の状況を説明した。アルクイン王は頷きながら聞いている。


「テンベルクでも多少の竜石の研究はしていたが、ストーナー家からもたらされた研究資料はこちらの知らなかったことばかりだ。残りの資料が黒鱗隊に接収されたとすると多少拙いかもしれんな」


 反芻を行うように確認する。


「鉱山の状況はバーネット達の報告書にあった通りだな。竜石が急速に枯渇、労働環境もそれに伴い劣化、労働者の事故、逃亡が増え、各地で人攫い同然の労働者の徴収が行われている」


 ……バーネット達?いや複数で偵察することは当然か。


「カルレオ達がしようとしていることは思い当たることはある。しかし、各地の有力者を攻めてまで竜石を集めようとしているのは異常だ。止めなければならん」


 アルクイン王はバーネットに顔を向けた。


「バーネットの前回の報告と今回の話から、鉱山を教皇派から解放できれば状況は有利になると判断する。前回の苛烈な任務を考えればそなたは休ませるべきだが、状況はどう転ぶかわからん。またトリエントへ情報を収集してほしい」


「そのつもりです。そのことについてお話をしようと思いまして」


 バーネットは答える。


「こちらの少女はシズヤといいます。……彼女は、竜です」


 『緋色の剣』以外のこの部屋にいる人物の表情が変わる。シズヤは珠を抱えたまま目を瞑っている。


「前回の任務中、私は瀕死の重傷でしたが、彼女の治療の奇跡により九死に一生を得ました。彼女の占いではストーナー家の人間と、緋色の竜石がこれからの運命を握るとあり、私たちは逃亡中である彼ら2人を助けたのです」


 バーネットをそこまで追い込んだのはやはり黒鱗隊なのだろうか?


「ストーナー家の領民を受け入れる条件に緋色の竜石の譲渡がある、と聞きました。どうやらその竜石をシズヤのそばに置き、他の竜石から魔力を込めることで『黒の魔剣』に対抗できる可能性が生まれるようです」


 バーネットの意見にアルクイン王の表情が動く。……笑みを浮かべた。


「……バーネット、策があるなら簡潔に申せ。どうしたいのだ?」


 バーネットも同じく笑みを浮かべた。


「私たちは『緋色の剣』というレジスタンスを起ち上げました。鉱山に探りをいれつつ、シズヤの占いの力で竜石を採掘、緋色の竜石に魔力を込める。その間、黒鱗隊の目はテンベルク軍のほうで引き付けていただきたい」


「……なるほどな」


 しばらくアルクイン王は黙り込む。考えているようだ。そして、ティアーナとヴェルナントのほうを見て、


「緋色の竜石の譲渡に関してはレイオン卿から申し出たこと。テンベルク国内にあると黒鱗隊に知られていれば、引き付けることに関して都合はいいだろう。その場合の前線はこの町になるだろうが……」


 メリテス町長のほうを見ると、彼女のほうも考えをまとめていたようだ。


「その場合、疎開してきた領民の護衛についていたストーナー家の騎士たちに働いてもらいたいものですが」


「もちろんです!」


 ヴェルナントは即座に返事をした。なお、その際派手に立ち上がり、部屋に椅子の倒れる音を響かせてしまった。シズヤがくっくっと笑い声を噛み殺し、ティアーナは赤くなり、うつむく。


「……失礼しました」


 ヴェルナントは椅子を戻した。雰囲気が少々和らいだ気がするのは思い込みだろうか。


「方針は決まったな」


 アルクイン王が場を締める。


「レジスタンスとテンベルク間の連絡の方法、宣戦布告のタイミングなど詰めなければならない部分はまた後で決めて報告せよ。この場では以上だ」





 その後、『緋色の剣』のメンバーはラキ、ミミ以外は再び鉱山へ向かうことになった。本音としてはヴェルナントはティアーナにターミナの町に残り、ストーナー家の騎士たちの傍にいてほしかったのだが、


「ティアはわらわの傍にいるべきじゃ。緋色の竜石もな」


 シズヤの一存でティアーナもついていくことになった。リックとロックは喜んでいる。潤いが人生には必要だ、と2人とも同じことを述べた。確かに、ティアーナしか緋色の竜石の癒しの奇跡を引き出せていない。負傷もあるであろうことを考えれば、と前に気持ちを向けることにした。

 『緋色の剣』とテンベルクの連絡はマシアスが行うことになった。連絡以外にも調味料など鉱山での生活に必要なものを持ってきてもらえることになった。食料自体は現地調達だ。衣服や装備などを整える。やっと着替えることができた。そして、ストーナー家の従臣たちと再会を喜んだ。……カルスのことを思うとヴェルナントとティアーナの顔が曇る。それを悲しむことはない、と言う従臣たち。


「死んだと決まったわけではありませんし、彼は義務を果たしたのです。我々がカルスの分もはたらきます。なんなりとお申し出ください」


 ストーナー家を必ず再興させなければ、とヴェルナントは決意を新たにするのであった。


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