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四月 『僕には重い、彼女の想い』

「さようならー」

 終礼を済まして、三年三組のみんなはそれぞれの行動を始める。友達のところに駆け寄って会話をする女子たち。部活動仲間で集まって教室を出る男子たち。日直の仕事をしている女子。

 そんな中、友達がいなくて、部活動にも参加してなくて、日直でもない男子がまだ椅子(いす)(こし)かけている。僕だ。

「はぁ…」

 僕こと倉ノ下(くらのした)(ゆう)は、溜め息をつきながら、読んでいた本をカバンの中にしまい、自分の席を立つ。

「あの…」

 帰ろうと思ったら、(となり)から声をかけられた。今までの僕なら、僕のことではないと思って無視をしていたが、今ではそうならなかった。それは、今日という微妙(びみょう)な日にこの学校に突然転入してきた、こちらを見て声をかけてきた彼女――院瀬見(いせみ)すみれが原因である。


 時はホームルームが終わった直後まで(さかのぼ)る。

 ホームルームが終わった後、すみれはロッカーに自分のかばんを入れて、優のところまで駆け寄り、質問をしてきた。

「あの…名前、なんていうんですか?」

 この時は僕のことじゃないと思っていたから、僕は本を読んだまま何もしなかった。今まで同級生からは話しかけられたことがほとんどなかったからってのもある。

「あ、あの…って、うわっ!?」

 彼女がもう一度聞こうとした直後、(またた)く間に彼女の周りに女子が集まった。

「みんな見て! めっちゃ可愛い!」「どこから来たの?」「家はどこ?」

 と、質問攻めされていた。突然のできごとだったので、彼女すごく困った様子で一生懸命質問に答えていた。残念だが僕には助けることができない。質問は絶えなくて、一時間目が始まる合図(あいず)のチャイムが鳴るまで続いていた。可哀想(かわいそう)に。

 チャイムが鳴り終わると同時にクラスメイト全員が席に着いた。授業の始まりの挨拶(あいさつ)を済ませてから着席すると、隣から声が聞こえた。

「あの…名前、なんていうんですか?」

 さっきと同じ質問だ。だが、僕は自分のことじゃないと踏んで、授業を受ける姿勢に入った。すると今度は、肩をちょんちょん、とつつかれた。つつかれたほうへ振り向くと、院瀬見さんが少しだけ涙で潤んだ目で僕の目をしっかりとらえていた。

 …この人なんで泣いてんの?

「…あなたの名前、なんていうんですか?」

 あ、その質問、僕にしてたんだ。ごめん。

 僕は口を開けて答えようとしたが、躊躇(ためら)った。声を出すのはいろんな理由でまずいと思ったからである。なので、メモ帳に『言っておきたいことがあるので、昼休みまで話しかけないでくれませんか』と書いて、彼女にそれを差し出した。彼女はそれを見てから、紙に何か書き、それをこちらに戻した。『わかりました』と、書いてあった。 彼女は少し残念そうな顔をしていた。


 僕は早めに給食を食べ終え、歯磨きを済ませて教室に戻った。

 本当に、昼休みまで声をかけてこなかったな。

 そんなことを考えていると、ちょんちょん、肩をつつかれた。

「言っておきたいことってなんですか?」

 やはり院瀬見さんだ。

「ついてきてください」

「えっ?」

 僕はそれだけ言って、本を片手に、目的の場所へと向かった。彼女は困った顔でついてきている。

 まあ無理もないか。


「ここって…」

 彼女は辺りを見渡しながらそうつぶやいた。

「はい。屋上です」

 屋上。この屋上には、多くの植物が植えられている。驚くべきことに木も数本植えられている。どうやって育ててるのかは知らないけど、光合成がよくできるから植物もよく育つのだろう。

 この学校は屋上で過ごすことができる。しかも休み時間は自由に来ていいとのこと。でも、なぜかここに来る生徒は一人もいない。聞こうとは思わないし、そもそも聞く人がいないので、理由は知らない。僕は生徒が一人も来ないので、昼休みはいつもここで過ごしている。静かで、人も来ないので、本を読むにはもってこいの場所だ。右手に本を持っているのはそのため。

