79 くまこさんと熊
「まあ、相性はあるさ」
「そうですね……」
このフィールドは、まさに僕と相性が悪いのだろう。
勇んで草むらの中へと飛び込んでは見たものの索敵スキルは効かない。
頭より高く生い茂る草の間からモンスターが襲いかかって来る。
なんとか銃口を向けるが有効打はほとんど当てられず。
そうこうしているうちにモンスターは再び草の中へと身を隠す。
それを追って、銃弾を放ってみても生い茂る草の葉が銃弾の威力を削いでしまう。
ラチがあかない。
そう思った僕は、ファントムに空へ鉄板の足場を固定してもらい、くまこさんやノルンさんに追い立てられ草むらから頭を出したモンスターを狙い撃つ事にした。
それだって、大した数では無い。
くまこさんの展開したセーフティフィールド内では、ハティとスコルがノルンさんに餌を貰っている。
ノルンさんは目を細め、スコルの背を撫でている。
「私だってさ……はっ……ほっ……海の中とかは……甘い!」
僕と会話をしながらくまこさんは五郎とスパーリングをしている。
その五郎は、足を払われ尻から崩れ落ちた。
五郎は歯をむき出しにして、くまこさんに飛びかかる。
鋭い爪でくまこさんを切り裂こうとしたその攻撃は軽く躱され、そのまま腕を掴まれ一本背負いを決められる。
小さな地震かと思う程の衝撃が地面を揺らし、五郎は腹を上に向けたまま大の字に地面に転がり動かなくなった。
「だ、大丈夫ですか?」
ノルンさんが五郎に心配そうな視線を向ける。
「ああ。いじけてるだけだからな」
「そ、そうなんですか?
それにしたって、やり過ぎじゃ?」
「本気で戦わないとつまらないから」
くまこさんはそう笑顔で返す。
「まあ、こんな戦い方だから海の中とかは苦手な訳だ」
僕の方を向いてくまこさんが言う。
「ただ、それはしょうがないだろ。
向き不向きがあるし、じゃ、向いて無い事を頑張ろうとするとその分余計な努力が必要だ。
で、大抵どれも中途半端な器用貧乏になる。
黒みたいにな」
そう言って、くまこさんは僕らのリーダーを引き合いに出す。
「く、黒さんって、そんなタイプなんですか?」
「ああ。でもあいつがすごいのは器用貧乏を突き詰めてる所だ。
超一流の器用貧乏。
何でもできる。
でも、どれもこれもそこそこ。
何でもソツなくこなす癖に、何一つ極めて無い」
ひどい言われようだけれど、くまこさんは決して馬鹿にしている風では無く、むしろ少し自慢気だ。
「ノルンも、明日からはもっと暴れた方が良いんじゃないか?」
「で、でも、一人だけ先走ると他の人に迷惑が……」
先程六人でいた時と違い、好きに動いて良いと命じられたハティは草むら中を縦横無尽に躍動していた。
スコルも、そして、それを追いかけるノルンさんも。
「んー、他所でそんな風に言われたか。
まあ、ここはそんな事気にする連中じゃ無いから。
なあ?」
「そうですね」
水を向けられた僕は素直に頷く。
「明日は、ノルン達を先頭にしよう」
「え、だ、大丈夫かなぁ」
「大丈夫、大丈夫。
チビ君は、五郎の上から見学かな」
「そうですね」
そう言われ、少し悔しかったけれど本当にそれしか無さそうだ。
それが、思わず表情に出たのかもしれない。
「あ、もう一体召喚してみたら?」
そうノルンさんが提案してくる。
「もう一体……」
僕は頭を上に居るファントムを見上げる。
そして、ノルンさんの横で伏せるハティとスコルを見る。
「出来るのか?」
そう、くまこさんに問われる。
「はい」
「いいなぁ」
「あれ? くまこさん、称号は?」
ノルンさんに問われ、くまこさんは首を横に振る。
「え? で、でも結構レベル高いですよね? 五郎」
「ああ。朝景が言うには親密度が低いんだろうとさ」
「ああ。なるほど」
僕とノルンさんは同時に寝転がったままの五郎に目を向ける。
毎日あんな調子で痛めつけられて居るのだろう。
「むしろ、良く逃げないですよね」
「いや、ちゃんと可愛がってるよ?
毎日お風呂に入れて、ブラッシングして」
お風呂とくまこさんが口にした瞬間、五郎がわずかに顔をそちらに向ける。
お風呂、か。
頭の上でファントムが僅かに赤く揺れる。
◆
「親方、スカーライって地上と島を繋ぐんですよね?」
今日も食卓には羊肉料理が並ぶ。
とても幸せそうに赤ワインのグラスを傾ける親方。
くまこさん、ノルンさんと共に森の町に帰り、そして二人と別れ僕は親方の家に戻った。
「そうだな」
「この大陸、森の奥にもスカーライがありました。
でも、その先はやっぱり大地でした」
羊肉のステーキにナイフを入れながら、大地の様子を報告する。
「あそこは元々、王の都へつながっていた筈だ。
最も、何百年も前の話をだが。
それが大地に存在していると言うことは、つまり、空から落ちたのだろう」
なるほど。
そう言う事なのか。
では、あの門の下に都が埋もれているのだろうか。
「私たちの島も、いずれはそうなっていただろう。
だが、それに怯える日々は終わった。
だからと言って、怯える物が無くなった訳ではないがな。
一歩町から外に出ると、そこは魔獣の闊歩する世界。
奴らが一団となって押し寄せればこんな小さな町、すぐに消し飛んでしまうだろうから」
「そうですね」
そう、同意した僕に親方は少し寂しそうな顔をする。
「まあ、やすやすとはやられないさ。
その為に私は銃を、武器を作るのだから」
「そう言えば、あの新作」
「おお、凄いだろ」
「意欲品はあれっきりにした方が良いですよ」
きっと酷評しかされないだろうから。
「武器は、扱いやすさが第一です。所詮、消耗品なのだから」
そう繋げた僕に親方は珍しく口を尖らせる。




