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80 障害物との戦い

「おはよう」


 何時もの様にファントムへ声をかける。

 だけど、ファントムは何時もと違い小さく揺れる。


 夜の無いこの世界。

 外は相変わらず明るくて全くわからないけれど、何時もよりログインした時間が早く、現実だとまだ日が昇って居ない。


「今日はちょっと早いけれど付き合ってね」


 フワフワと浮かぶ相棒にそう声をかけ、掃除と朝ご飯の前に出かける事にする。


 ◆


 大地に埋もれた門の様な建造物。

 森の奥のスカーライから戦士の草原への転移先。


 親方の談によれば、あれはここに作られていた物では無く上から落下して来た物だとそう言う事らしい。

 そして、長い年月をかけ大地へと埋没して行ったのだろう。


 鉄板の足場の上からそれを見下ろし眺める。

 強い風が髪を滅茶滅茶にかき乱す。


 別に、これを見学しに来た訳では無い。

 草むらの中でなんとか戦え無いだろうか。

 そう考え、一人挑んでみたのだがやはりラチがあかない。

 だから、ほとんど不貞腐れる様に、空で休憩を取っていた。


 その門全体が、淡く光を放つ。

 直後、人影が一つ音もなく出現。


 あれは……。


「エアルさん」


 上から声をかける。

 僕に気付いた彼女は、嬉しそうに小さく手を振る。


「やあ、おはよう。

 まさか徹夜?」

「いえ、そんな事は無いです。

 それより、ひょっとして、一人ですか?」

「まあね」


 少し照れ臭そうに、頬をかき視線を地に落としながら彼女は答える。


「一人で、バロメッツを倒したんですか?」

「うん。……生憎、タイミングが合う仲間が居なくてね」

「どうやって……」

「ん? 弱点を攻めれば、それほど難しく無いけど?」


 さも当然の様に言うが、僕らは六人がかり、そして、アマリさんは燕三さんに六十人で挑めと言った強敵。


「弱点は、羊の実に阻まれて届かなかったです」

「ああ、そう言う事じゃ無くて。

 バロメッツは、植物なのよ。

 と言うことはその巨体を支えているのは根。

 それを掘り返してやれば、あら不思議。

 そこに隠れる様に心臓がついていた、と言う訳」

「え!?」

「上の羊は、それから目をそらす為のカモフラージュの意味もあるのかもね」

「でも、土の中ですよね?」

「掘るのは得意だからね」


 やる事も、考え方も規格外と言ったらいいのだろうか。


「まあ、露骨に心臓部を隠してあるとは思わなかったけど。

 色々試した結果ね。

 ソロだと他に迷惑かける人も居ないから、そう言う事がやりやすい」


 そう言いながら笑顔を見せるエアルさん。


「凄いですね」

「いやぁ、褒めても何も出ないよ?」


 と言いながらも嬉しそうなエアルさん。


「で、ここはフィールドなの?」

「そうです」

「そっか。当てが外れたな」


 顎に手を当てながら周りを見渡し、そして、石造りの丸い門柱に手を添える。


「上の島だと思ったんだけど」

「親方が言うには、落ちてここにあるのだろうと」

「へー。そう言う事。

 と言うことは、この下に島の残骸が埋もれているのかしら。

 ……開拓組の次の仕事は、発掘作業かな。

 君も参加する?」


 しゃがみこみ地面に手を当てながらそう言って、そして僕を笑顔で見上げるエアルさん。


「それを掘ってどうするんですか?」

「どうしようかな?

 どうやって落ちたのか分かればまた浮かべる事も出来るかもしれない。

 駄目でもここに街を作る土台に出来るかもしれない。

 やってみて、その後考えれば良いよね」

「気楽ですね」

「現実では到底出来ない事。

 死んでやり直すとか、先を考えずに好きな様に動くとか、町に作るとか。

 だから、ゲームは楽しいのだよ。

 現実では無いから」


 そう言って、エアルさんは心から楽しそうに笑う。


「まあ、穴掘りは別の日にしよう。

 まだ少し時間があるな。

 一緒に狩り、行く?」

「はい。でも、僕はここでは役立たずです」

「そう?

 まあ、良いよ。話し相手で」


 そう言って歩き出すエアルさんについて行く。


「敵、強い?」

「それほどでも無いです。

 でも、索敵が効かなくて、苦手です」

「へー?」


 強い風がエアルさんの短い髪を揺らす。


「それは、でも、君だけだよ。ちびっこ」


 そう言って、彼女は草の中へと飛び込んで行く。

 その先に居る敵を見つけたのだろう。

 僕は飛び上がり、上からその様子を眺める。


 彼女は草をかき分け、真っ直ぐに走って行く。

 そして、あっさりと敵を見つけ出し、それを仕留める。


 僕だけ見えない。

 それは、どう言う事だろう。




「スキル、アビリティ。

 答え、知りたい?」


 草むらをかき分け追いついたエアルさんに、少し勝ち誇った顔でそう言われる。


「……いえ、自分で見つけます」


 そう答えた僕にエアルさんはニコリと笑う。

 少し、悔しかったから。


「良い子だ。

 それでこそ宿敵」

「宿敵?」

「あれ? アマリから聞いてない?」

「何がですか?」

「私と、フェンリルは互いに命を狙いあった仲。

 まあ、ここでどうなるかはわからないけど。まだ」


 エアルさんは、とても楽しそうな笑顔を見せた。

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