 さあ、本題に入ろう。

「院瀬見さん、さっきは質問に答えれなくてすみません」

「い、いえ、大丈夫です」

「僕の名前を教える前に、一ついいですか?」

 そう、彼女にひとつ聞きたいことがあったのだ。

「なんですか?」

 彼女は首をかしげてこちらを見ている。

「…なんで、そんな僕の名前を知りたいんですか?」

 彼女は僕の質問を聞くなり、目を逸らして口を開く。

「…つい最近、ある夢を見ました。先々週の土曜日です」

 …土曜日?確か先週の土曜日に僕もなんか夢を見て…そうだ、あの日は起きてすぐその夢の内容を忘れたんだった。

「詳細は秘密です。…その夢の中に出てきた『少年』が、あなたによく似ていたのです」

 え? まじで? なんかすごいな。

「その一週間後の土曜日、あなたと出会いました」

 彼女は、髪を風に任せながら少し照れた様子で目を閉じた。そして、目を開き、その煌めく瞳で僕の目を見た。

「これはもう話さなきゃって、思ったんです。そして、この学校に転入してきました。偶然、となりの中学校に通っていたので、難しくはありませんでした」

 それ以前になんで僕がここにいるってわかったんだ? いや、今は聞かないでおこう。

「その『少年』が僕じゃなかったらどうするんですか?」

「すべて私が決めたことですので、心配しないでください」

 心配するなと言われてもねぇ…。

「理由はだいたいそんな感じです。…本題に入りませんか?」

 いろいろ聞きたいことはあるけど、時間も限られてるからしょうがないか。

「…わかりました。僕の名前は、倉ノ下優です。覚えなくてもいいですけど…」

「倉ノ下…優君…ありがとうございます。忘れません。…優君って呼びますね」

 さて、本題に入りますか。

「まず、単刀直入に言いますが、僕はこの学校でボッチです」

「…え…なんで、ボッチなんですか?」

 やはり来たかその質問。

 彼女は首をかしげ、僕が予想していた通りの質問をしてきた。

「僕は、自分から友好関係を築こうとはしません。理由は、お互いデメリットしかないと思ったからです」

 僕は一瞬躊躇(ためら)ったが、ここで言うべきだと踏んで、院瀬見さんに言った。

「だから…お願いですから、僕には関わらないでください。その、夢の少年がもし、仮に僕だとしても、もう、僕には話しかけないでください…迷惑(めいわく)をかけたくないので。ごめんなさい…お願いします…」

 彼女は目を見開き、驚いた様子でこちらを見ている。

 最低の気分だ。僕は最低だ。わざわざ僕のために転校までしてきてくれた美少女がいるのに。でも、君には本当に申し訳ないけど、関わらないでほしい。もし僕と君が話してるところをクラスメイトに見られたら…今の僕より、もっと(ひど)い僕になってしまう。

 僕は歯をガリっと鳴らして僕と関わった彼女の姿を思い浮かべた。すると、彼女が質問してきた。

「それは、いじめによる、ボッチ…ですか?」

「…はい」

 僕は、目を逸らして彼女に聞こえるかどうかの大きさの声で答えた。

 できれば、この話はしたくなかった。思い出すたびに、胸が痛くなる思いをするからだ。だから今まで隠していた。テキトーな理由をつけて、逃げていた。だが、彼女には言わなければならない。彼女は、知る権利がある。

