四月 『誤解を招いてLet'sお家』
僕の家の玄関の前に――篠崎ノアっぽい人がいた。…『の』が五個あったな。
なぜ『っぽい人』なのかというと、――今気付いたが――僕は今、眼鏡をはずしたままなので、前に立ってる人の顔がぼやけて見えないからだ。あと、夜だから暗いし。でも、金髪と言えばノアくらいしかいないはずだから、ノアだろうと思っている。
「あ。あなた…優君?」
優は依然として体を硬直させたままだ。
「家、ここで合ってたんだ」
声が少し違う気がするけど…ノアだよな。でも…しゃべり方からして、なんか違う気がする。
「…優君? おーい、生きてる?」
そこにいる金髪の人は、硬直したままの僕に近づいて、僕の顔の前で手を振ったりしている。はっ、と我に返った僕は、とりあえず前にいる人の顔を確認することにした。
「わっ!?」
僕がいきなり、顔を鼻先が触れそうな距離まで近づけたため、目の前の人はマヌケな声を出して後ずさった。…後ずさった先に停めてあった自転車に当たってそれが倒れた。ガシャーンという音を立てたけど、倒した本人は、何事もなかったかのように、すぐに戻した。
僕も空気を読んで――今の顔…ノアじゃなかった。誰だ?
「ちょ、いきなり何すんのよ!」
「ごめんなさいすいませんホントいきなりごめんなさい!」
しまった。顔を赤くして怒られたから、焦って言葉がぐちゃぐちゃになっちゃった。
「そんな謝らなくてもいいけど…あなた、ホントに優君ね?」
「はい、倉ノ下優です。それで、あなたは誰ですか?」
「…は?」
彼女は呆れたように口をぽかん、と開けた。
「マジ…?」
「なにがですか?」
一方、僕はきょとん、と首をかしげて、問いの答えを待っている。
「あたしのこと、ホントに知らない?」
「僕は知りませんね」
「はぁ…」
彼女は頭を抱えて、ため息をついた。
「あ、一応言っておきますけど、僕、クラスメイトで知ってる人は三人だけです。だから、もしクラスメイトだったらすみません。そういうことなので」
「あはは…なるほどね。だから知らないわけね」
肩をすくめた彼女は、僕の顔の前に自分の顔を近づけた。
「あたしは――」
と、言いかけた――が、それは遮られてしまった。
「優君!? 無事ですか!?」
院瀬見さんが、僕の家から飛び出てきたからだ。
「あれ? 院瀬見さん、起きたんですか?」
優は振り返って、さっきまで寝ていた院瀬見を見た。
「はい。先ほど外で大きい音がして目が覚めました。ですが優君の姿がどこにも見当たらなかったので、外に出てきました。――はい、眼鏡持ってきましたよ」
院瀬見さんは僕に眼鏡ケースに入った眼鏡を渡してくれた。さっそく眼鏡をかけた。
「ありがとうございます。次から忘れないようにします」
「どういたしまして」
「院瀬見さん!? なんで優君の家から出てきたの!? まさか…付き合ってんの!? 同棲? 夫婦?」
「あら? あなたは確か、私たちと同じクラスの…そう、一口さんね?」
院瀬見に一口と呼ばれた彼女は驚きの表情を隠せないままでいる。
つか、夫婦とか言わないでくれるかな? 変な誤解しないでよ…。
「…あ、うん。あたしは一口千鶴よ」
「芋洗い…ですか?」
優は一口という名前を知らなかったので、芋を洗ってる姿を想像して首をかしげた。
「ちっ、違うわよ! 一に口って書いて『いもあらい』って読むの! 変な誤解しないでもらえる!?」
彼女はそっぽを向いてしまった。
変な誤解って…知らない人にはわからないでしょ。それに、君も誤解してるし。
「とにかく! 一口じゃなくて、千鶴って呼んでくれない?」
「はーい。なら私のことはすみれでいいよー」
なんで自己紹介みたいになってるの? 僕のせいじゃあるまいし…。
優はちら、と院瀬見を見た。それを見た院瀬見は、
「優君のせいですよ?」
と、優の心を読んだかのような発言をした。
――心を読まれたーっ!? くそ、しょうがない…。
「僕のことは優でいいです」
優は渋々答えた。
「それで、千鶴はここに何しに来たの?」
院瀬見さんが話を切り出した。僕もそのことが聞きたかったんだけど…その前に。
「あの、千鶴さ――」
「付き合っていて同棲してる鶴が芋洗いをするってどういうことだっ!?」
「おい…わたあめ」
僕が言おうとした言葉が遮られた。
「「変な誤解をしないで(ください)よ――!!」」
僕と千鶴は、すごい発言をした者に向かって叫んでいた。
「うおっ!?」
男子と思われるその声の持ち主は地面に尻もちをついた。
「…君たちは…とうふとわたあめ…?」
千鶴は、地面に尻もちをついた男子と横で立っている男子をみて、そう言った。
僕は、彼女が何を言ってるのか理解できなかったが、院瀬見さんは知っているようだった。もしかしてそこの男子二人はクラスメイトなのか?
