77 初陣
戦士の草原。
そう名の付いたフィールド。
森の奥、羊の木を倒した先に鎮座していたスカーライ。
そこから転移した先は、轟々と風が吹き付けるサバンナだった。
荒野に、まるで遺跡のように残った門。
昨日、その門まで転移して引き返した。
今日改めてその大地を踏みしめる。
五人のプレイヤーと、四体の召喚獣、そして相棒のファントムと共に。
「よし! 行くぜ!」
真っ黒の熊、五郎に跨り先頭でくまこさんが拳を突き上げる。
「おー」
と、右手を突き出しながらそれに続いたのは僕だけだった。
くまこさんが驚いた様に振り返る。
これ、しきたりじゃなかったのだろうか。
でも、くまこさんはとても嬉しそうに白い歯を見せ満面の笑みを浮かべる。
◆
「どうすんだ? これ」
「うーん、想定外ですね」
フィールドを少し歩いて、僕らの目の前に立ちはだかったのは背の高い草が生い茂るエリア。
「迂回するか?」
その高さは四つ足で歩く五郎の頭より高く、やや背の高い朝景さんでさえ、胸の辺りまで届くようだ。
つまり、僕の背丈より高い。
「いや、それも難しそうだ」
朝景さんが仮想ウインドウを睨みながら言う。
「ずっと続いてる」
「その上、索敵も効き辛い様ですね」
つまり、草の中から突然モンスターが現れる可能性があるのだ。
草の上に視点があればそれもわかるだろうが、僕の目の位置からだとどうだろう。
いきなり飛び出て来たら避けられないかもしれない。
「草刈りしながら行くのか?」
「誰がそんな便利な物持ってんだよ」
「草をかき分けながら進むしかありませんね。
となると……」
黒さんが僕の方を見る。
それに釣られ、全員の視線が僕に集まる。
「チビ助は、空飛んで後から付いて来れば良いんじゃねーの?」
「もう、出来なくなったんです。あれ」
「そうなのか?」
くまこさんが目を丸くする。
「はい。バランス調整と言われました」
「うわー。勿体無い。なんか代わりにもらったか?」
「えっと、スキルストーンとイクスストーンを貰いました」
それは、そのままファントムに上げたけれど。
「うわー。勿体無い。もっとゴネれば良いのに」
「子供に変なこと教えないの」
自分の事のように悔しがるくまこさんをパールさんがたしなめる。
「しゃーない。
チビ助は五郎に乗んな」
そう言って、熊から飛び降りるくまこさん。
「良いんですか?」
「まあ、どっちみち戦いの時は下りるからな。
落とされない様に気をつけてな。
お前も落とさない様にしろよ!」
そう言って熊の頭を思いっきり叩く。
熊は牙を剥き出しにしてくまこさんに吠える。
そして、睨む様に僕を見てから伏せをする様に身を低くする五郎。
大丈夫だろうか。
「首に跨って、頭をしっかり掴め」
僕の脇に手を入れ後ろから軽々と持ち上げるくまこさん。
言われた通りに、五郎に跨る。
すると、五郎はゆっくりと起き上がり、二本足で立ち上がる。
三メートル以上はあろうかと言う巨体の上で一気に視界が開けた。
風に靡き、まるで波立つ海の様に草が揺れる。
「じゃ行くぞ。
ワンコ達は五郎の後に付いて来な」
「は、はい」
くまこさんが躊躇いもなく草をかき分けながら中へと入って行く。
それに黒さんと朝景さんが続き、五郎、ノルンさんと狼達、パールさんとつづく。
五郎の歩いた後は草が押し倒され少しは歩きやすそうだ。
「何か来るぞ」
「どっから?」
「前。姿は見えない」
仮想ウインドウを表示しながら歩く朝景さんがくまこさんに声をかける。
僕の索敵スキルには敵の表示は無い。
朝景さんは何を見て居るのだろう。
そう言えば、小六は随分と上空を飛んで居る。
くまこさんが歩みを止め、警戒する。
「噛まれた! クソ。
蛇だ!」
そう言ってしゃがみ込むくまこさん。
「捕まえた。アサ! 放り投げるぞ」
「良いぞ」
「うりぁ!」
くまこさんが両手で蛇を掴み、それを空へと放り投げる。
それは、五メートル以上はあろうかと言う大蛇。
「ラビット! 撃て」
「はい」
空に打ち上げられた蛇へすぐさま朝景さんがボウガンを向け、矢を撃ちながら僕に指示を出す。
言われた通り銃口を落下する大蛇へと向ける。
流石に両手で、とは行かず五郎の頭を掴みながら片手で引き金を引く。
身に矢と銃弾を受けた大蛇は、その落下地点で待ち受けるくまこさんのアッパーカットでトドメをさされ、粒子と化した。
「解毒」
後ろからパールさんの声。
白い光が、一瞬くまこさんを包む。
「あざっす」
「いいえー」
間に五郎を挟んで二人の短いやり取り。
すごい。
彼らの淀みない動きに思わず感心する。
全員ここに来るのは初めてだと、そう言っていた。
でも、突然現れた敵に動じる事なく、的確に処理して見せた。
くまこさんの放り投げるという一言で朝景さんは意図を察したし、何も言わずともパールさんは解毒を施す。
それだけの時間を共に過ごしてきた事の証左なのだろう。
再びくまこさんが歩き出す。
どんな敵が来ようと対処出来ると思っているのだろうし、実際そうなるのだろう。
五郎の頭の上でそんな風に思った。