「…わかりました。優君がクラスメイトの誰とも話さない理由も。関わらないでほしいという理由も」

 彼女は読み込みが早くて助かる。

 よし、これで彼女はもう僕にかかわらないはずだ。

「では、もう言うことはありません。それでは――」

「ひどいですよ…私の意見も聞いてくださいよ!」

 他の場所へ移ろうとした僕を、彼女は自身の言葉で遮った。そして、想いを叫ぶ。

「私は! 私は、『少年』をさがしに来た! 『少年』と会うために! 『少年』と話すために!」

 …だからなんだというのだ。そんな、夢に出てくる人物なんて、いるわけないじゃないか。

 彼女は下を向いて、声を震わせながら、言葉を絞り出していく。

「でも…あの、『少年』はここにはいなかった…」

 当然だろう。その『少年』は、どこにも存在しないはずなのだから。

「でも、優君はいた!」

 一瞬僕は呆気(あっけ)にとられた。

 …彼女は何を言ってるんだ? 僕がいても、何も変わらないじゃないか。

「あの『少年』に似た優君がいた!」

 でも、僕は『少年』にはなれない。彼女もわかっているはずだ。なぜ? なぜそこまで…。

「それでは僕に関わっていい理由になりません」

「私は! クラスメイトからいじめられたっていいです! 私は、優君と話したいのです!」

「それは僕が嫌です! 僕のせいで他人が傷つくことなんて、したくありません!」

 僕は、今のありのままの思いを彼女にぶつけた。

「それでも! 優君に接して、二人で話して、一緒に泣いて、一緒に笑いあいたい! だから! だから…」

「僕はただ…君が傷つく姿を見たくないんですよ…」

 僕はもう、その言葉しか口に出せなかった。

「ふふ…やはり、あなたはあの『少年』に近いです」

 彼女はそうつぶやいてから、続ける。

「…あの日、初めて優君を見たとき、私にとって優君は…運命かもって、思ってしまった。…だって」

 彼女は顔を上げ、涙で潤んだその瞳を僕に向け、にっこりと微笑み、穏やかな口調で言葉を紡いだ。

「夢の中で好きになった彼によく似た『少年』が現実にもいたら…運命と感じないわけ、ないでしょう?」

 僕は、目を見開いた。

 わかった。彼女が僕に執着(しゅうちゃく)する理由が。…また、彼女を泣かせてしまった。もう、僕にはこれ以上否定することはできない。

「院瀬見さんは、ホントにそれでいいのですね?」

「はい。だから、私は信じています」

 彼女は、歩きながら、そう口にした。そして屋上から校舎の四階へ降りる階段の前に立つと、こちらに振り向き、言った。

「信じています…あなたが、夢の中に出てきた『少年』であることを」

 そのまま階段を降りていった彼女を見ながら、僕は考えごとをしていた。

 …本当に、これでよかったのだろうか。…もう取返しのつかないことになってしまった。だからせめて、その『少年』になれるよう、努力しよう。…院瀬見さんを泣かせてばっかじゃ、最低のままだからな。

 その後、チャイムが鳴り、昼休みが終わったので、教室に戻ろうとしてる途中で、ちょっとした悩みができてしまった。

 やべぇ。同じクラスで、しかも隣の席って、超気まずくね?


 ――そして今に至る。

 幸い、彼女は昼休みのことを気にしていない様子だったので、安心した。

 院瀬見さんは僕の目をまっすぐ見ている。

「な、なんですか?」

 僕は少々(しょうしょう)身を引きながら聞いてみた。すると、驚きの言葉が返ってきた。

「一緒に帰りませんか?」

 容赦(ようしゃ)ないな。普通にそういうこと言えるんだね。すごいよ……じゃなくて。

「え? 部活動見学とか、学校の内装(ないそう)を見て回ったりとか、しないんですか?」

「なら案内してくださいよ」

「それは、(いや)です」

「そうですか。それなら一緒に帰りましょう」

 くっ…だめだ…僕には言い返せない…。

「僕は一人で帰るので、ついてきたかったら勝手についてきてください」

「ありがとうございます」

 さ、帰るか。そういや今日の朝に会った…ええと…しの…しの…しの…ありゃ? 思い出せん。ノアしか思い出せん。あいつ何組なんだろうか。わからないって言ってたし。

 僕は三組の教室を出て、下駄箱(げたばこ)へ向かう。その後ろからすみれがついてくる。みんなは部活で体育館や部室に向かっているので、僕たちは、ほとんどの人とすれ違いながら歩いていることになる。