「ん? あ、一口さんか…一口…芋洗い…あ、そういうことか!」
「こんばんは。驚かせた…ってこっちが驚いたほうか」
とうふ・わたあめと呼ばれた二人は立ち上がりながら千鶴と話していた。
…ごめんみんな。僕、今の状況がよくわからない。知らない人が三人も増えたし、なんかすごい賑やかになってきたぞ。
「みんな、外で話すより家の中で話した方がいいと思わない?」
え? それってまさか…。
優が困惑してる中で、院瀬見が話し合ってる三人に声をかけた。
「そうだね」と、千鶴。
「そうだな」と、とうふ。
「俺も同じだ」と、わたあめ。
「決まりね」
院瀬見はそう言って優を見ると、
「優君、もう一度お邪魔しますね」
と、みんなを優の家に入れだした。
え? いや、あの、ある程度予想はしてたけど…。はあ…。
僕は溜め息をついて、抵抗することを諦めた。僕は何でこうも諦めるのが早いのだろうか…近いうちに治せるといいな。
「おじゃましまーす」
「すげー、きれいだなぁー」
「お邪魔するぜぇ」
千鶴・とうふ・わたあめの三人は、それぞれつぶやきながら僕の家に足を踏み入れた。
玄関で靴を脱ぎ、リビングまで続く廊下を歩く。僕と院瀬見さんが横に並んで、その後ろに千鶴・とうふ・わたあめの三人が横に並んで歩いてる形だ。
リビングへ到着した。その隣にダイニング、キッチンが並べられている。
「玄関だけじゃなく、ここもめっちゃきれいだなー!」
とうふが目を輝かせて感心している。
「ありがとうございます」
褒められるのは悪くないな、と思って僕は感謝の言葉を口にした。
「え? もしかして掃除は倉ノ下がやっているのか?」
今度は、わたあめが驚いたように優に声をかけた。
「はい。僕がやってます。あ、でも…僕が忙しい時はそこの自動掃除機がやってくれます」
僕はそういって充電中の自動掃除機を指さす。
「へえーいいなぁー! あたしもこういうの欲しいなあ」
千鶴はその自動掃除機の前にしゃがんで、まじまじとそれを見つめている。
「まあ…それがないと流石に疲れますし…」
「…そうなんですか?」
僕はボソッとつぶやいたのだが、院瀬見さんには聞こえていたようだ。
「あ、ええと…後で説明します。――みなさん、とりあえずそこに座ってくれませんか?」
僕は院瀬見さんにそう言った後、四人に、ダイニングの食卓に並べられている椅子に座るように促した。
みんなが座ったので、優は話をこう切り出した。
「みなさん、夜ご飯はもう済ませましたか? 僕はまだですけど」
「私も、まだです」
「あたしもまだ食べてないわよ」
「俺も」
「同じく」
僕はよし来たとばかりに、こんな提案をした。
「いろいろ話を伺いたいところですが、食事をしながらってのはどうですか?」
「いいですね!」
「へー…楽しそうじゃない」
「俺も賛成!」
「俺も」
四人は一瞬固まったようだったが、全員すぐに了承をしてくれた。
「ここ食べるんだよね?」
と、千鶴が僕に問うてきた。
「はい、もちろん」
「…でも、だれが料理するんだ? 俺ととうふは、料理なんてまともにできねえぞ」
わたあめが疑問を口にした。とうふがうなずいている。否定はしないらしい。
「優君ごめんなさい…わたしもできません…」
「あたしは…手伝いならできるわよ」
できそうな二人ができないという意外な事実を目の当たりにして少し驚いた僕だったが、すぐにみんなに声をかけた。
「安心してください。僕が料理しますから。でも、千鶴さんは手伝ってくださいよ」
「了解! まかせたっ!」
いや、まかせたっ! じゃなくてちゃんと手伝ってくれよ…?
