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決めるものは

作者: 詩珪汰

 午前6時、この時間に起きることを習慣づけられた体は、目覚ましがピピと鳴る前に、そのスイッチを切る。(ああ、そういえば昨日、雪が降ったんだったな。)と、朝冷えというには少し遅い寒さに、私はかけ布団から出した肩を震わせた。

 少しぼーっとした後、洗面所に行き、ぬるま湯で顔を洗って歯を磨く。(今朝はどんな夢を見たんだったかな。) などと考えつつ、夏場よりしゃっきりしない頭で、手帳をめくる。私はこの時間が何故かたまらなく好きだ。

 10分ほどそうしていたが、流石に歯を磨くのにも疲れたので、口をゆすいで朝食をとる。といっても私は朝はコーヒーだけだ。コーヒーを入れて、飲んでをするとまた10分経つ。午前6時30分。(さあ今日は何をしようか。) 私はコーヒーカップを洗い、棚にしまった。


 今日は仕事が休みで、おまけに何か予定があるわけでもない。出かけるにしてもまだ早いので、随分前に買った週刊誌をパラパラとやっていると、ルルル、と電話が鳴った。(こんな朝早くに誰だろうか。おや、知らない番号だ。)


「もしもし、出前を今日の12時ごろに頼みたいんですが、大丈夫ですか。」


(ああ、これは間違い電話だ。)

「すみませんが、番号をお間違えじゃないでしょうか。」


「あら、おそば屋さんじゃなかった。朝早くにどうもすみません。失礼します。」


 こちらの返事を待たず、電話はすぐに切れた。受話器を置いた後、私は朝早くの迷惑に憤るわけでも、間違い電話に呆れるでもなく、(そばを食べに行くのはいいな) と、そば屋のことを考えていた。

 私はだいぶ迷った、この辺りにそば屋は一軒だけだ。そこが案外遠いのだ。私は車も自転車も持っていない。(歩きで1時間かかるな。そばは食べたいが、面倒だな。)10分ほどウンウンうなって考え、閃いた。


「よし、コインで決めよう」


 私は財布から10円玉を取り出し、(表なら行く、裏なら行かない。)と決めて、親指にのせたそれを弾いた。手の甲と手のひらでしっかりとキャッチし、意を決して開く。


(さあ、どっちが出たか...)

 きらりと光る硬貨、そこには平成29年の文字。裏だ。


「裏だったか。まあ、今日は家でゆっくりするか。」


 私はわざと声に出して、そば屋に行くことを諦めた。10円玉をしまい、開いたままだった週刊誌を、またペラペラやり始める。

(・・・おや、寒い季節におすすめの麺特集か。)


 10分後、私はコートを着て、家を出ていた。

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