階段を降りて、昇降口(しょうこうぐち)に到着。(くつ)を履き替えて、外に出る。そのまま校門を通り過ぎるところで、「あ」とつぶやいた。

 そういや、院瀬見さんにあれを聞こうと思ってたのに忘れてたよ。

「院瀬見さん、ちょっと聞きたいことが…」

 後ろに顔を向けながら、彼女に話しかけようとしたのだが、そこにはすみれの姿が見当たらなかった。

「あれ?」

 僕ははてな、と首をかしげてから、周りを見渡した。

 どこ行ったんだ…まあ、明日でいっか。とりあえず早くバイト行こうっと。


「こんにちはー」

「こんにちは、優君」「くらのっち、おなか大丈夫?」

 店に入ってあいさつをすると、二つの返事が返ってきた。沙耶(さや)さんは心配しながら駆け寄ってきた。どうやら『あれ』について心配してくれたようだ。『あれ』とは、昨日、学校への登校を(さまた)げやがった腹痛のことである。そのせいで、ここに来ることさえできなかったのだ。なので、振替日として今日来た。

「大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。それと、昨日話せなくてすみませんでした」

 僕は沙耶さんに、ぺこっと頭を下げて謝罪した。

「くらのっち、そのことは気にしなくていいからね」

 顔を上げると、笑顔で沙耶さんが許してくれた。

「ありがとうございます」

 さて。

 そういや店長の返事が聞こえなかったな。接客で(いそが)しいのだろうか。とりあえず会いに行くか。

 そう思っていつもの店長のポジションであるレジに向かうと、店長ではない人物が声をかけてきた。

「あ、店長ならさっき家に帰ったよ」

 今話しかけてきたのは吉野(よしの)(かおり)さんだ。レジのほうから話しかけてきた。

 …って店長が帰った? めずらしいな、そりゃ。

「え? なんでですか?」

「急用ができたんだって。だからレジよろしくね」

 …なるほど。そんで、吉野さんは何さりげなく僕にレジ当番を押し付けちゃってんの!? 接客少し苦手なんですけど。…まあ仕方ないか。やろう。

「…わかりました。頑張ります」

 はっ! しまった。やっちまった。学校からここを通って帰る生徒たちに顔見られるかも…。注意しとこう。知られたらまずいことになりそうだし。

 僕はレジの前まできて、客を待った。早速来たよ。

「いらっしゃいませ」

 二名、片方は三十代くらいの女性で、もう片方はその子供と思わしき、五、六歳の少女だった。少女は、すぐにサンプルとして並べてあるケーキを見るなり、

「おかーさーん! これにする! これにする!」

 目を輝かせてはしゃいでいた。

「わかったわ。…店員さん、これ頼めるかしら?」

「わかりました。ここに書いてある通り、二時間ほどで完成しますが、いつ頃、受け取られますか?」

 なんか変な言い方になったと思うけど、大丈夫だよな。

「えーと…三時間後なら、来れるわよ」

「三時間後…八時でよろしいですね?」

「ええ。それでいいわ」

「お会計は、ケーキをお渡しする際にします。お名前は?」

「八神よ。三時間後にまた来るわ。さ、行くわよ」

 女性はそのまま子供を連れてどこかへ行ってしまった。

 ふぅ。やっぱ緊張するなあ。店長すげーなぁー。よくこれが毎日できるよね。まあずっと前からやってるし、当然か。

 僕は油断してて、客が店に入ってきたことに少々遅く気付いた。

「なにがあるのかな~」

 さあ、こい。頑張るぞ…って、おいおいおいおい。それはないよ! なんでここに来てるんですか! 注意はしてたけど、店に入ってきたら(もと)も子もないでしょ!

 正体をばれたらいけないので、一応、かけていた眼鏡をはずした。

「い、いらっしゃいませ…」

 驚きと動揺を隠せないまま、僕は恐る恐るあいさつをした。

「あれ?その声ってもしかして…」

 客はそう言いながらこちらに顔を向けてきた。

 ちょ、ガン見しないでくれますか。お願いします。

 その客は、無言で僕に近づき、顔を近づけてきた。僕は思わず身を引いてしまう。

「…お、お客さん? なんでしょうか?」

 めっちゃ近い目の前にその客の顔がある。ほんのりいい香りがする…じゃなくて!