「え? 倉ノ下、お前料理できるのか!?」
とうふが飛びついてくる。
「は、はい…できますできます」
「倉ノ下、女子力たけーなー!」
「強すぎる…」
女子力ってなんだよ!? あとわたあめさん、『強い』って何よ。『強い』って。
「では、まかせました」
「…はい」
さあ、始めるか…。さて、何作ろうか。
「倉ノ下! そこで少し遊んでていいか?」
とうふがリビングに指をさして言った。
「いいですよ。あまり散らかさないでください」
「おっとその前に、倉ノ下!」
とうふがまた声をかけてきた。
「今度は何ですか?」
「差し入れ持ってきたの忘れてた。ほらよ」
とうふは、四角いものをかばんから取り出し、僕の前にスッと差し出した。僕を含む四人は、とうふが差し出したものを囲むようにそれを見た。
――『きぬど~ふ』。パッケージにそう書かれていた。
「ぶっ」
笑いかけたが、抑えた。危なかった。他の三人も笑いをこらえている様子。一回深呼吸をしてから、
「…あ、ありがと(ぷっ)…ございます…」
「今、笑いかけたろ! …確かに俺は『とうふ』って呼ばれてるけど…いいだろ! 別に!」
「「いやそっち!?」」
千鶴とわたあめのツッコミが重なった。
「え? そっちって…どっち?」
とうふは混乱している。
「確かにそっちのほうに行きやすいかも」
院瀬見が未だ笑いをこらえたままとうふに言った。そのまま優が続ける。
「言っちゃいますけど…差し入れに豆腐って…」
「ぶははははは!!」
「ぎゃははははは!!」
「あははははは!!」
優がその言葉を口にした途端、他の三人が腹を抱えて笑い始めた。優も耐え切れず、ついに笑ってしまった。
「なっ…!! …そっちって、そういうことだったのか…」
とうふは恥ずかしい思いでいっぱいだろう。
「しかも『きぬど~ふ』って…まじやべ――だははははは!!」
「もうやめて、もうホントに――ぎゃはははは!!」
さらに、わたあめの追い打ちのせいで、わたあめと千鶴がまたツボにはまってしまった。
「お前らなぁ!!」
とうふは顔を赤くして二人に怒鳴りつけた。
「と、とにかく! 倉ノ下! これ使って料理しろ!」
もうめんどくさくなったのか、とうふは僕の目の前に『きぬど~ふ』を突き付けた。
「…ふぅ…ありがとう…ございます。使わせていただきます」
すぐに回復した僕は、とうふから豆腐を受け取った。
「…え? それ、今から作る料理に…ぶふっ…入れるのか?」
わたあめが、僕に質問してきた。
「はい、使いますよ」
「マジかよ! それじゃ、共食いになるじゃん!! 笑わせんなー!!」
「うるせー!! わたあめが勝手に笑ってんだろー!! 俺はとうふだけど豆腐じゃあない!!」
もう訳わかんなくなってるよ。千鶴さんはお腹抱えて大爆笑してるし…当分回復しそうにないな。しょうがない…一人で作るか。
「賑やかですね」
立ち上がった僕に、いつの間に回復してたのか知らないが、院瀬見さんが寄ってきた。
「そうですね」
この家でこんなに騒がしくなったのは何年ぶりだろうか。いや、初めてかもしれない。
「優君は知らないと思いますが、あの男子二人も、私たちと同じクラスの一員なんですよ? とっても楽しいお二人です。とっても面白いですよね? 三組には…優君が知っているような、悪い人たちはいませんよ」
「ありがとうございます」
「…何がですか?」
彼女は首をかしげた。
「いえ、なんでもありません。…では、料理を始めるので、楽しみにしておいてください」
「あ、はい! 期待してますね!」
