86 格闘術
イベントが終わり、僕らは攻略を再開した。
少し狩りをした後に草原フィールドで休憩。
そこで、相変わらず五郎と組み合うくまこさん。
「うりぁ!」
五郎の巨体が華麗に宙を舞う。
あれは、確か巴投げ。
「どうした?」
勝負が決まり、僕の視線に気付いたくまこさんが腰のあたりを払いながら起き上がる。
「僕も体術を使おうかと考えてたんです。
なので、見学です」
「へー。
……その体で?」
「ええ、この体でです」
「まあ、体はどうしようもないか。
威力はスキルで誤魔化せるけど……結構体の使い方に慣れが要るよ?」
「みたいですね」
現実の格闘技とはまた違う、ゲームならではの体使い。
ここの草むらの様に、視界の悪い所で戦う選択肢を一つ増やしておくのも良いかもしれないとそう思い、それならば使い勝手のわかってるナイフだろうとそう考えた。
ただし、骨の間に正しく刺せばそれだけで効果が得られる現実とは違う。
より、上手く戦うために身を近づけての戦う必要がありそうだ。
「見てるだけじゃわかんないだろ?
相手になってやるよ」
そう言いながら手招きするくまこさん。
「良いんですか?」
「但し、手加減はしないかなら」
「ええ。こちらも」
僕の答えに、彼女は鼻で笑う。
「じゃ、行きますね」
「来い!」
僕は左足で一気に地を蹴る。
右手を伸ばし、くまこさんの前髪を鷲掴みに。
顔を引き寄せながら、その中心へ右膝をめり込ませる。
「甘い!」
でも、くまこさんはニヤリと笑う。
◆
「まあ、奇襲としては悪くなかったんじゃ無いか?」
初撃は、顔と膝の間に素早く左手を差し込まれ上手く受け止められた。
続けて延髄を狙った左足の蹴りは右手で防がれる。
そんな感じで僕の攻撃がくまこさんにクリーンヒットする事は無かった。
「反応されてしまうと奇襲の意味が無いですね」
だが、真正面から攻めても当然跳ね返される。
「女の顔をいきなり狙うなんて普通はやらないけどね」
「だからこそ、決まると思ったんですけどね」
「ん? 外からだとそんな隙が見えるか?」
「いえ。
女性だから顔は狙わない。
そう侮っているだろうと決めつけてました」
「女性って……」
「もうやりません」
通用しない手段を用いる意味は無いのだから。
その結論に、何故かくまこさんが意外そうな顔をする。
「子供が、生意気な事を言うな」
顔を赤くしながら目を背ける。
「蛍がさ、最初に私に飛びかかってきた時も顔を狙って来た。
それがあったから防げたんだよ」
「蛍さんか」
最初にアマリさんと会っている時に勧誘に来た一人。
笑い声をあげながら僕に壊れていると言い放った人。
そう言えば彼も小柄な方だな。
「もっとも、あいつは目を潰そうとして来たけどな」
そう言ってくまこさんは右手をチョキにして、僕の顔の前に置く。
それは、僕がやると指を壊す可能性が高い。
それに派手だけれど成功率は高くないから、あまり上策ではないのだけれど。
「せめて一発くらい攻撃を当てられるくらいにはなりたいですね」
「良いよ。それまで付き合ってあげる」
「ありがとうございます」
次は刃を落としたナイフを使ってみよう。
「そろそろ出発して良いですか?」
黒さんが笑みをたたえながら迎えに来た。




