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竜血琥珀と運命の姉弟  作者: ワタリヤ
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新月の夜

10章 新月の夜


 竜石の発掘から一夜明けて、別な場所の竜石を採掘するために拠点を移すことになった。テンベルクとの連絡を担当している天馬騎士、エミ―と合流するため『緋色の剣』のメンバーはミュウの村に向かっていた。道中では鉱山の見張りに見つかることもなく、陽が落ちる前に村にたどり着くことができた。


「よお、やっぱアンタそうやって働いているほうがいいぜ、カーボル!」


「てめぇらこそ、もう戻ってきたのかよ!」


 リックと、元野盗で今はこの村で働くカーボルが軽口を叩き合っている。カーボルが燃やした小屋も建て直されていた。


「仲間と合流してまた明日出発だ。一緒にメシにしないか」


 村人の話によると、まじめに働くし、意外と器用で助かっているらしい。今度は作物の収穫を手伝うそうだ。さて、夕飯の準備だ。今日はうまく獲物を得られるだろうか……。




「また、明日頑張りましょう!」


 今日の狩りもミュウに付き合ってもらったが、昨日の今日で劇的に技術が向上するわけもなく、成果はなかった。


(一人でうまくいくようになったら、こうして一緒に居られなくなるかもしれないし)


「?」


 ミュウが一人で微笑んでいるので覗き込む。ヴェルナントの注目に気付いた彼女の表情がはっとしたものに変わる。見ていて飽きないな。……本来はこの村で穏やかに暮らすはずだったのに、こうしてついてきてくれている。ミュウのために、自分にできることはあるだろうか。


「も、もうすぐ村に着きますよ!ヴェルナント様」


「……ベルでいいよ。みんなそう呼んでるし」


「え」


「……なんでもない」


 恥ずかしさが勝ってしまって、ミュウより速足で歩きだす。心臓の鼓動は、その足より速かった。




 夕飯のときのバーネットとの会話は、鉱山の支配組織についての内容だった。翡翠の鉱山の総督はデカルテス、橙黄の鉱山の総督はコルベールといい、教皇派から派遣された竜神教の高位の司祭だそうだ。教皇派から課せられた竜石のノルマを達成した後は蓄財に励んでいたが、最近の竜石の枯渇でノルマの達成が厳しくなり、労働者の締めあげと財産の切り崩しをしながら鉱山の運営をしている。


「総督の身柄を確保できれば鉱山は制圧できるのか?ため込んだ竜石はそのまま接収できるだろうか」


「鉱山にいる人間の割合で言えば大多数が鉱山労働者だ。総督の身柄を確保したことが鉱山中に知れ渡れば、反乱を起こせるだろう。大分、鬱憤が溜まっているようでな。全員で立ち上がればひっくり返せる。竜石についてはどれほど残っているか知らないが、そのとき考えるしかないな」


「……勝算を高めるためにできることはなんだろう」


「実は、大きく不満を感じているのは労働者だけじゃない。監視の役に付いている騎士たちも自分がうまい汁を吸う前に鉱山がダメになりそうな状況だから、士気が低い。総督のため込んだ竜石や宝を分ける条件なら、一時的にこちら側に付けられるかもしれん。数はすくないが、労働者への仕打ちに憤りを感じている監視もいる。鉱山内に噂を流すんだ。レジスタンスが総督を狙っているってな」


「まずは鉱山内を引っ掻きまわす……」


「その辺からだろうな」


 他にも様々なことを話し合った。

 ふう、と息を吐く。喋り放しの喉に飲み物を流し込むと、夜空を見上げる格好になる。そういえば今夜は新月だったな。


「……」


 バーネットも夜空を見上げている。


「なにか、思い出すことでもあったのか?」


「前の新月のときに死にかけたんだが、一か月でここまで来たんだなって考えてた」


 そんなことをテンベルクで聞いたな。しかし、バーネットをそこまで追い込んだ手練れが黒鱗隊にいるのか。


「黒鱗隊にそんな使い手がいるのか?」


「……あれは黒鱗隊じゃないはずだ。と、いうより人間じゃなかった」


「? クマにでもやられたのか」


「背格好はベルと同じくらい。剣を持っていた。力任せに振り回すだけだったが、尋常じゃない速さで、俺の仲間を殺していった。なんとか情報は持ち帰らせないといけなかったから、俺は囮になった」