院瀬見は頑張ってくださいと言う代わりに、笑顔で応援してくれた。
「院瀬見たち、何話してたんだ?」
「えーと、何作るのかっていう話してた」
とうふの問いかけに、院瀬見がテキトーに答えていた。
「そうか。何作るって?」
「できてからのおたのしみだよー」
「なんだそりゃ」
院瀬見さんととうふは楽しくしゃべっている。千鶴とわたあめはまだお腹を抱えて笑っている。なんとも微笑ましい光景だろうか。これが…友達というものなのだろうか。まだ定かではないけど、とても…楽しいものなんだな。ノア、空閑さん、英さん、千鶴さん、とうふ、わたあめ…そして、院瀬見さん。まさか二日で…七人も楽しく話せるような仲間が増えるなんて…ほとんど院瀬見さんのおかげだな。…いや待て、院瀬見さん二日で僕より友達増やしてるじゃん! もしかしてクラス全員と仲良くなってたりして…。ありえるかも。クラスのヒロイン的な存在なのかな。
と、いろいろ考えていると、何か焦げたような臭いが、僕の鼻を刺した。
「豆腐が焦げてますよ!!」
院瀬見はキッチンに来ていたので、焦げたような臭いに気が付いたようだ。
「え? 俺…焦げてないけど…」
「優君!」
ん? …あ! 豆腐が焦げてる! この臭いだったか…。ごめん。僕がいただきます。
「お騒がせしてすみません。気を付けます」
危なかった。料理中に考え事なんてするものじゃないな。院瀬見さんサンキュ。
「お前ら、落ち着いたか?」
とうふは、さっきまで大爆笑していた二人に半ば呆れ顔で話しかける。
「うん。とうふ、やり過ぎちゃった。ごめん」
「うん。ごめん、とうふ。俺もやり過ぎた」
「…大丈夫だ」
千鶴とわたあめは謝罪を済ませ、立ち上がった。
「さて、何して暇を潰す?」
わたあめが三人に問いかける。
「なら…英単語しりとりしない?」
最初に院瀬見が提案をした。
「英単語しりとり? 初めて聞いたぞ。でもなんか面白そうだな」
「へぇー。やってみたいな」
「俺もやりたいな。ルールはどうなんだ?」
三人とも賛成の旗を揚げる。
「ルールは、普通のしりとりとほとんど同じだけど、一つ違いがあるの。それは、誰かが言った英単語の最後のアルファベットから始まる英単語を、次の人が言う、という点。例えば、私がappleと言ったら、次に言う人は『e』から始まる英単語で続ける、ってことね」
「ほうほう…じゃあ早速やってみるか」
「順番決めるよ。じゃんけんでいいよね? ――最初はグー、じゃんけんポン!」
――五分後。
「あいこでしょ! あいこでしょ! はぁ…はぁ…あいこでしょ!」
じゃんけんで壮絶な戦いが繰り広げられていた。
「よっしゃ勝った!」
とうふが一人勝ちした。
「二番決めるよ…じゃんけんポン! あいこでしょ! あいこで…」
――五分後。
「はぁ…はぁ…あいこでしょ…やった! やっと勝った!」
千鶴が一人勝ちした。
「あと…三番と四番だ…じゃんけんポン…あいこで…」
――五分後。
「あいこでしょ…あ、負けた…」
院瀬見がわたあめに勝った。
「…ふぅ…さて、始めるか」
――とうふ、千鶴、院瀬見、わたあめの順で、英単語しりとりが始まった。
「みなさーん! 夜ご飯できましたよー!!」
――終わった。
「…え」
「流石にじゃんけんに時間使い過ぎたか…」
「順番決まったけど…仕方ない、ごはん食べようか」
僕たちは、手を洗ってから、食卓を囲んで椅子に座った。
「うおー! すげー! 麻婆豆腐じゃん!! うまそー!」
食卓には、麻婆豆腐が一人一人に分けられた形で置かれている。サラダも盛り付けてある。