「あなた、優君ですか?」

 くっ! 詰んだ。もうだめだ。諦めよう。

「…なんで、わかったんですか、院瀬見さん」

 僕は目を閉じ、彼女の名前と質問を口にした。

 そう、彼女は、先ほど学校から家に帰るときに突然姿を消した、院瀬見すみれだったのだ。

「まず、声と名札でだいたいわかりました」

 僕は「あ」と声を漏らして自分の名札を見る。――『倉ノ下』と記してある。

 これ忘れてた…。

「もう一つ。私に、優君がわからないわけないじゃないですか」

 この人、笑顔で言うから少し怖く見えてくるんだけど…。…話を変えよう。

「あの、なんでここに来たんですか?」

 僕がこの質問をしたら、彼女はきょとんとした顔で、答える。 

「そんなの、決まってるじゃないですか。この店がこの町で有名ってHP(ホームページ)に掲載されていましたから、行ってみたいと思ってたのです」

 またかよ! 院瀬見さんもそれですかか! ノアも似たような理由で知ってたみたいだし。…この店って本当にこの町で有名なのか…。

「それより、なんで優君がここにいるんですか?」

 彼女は上目遣いで聞いてきた。

 ん? まだ察してないようだな。

「ええと…知り合いの、手伝いってやつですかね?」

 もちろん、嘘だ。これで信じてもらえるだろうか。

「え? 優君て、知り合いいないんじゃないんですか?」

「うっ」

 この美少女め…遠慮なく僕の弱点をついてくるな…。思わず声が漏れてしまったぞ。

「あ、嘘ついてますね? だめですよ、あの『少年』は、そんなのじゃないですから」

 あーもう! 本当のこと言おう!

「すいません、嘘ついて。僕はここでバイトをしています」

「え? ホントですか? それって駄目(だめ)なんじゃないんですか?」

 当然の質問が返ってくる。

「僕の家庭が特殊(とくしゅ)なので、特別に許可をもらってるんです」

「へえー…私もやってみたいです」

 さすがにそれは無理だと思いますよ、と言おうとしたところで、

「やってみる?」

 と、男性の声がした。

「「え?」」

 優とすみれは、驚いてその声が飛んできたほうを見た。

「突然家に帰っちゃってごめんね、優君」

 そこには店長がいた。店長は自分が家に帰ったことを僕に詫びているようだ。

 いつのまに帰ってたんだ? 気付かんかったわ。

「なにか、忘れ物でもしたのですか?」

「まあ、ちょっとね。ところで優君。優君の後ろにいる美少女は誰? その()が、優君の本当の彼女?」

「店長、この(かた)は――」

 また誤解をされそうになったので、説明をしようとしたところで、

「彼女ではありません。ですが、近々(ちかぢか)そうになりたいと思っています」

 彼女が胸に手をあて、とんでもないことを口にした。僕は絶句し、店長も少し驚いた様子だ。

 そこで店長が僕の肩に手を置いて言った。

「…優君、よかったね。優君に彼女(仮)ができて、俺はうれしいよ」

 あんたは僕の親か! …というつっこみは抑えて、…(仮)って……抑えろ! とりあえず誤解をとかなきゃ!

「え? 優君に彼女ができたのか!?」

 え? ちょ、吉野さん? なんでここで…。

「くらのっち! 一昨日の話はなんだったの!? あれは嘘だったとでもいうの?」

 なんか沙耶さんまで来てるし…。院瀬見さんは頬を赤く染めてなんかぶつぶつとつぶやいてるし…もう、どうにでもなれよ。…早く帰りたい。

 僕は、はぁと溜め息を一つついて、自分の言葉を口に出すのを放棄した。

 店内のざわつきが収まるのに数十分かかった。いろいろ話が展開しすぎて、おい! とつっこみを入れたいところが何度かあったが我慢しといた。話をしていて(僕を除く)、こんなことが決まったようだ。


 ――院瀬見さんを、この店でバイトとして働くことを許可する。


 まじかよ。なんかいろんな意味で大変になりそう。まあいいや。もう決まったことみたいだし。院瀬見さん、頑張れ。いろいろ聞きたいことあるけど…また今度でいいや。

「優君もこっち来て」

 店長が話しかけてくる。片手にはカメラを持っている。

 え? なに? 写真まで撮っちゃうの? 話展開しすぎじゃない? …早く帰りたい。

 このあと、十時まで家に帰らせてもらえなかった。

 もう、本当に疲れるんですけど。…はは…明日から楽しみだぜ……。

 僕は家に帰ったあと、お風呂に入ってからすぐ寝た。

呼んでいただいてまことに感謝いたします。

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