「……!」


「あっけなく吹き飛ばされて、俺も殺される、と思ったんだが、相手の身体が崩れ始めて、黒い霧になった。それからは記憶がない。起きたらシズヤが俺の治療をしていた」


「……バケモノ、か?」


「……シズヤは怨念、だと言っていた。この鉱山は竜の骸だって言っていたから、あながち間違いじゃないかもしれないな。鉱山での新月の夜以外は出てこないはずだ、とも言っていたがな」


「鉱山での新月の夜以外は、……って、その話はみんなにしているのか?」


「……迷っている。『緋色の剣』のメンバーに動揺してほしくないからな。今日この村に移動することにしたのは連絡と、新月の夜に鉱山から離れるためだ」


「……鉱山を解放したら、主戦場は鉱山から離れることになるから、そのバケモノと関わり合う機会は無い……」


「そういうことだ。わざわざ怖がらせる必要もないからな」


「……。わかった。とりあえず、新月付近の鉱山には用心しておく」


 鉱山の竜の怨念、か……。剣で勝てる相手でもなさそうだ。もとより不利な戦いだ。相手にしないで済むなら、それに越したことはない……。なにか、引っかかるものを感じたヴェルナントだが、飲み物と一緒に、それを飲み込んだ。




 ほかの仲間はシズヤと、今日掘り出した翡翠色の竜石の周りに集まっていた。そういえば、竜石の魔力を緋色の竜石に移して、『黒の魔剣』への対抗手段とする、と言っていたがどのように魔力を移すのだろうか。


「わらわはもともと、竜の中に流れる魔力の流れを観察し、流れの動きを読むことでその竜の未来を予測する『占い師』じゃった。必要があれば流れもいじったがの」


 シズヤはいつも抱えている例の珠をクッションに置き、竜石をくるくる撫で回している。緋色の竜石の入ったペンダントも置かれていた。


「この方向でいいな」


 翡翠色の竜石と珠と緋色の竜石をならべ、シズヤは珠を指さし、横にゆっくりとなぞった。


「「……!」」


 まるで翡翠色に輝く川のような、魔力の流れが現れた。この場にいるほぼ全員が息をのむ。やがてその流れは途切れた。翡翠色の竜石の光は弱くなっていた。緋色の竜石のほうに変化はないように見える。


「……緋色の竜石のほうに変化はないみたいだが」


「焦るでない、ベルよ。特別なのじゃ。緋色の竜石の魔力を蓄える能力はな。ところで、フリード。こっちの竜石のほうは少し力を残しておいた。これをつかって指導してやる。……明日からじゃがの」


「! わかりました。師匠!」


「寝る前に蘊蓄を垂れておくか。こういうペンダントの加工にも意味があるのじゃ」


 シズヤがティアーナにペンダントを返しながら呟く。


「金属で竜石を覆うと多少なり魔力の流れを制御できる。人間の中にも何となく竜石の魔力の流れを感じ取って適切な加工を施せる者がおったな。このような細工は竜の身体ではできなかったから、重宝されていたぞ。……この緋色の竜石の台座は……フツーじゃな」


 フリードは自分の身に着けている装飾品を眺めている。ごく小さい竜石は装飾品として使われていることも多いのだ。


「……家出の身でなかったら、屋敷の蔵をひっくり返してでも装飾品を探すのに……!」


 悔しそうにしているフリードをシズヤがなだめる。


「その辺も教えてやる、というか人間の身ではそうしてお膳立てしてやらんと今以上の魔力は扱えんのだ。鉱山にまた行くのだし、金属の確保もしておくのだぞ」


「はい!……ロックとリックにも弟子入りか」


 師が増えていくフリードであった。そしていきなり弟子入りをされた2人は目を見合わせている。


「そういう金属なら竜石をテンベルクで交換したほうがいいものが手に入るんじゃねぇか?」


「……なるほど。しかし自分でも竜石は掘るぞ!」


「直接竜石を叩くと、運が悪いと爆発すっから、気ぃ付けろよ」


 こうして新月の夜は更けてゆく。「明日も早いし、もう寝ろ」というバーネットの声で皆寝床に着いた。身体が冷えたのだろうか、ヴェルナントは少し、寒気を感じた。

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