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85 イベント~秋の大収穫祭~③

「ただいま戻りました」

「お帰り。楽しかったか?」

「はい」

「そうか。

 晩御飯にしよう」

「はい」

「……どうした?」


 親方が不思議そうな顔をする。


「いえ、後で相談があります。

 それと、お弁当美味しかったです」


 お母さんみたい、か。

 思わずエアルさんの言葉を思い出してしまった。


 食卓にはオムライスが並んで居た。

 あれは、コカトリスの卵で親方のお気に入りらしい。




「で、相談とは?」


 食後にコーヒーを飲みながら尋ねる親方の前にアイテムを置く。


「これなんですが」

「古金貨か。貨幣としては使えない物だな」

「インゴッドに出来ますよね?」

「出来るだろうな。

 銃弾か?」

「はい」

「勿体無い様な気もするが」

「そんな事無いですよ。

 では、こっちも大丈夫ですね?」


 そう言いながらイベントアイテムの古銀貨を渡す。


「大丈夫だろう。

 何に使うんだ?」

「これも銃弾に」

「銀をか?」

「はい」


 僕の答えに、手に持った銀貨を見ながら少し考える親方。


「銃弾には適さないと思うが?」

「ただ、これが有効な敵がいるのも事実です」


 エアルさんと戦ったスレイブ・アンデッドだ。


「……それは、デイストルクスの軍勢か?」

「そうかもしれません。

 一度、目見えました」

「わかった。

 父の残した製作記録の中に何か残っているかもしれない。

 後で探してみよう。

 例えば、それに適した金型とか」

「ありがとうございます」


 そこまでは期待して居なかったけれど、親方が手伝ってくれるならば、僕が手探りでやるよりは良いだろう。

 ……多分。

 親方と言うよりは、親方のお父さんを信じよう。

 ダメなら他の人に相談するか、現実で調べてみれば良い。


「あと、これなんですが」

「……これは……オリハルコン鉱か?」

「そうです」


 目を見開き、驚きの表情を浮かべながらもその正体をすぐに言い当てる。

 僕とエアルさんがイベントフィールドで二人、穴を掘って見つけた鉱石。


「何かに使えますか?」


 僕の問いに親方は、首を横に振る。


「いや、ここの炉では溶かせない」

「そうなんですか」

「ああ。

 いや、しかし……これを武器に出来れば……それは、我々にとって大きな財産になる。

 スパナに相談してみるか。

 ……まだあるのか?」

「探せばもう少し見つかると思います」

「そうか」

「もし僕以外の誰かがこれを持ち込んだら、親方、買い取りますか?」

「ああ、金庫に余裕があればな」


 なら、エアルさんにも伝えよう。

 明日から喜んで掘るだろうから。

 僕もだけれど。





 ◆


 イベントの一週間はあっという間に過ぎた。

 僕は休日の工房で、一人溶鉱炉の前に座る。


 イベントで手に入れた金貨から銃弾を作る。

 その為にはまず金貨を溶かしてインゴッドを作らなければならない。


 手元の金貨でおよそ五万発分の金の銃弾が作れる計算だ。

 そして、その十倍程の銀。

 これもいずれは銃弾に変える予定。


「こんにちわ」


 工房の外からの声に僕は顔をあげる。

 中を覗き込むように、ひよりさんが立っていた。

 その足元に、白玉。


「こんにちわ」


 僕は手を休め、立ち上がろうとする。


「あ、良いよ。続けて」

「いえ。お茶を持ってきますので、座って待っていてください」


 親方は外出中だけれど、注文ぐらいは聞いておこう。


「どうぞ」

「ありがと」


 運んだお茶を受け取り、ひよりさんは満面の笑みを浮かべる。


「すいません。あいにく、親方は外出中でして」

「ううん。今日は、ショータ君に会いに来たんだよ」

「僕に、ですか?」

「うん。

 あ、作業の途中だったよね。

 私、ここで見てるから続けて」

「はい」


 僕は再び、炉の前へ。


「クランどう?」

「凄い人ばかりです」


 今回のイベントで、何人かレベルがカンストしたと言っていた。

 そんな彼らはイベント終了と同時に「寝る」と言って皆一斉にログアウトして行った。


「楽しい?」

「はい」

「そう。それは良かったね」

「そちらは、どうですか? ローズガーデン」


 ローズガーデンは彼女達のクランの名前だ。

 まだ、十人に満たないぐらいらしいけれど。


「こっちも楽しいよ。

 セレンが鳥さんを召喚したの、聞いた?」

「はい。一度見せてもらいました」


 セレンさんは、いつの間にか小さな雀を召喚していた。

 少し赤みがかったその姿から、『苺』と名付けられたその召喚獣はセレンさんの頭の上、猫耳の間にちょこんと収まるおとなしい鳥。


「全く言うこと聞かなくて四苦八苦してる」


 僕が見た時は、その頭の上から一度も動かず、そのふてぶてしさに白玉みたいだなと思った。


「白玉は、随分大きくなりましたね」


 もう、中型犬ぐらいの大きさはありそうで僕が抱き抱えるのは難しそうだ。


「うん。進化して、スノウタイガーになったんだ。

 ファントムは?」

「まだです」

「レベル、幾つ?」

「8です」

「じゃ、もうすぐだと思うよ。

 楽しみだね」

「はい」


 視界の端でファントムが少し赤く揺れる。


「イベントはどうでした?」


 ひよりさんを振り返りながら尋ねる。


「バッチリ!

 ショータ君の槍があったお陰!」

「そうですか」

「もうちょっとで500に入りそうだったんだけどなー」

「凄いですね」

「でも、最後に抜かされちゃった」

「そうなんですか。それは、残念ですね」


 イベントのランキングは、ヴォルクさんが途中まではトップだった。

 でも、最後の最後、終了一時間ほど前にマリーさんを筆頭に開拓組の何名かが突然、他を寄せ付けない圧倒的な差でトップ10までを独占しそのまま終了したらしい。

 ちなみに僕はランキングに入ってすらいない。

 何故ならば、僕が手に入れたランキングのポイント対象となる白金貨は全てヴォルクさんの古金貨、古銀貨と交換したからだ。

 そのおかげで、僕の手元には銃弾の素材が大量にあり、ヴォルクさんはイベントのトップを独走した。まあ、最後に抜かれたけれど。


「ショータ君はどうだった?」

「僕は、沢山の素材が手に入ったので満足です」

「へー」


 その素材はいま、炉の熱で溶かされ原型を留めいていない。

 そうやって、ひよりさんと話をしながらインゴッドを作る。

 そんな時間が流れていく。


「何だ。ここに居たのか」


 工房の外からそう声をかけたのはリゼさん。

 その後ろでヴィヴィアンヌさんが僕に手を振る。


「どうしたの?」


 ひよりさんが問い返す。


「今からクランの反省会」

「反省するとこなんて、無いよ!?」

「じゃ、打ち上げだ」

「なら行こう」

「ショータも、おいで」

「僕もですか?」


 部外者なのだけれど。


「うん。行こう。ショータ君。ファントム」


 そうひよりさんが立ち上がりながら僕とファントムに笑顔を向ける。


「わかりました。片付けるので、ちょっとだけ待って下さい」

「うん!」


 こうして、九日間続いたイベントは幕を閉じた。

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