「よくこんな量、あの時間でできたな」
「早速食べようよ!」
「いただきます!」
「おいしい!」
「超うまいな! これ!」
「倉ノ下すげー!」
「あ、ありがとうございます」
わたあめは疲れているのか、無言で食べていた。
「あの、わたあめさん、とても疲れてるように見えますけど…どうかされたんですか?」
「順番を決めるためのじゃんけんで、十五分つぶしたよ…」
え? マジで? そりゃ疲れるな。というかあいこ続き過ぎじゃない? とても仲良いんだね。
「お疲れ様です。――では、聞きたいことが山ほどあるので、聞かせてもらいます。まず、自己紹介をしましょう」
「え? 同じクラスだろ?」
とうふとわたあめはきょとん、と首をかしげて僕を見た。
「えと、僕、クラスメイト知らないので…」
「マジかよ」
「びっくりしたぜ…。じゃ、俺からするぞ。俺の名前は藤堂笑福。藤堂の『藤』と笑福の『福』をとって『とうふ』だ。よろしくな」
「俺は渡会雨蓮だ。渡会の『渡』と雨蓮の『雨』を合わせてわたあめだ。よろしく」
「あたしはさっきも言ったけど、一口千鶴よ」
「私は…院瀬見すみれです」
「僕は、倉ノ下優です。これからよろしくお願いします」
全員の自己紹介が済んだところで、次の質問に入る。
「みなさん、今日はなんで僕の家に来たのですか? まず、最初に来た院瀬見さんからお願いします」
「私は…優君の看病をしようと思って来ました。先生に優君の家を聞いたら、偶然、家が隣だったので、簡単に来れましたよ」
「え? 家が…隣?」
僕は知らなかった。とても驚いたため、思ったことがそのまま口から出てしまった。
「私も聞いたときはすごく驚きましたよー」
「チャイム押したんですけど、出なかったので…おかしいなと思ってドアに手をかけたら、鍵が開いていたので、そのまま入りました」
院瀬見さんは、不法侵入したと言ったような口振りで、当然のように言った。
「倉ノ下…良かったな、強盗じゃなくて」
そこにとうふが、静かなツッコミを入れる。
「すいません…勝手に足を踏み入れちゃって」
「いいですよ。実際助かりましたし。院瀬見さんがいなければ、熱が下がってなかったかもしれません」
「あと…そのまま寝ちゃってましたし…すいません」
彼女は少し恥ずかしそうに謝罪した。
「なるほど…だから院瀬見ちゃんは優の家から出てきた訳ね。ということは、お二人さんはやっぱ付き合ってるんだね?」
「付き合ってませんけど?」
「…へ?」
いや、へ? じゃないでしょ。なに? そう見えるの?
「いやいやいやいや、嘘でしょマジで」
千鶴さん…めっちゃ否定してくるな、この人。
「あー、同棲ってそういうことかー」
わたあめ…最初のそれ、まだ誤解してたのか…。
「つまりあれね、院瀬見さんは倉ノ下が好きなんだけど、倉ノ下は千鶴のことが好きで、千鶴はそれに気づいていないと」
わたあめが誤解を解い…いや、まだ解けてなかった。
「「変な誤解をしないでよ――!!」」
あのときと同じ台詞を、院瀬見さんと千鶴さんが叫んだ。
「食事中です」
知らぬ間に立っていた院瀬見と千鶴は、優の言葉を聞いて座った。
「みなさん、僕は院瀬見さんと付き合っていません。同棲もしていません。院瀬見さんは、『優しさ』で、僕を看病してくれたのです。――それでは、千鶴さん、次はあなたの番ですよ」
「わかったわ。私がここにきた理由は――」
「優に、これを届けるためよ」
読んで頂いて誠に感謝いたします。
感想お待ちしております。