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竜血琥珀と運命の姉弟  作者: ワタリヤ
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『決闘』

21章 『決闘』


 後に黒の神竜とよばれる竜との戦いを終えたレジスタンスと諸国の連合軍は戦後の復興に追われることになる。ヴェルナント達ももちろん例外ではない。しかし、その前にヴェルナントには終わらせておかなければならないことがあった。


「『決闘』を明後日の昼過ぎに申し込みたい」


 ヴェルナントはヴォルテイルに『決闘』を申し込んだ。


「もちろん、受けよう」


 二つ返事でヴォルテイルも答える。お互い忙しい身になることはわかっていたことだ。王都の荒れようでは、今生の別れになるかもしれない。


「剣は」


「もちろん『緋色の魔剣』を」


 そう言ってヴェルナントは2振りの『緋色の魔剣』を差し出す。どこまでも楽しめそうだ、とヴォルテイルは口角を上げた。以前渡されたほうを選ぶ。どちらもヴェルナントの血液と緋色の竜石から生成されたものだったが、長さや重さは異なるのだ。

 その一部始終を聞いていたのは紅茶を用意し、持っていこうとしていたレジーナだ。


(……どうしましょうか)


 給仕をこなしながら、レジーナは思案するのであった。




 『決闘』の時はすぐに来た。仮設の陣中に決闘用のスペースを作り、少なくない見物人もいる。ヴェルナントとヴォルテイルの二人が決闘するとなれば隠し通すことはできない。レジーナは『決闘』とはいえ、もう殺し合うこともない、と衆人環視、治療の体制を整えたうえでの『決闘』を提案したのだ。


「お二人ともこれからの大陸フレイスに必要な人物です」


「……これからの、か―――」


 これから、という言葉に遠い目をしたヴェルナントに、レジーナは少し違和感を感じるのであった。


「これ、なんか賭けていいのか!」


「銭や竜石はだめだ! 晩飯の肉だけだってよ」


「んだ、そりゃ」


「……悩むな。どっちにするか」


「ベルも強くなったと思うが、前回の手合わせからそこまで間が空いてはない。厳しいだろうな」


「もちろん、我が将軍たるヴォルテイル卿だ」


「……ヴェルナント殿に」


 かつての敵味方も混ざって大盛況だ。祭りか何かと勘違いしてるんじゃないかとヴェルナントは思った。ふと見回すとティアーナとミュウが心配そうに見つめている。シズヤが姿を消したとはいえ、緋色の竜石の魔力が無くなったわけではない。ティアーナがいればたとえ重傷を負っても治療はできる。ある意味で遠慮なく殺し合いができるということでもある。これ幸いとヴォルテイルは本気で殺しに来るだろう。


「ベル。あなた、なんでこんな時に決闘をするだなんて……」


「お互い忙しい身になりますので、今生の別れになるかと思いまして」


「……まだ彼が憎いのですか?」


「姉上は?」


「―――戦場の倣いではありますが、少しも憎くないというのは、嘘になります」


「私も同じです。ヴォルテイル卿には一矢報いなければ、私たちは後ろ髪を引かれながら進むことになるでしょう」


「……。―――ベル」


「はい」


「……勝ちなさい」


「……見ていてください」


 ストーナー家の屋敷を追われる前は、ヴェルナントと同じ目線で話していたティアーナだったが、今は少し顔を上げなければならなくなっていた。


(……今になって気が付くなんてね)


 もっと、ゆっくり話をする時間をとらなければ、とティアーナは思うのであった。


「ミュウ」


「……ベル。……ずるいよね、男の人って」


「……すまない。あと、ありがとう」


 ヴェルナントは自らの寿命のことは誰にも話さなかったが、一昨日の夜、ミュウには打ち明けた。この決闘が終われば『緋色の剣』のメンバーやアルクイン王など主だった人物には知らせるつもりだ。


「ケガしないでね。とにかく、それだけ」


「ああ!」


 踵を返した瞬間に、ヴェルナントの表情は戦士のかおになる。剣を抜き、正面にいる騎士の前に立つ。


「……もういいのか?」


「お待たせしました。―――ヴォルテイル卿」


「多少、騒がしくなったが、我々には関係のないことだ」


 二人の剣士が、剣を構える。群衆は静まり返ってしまった。レジーナが前に進み出る。レジーナは間に立ち、四歩下がった。レジーナは手袋を外し、頭上に構える。


「僭越ながら立会人を私、レジーナが務めさせていただきます。この手袋が落ちた瞬間を合図といたします。……では」


 レジーナは手袋を放した。軍人用の手袋は風にあおられることなく地面に落ちていく。―――甲高い金属音が響き、空気が引き裂かれた。


「残念……」


 初手からヴェルナントは踏み込み、蹴り足で地面を穿った。ヴォルテイルはそれに反射的に迎撃した。ヴォルテイルの脇腹の鎧は弾き飛ばされ、地面を跳ねる。撃ち貫く突きではなく、踏み込みと同時の切り払い。ヴェルナントとしてはこれで決めたかったのだが。


((石畳であったら))


 若く、しなやかさが残る身体であるからできた芸当であろう、とはヴォルテイルの見立てだ。突きではないとこれまた反射的に身体が反応し、脇腹への致命的な一撃を避けることができた。


(至福の時間を終わらせる気は、まだない)


 ヴォルテイルはじっくりと間合いを詰めていく。ヴェルナントからどんな技が繰り出されるか見てみたい。できれば、彼のすべてを引き出し、それを上回りたい。彼はそう願っていた。


(あの時と同じく、受けの体制か……)


 ヴォルテイルの気配からそれを感じ取ったヴェルナントは、レイオンとの訓練で叩き込まれた剣技を「披露」した。あえて、間を作りヴォルテイルに見せつけるようにする。ヴォルテイルにとって反撃はたやすいはずであったが、その様子はなかった。


(……一通りは見せることができた)


 間合いを取り、ヴェルナントは剣を構え直す。それを合図にしてヴォルテイルが斬りかかってきた。折れることのない魔剣で激しく斬りあい続ける両名。しかし、終わりは訪れる。透き通るような音が響き、剣が空中で弧を描いて、地面に突き刺さった。


「……」


 剣を弾かれ、肩で息をするヴォルテイルに、剣先を突き付けるヴェルナント。ヴェルナントも肩を上下させていた。


「―――そのまま、突き刺すがいい。ヴェルナント殿」


 レジーナの表情が固まる。その瞬間、二振りの『緋色の魔剣』は霧散し、風に乗って消えてしまった。ざわつく観衆。


「なんだなんだ!?」


「決着か!」


 ヴェルナントはそのままヴォルテイルに近づく。


「父のことを気にしているのなら、貴公には頼みたいことがある」


「……聞こうか」


「我が家の剣技、貴公に受け継いでほしい。私は長くて三年しか生きられぬそうだ」


「―――承った」


 どちらからでもなく、手を差し出す。がっちりと握手が交わされる。その瞬間、爆発したかのように見物人は歓声を上げたのだった。 

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