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72 新たな銃

「おはよう」


 ログインして直ぐに何時も様にファントムに挨拶。

 そして、アマリさんへとメッセージを送る。


 もし、一晩経ってもフェンリルに入る気が変わらなければ改めて連絡を。

 そう、昨日言われた通りにフェンリルへ入る意志を彼女へと伝える。


 そして親方と朝食。


「ショータ。

 この後私はアランのところへ行ってくる。

 その間に鉄のインゴットを作っておいてくれ」

「わかりました。

 アランさんは何か注文ですか?」

「いや。

 この町にも生産者ギルドを置くことになって、臨時でアランがその代表になる。

 その手伝いだ」

「そうですか。頑張ってください」

「いや、別に私は奴の愚痴を聞いてるだけの役なんだがな」


 そう言って親方は笑う。

 開拓組の人達が行ったことは、その手を離れ動き出しつつあるようだ。


 ◆


 僕はインゴットを作り、そして昨日と同じ様に属性弾に仕上げる。


 その横で、戻って来た親方が何か作業を始めた。

 スパナさんが手入れをした機械は、澱みなく鉛の銃弾を作り上げていく。

 それに魔法を掛け、属性を与えて行く。

 時折、お茶を飲んでMPを回復させながら。

 それから、セレンさんに頼まれていた彼女の矢。


 二人だけの工房に機械の音だけが響く。


「ショータ」

「はい」


 親方が作業の手を止め、僕を呼ぶ。

 何だろう。

 まだ、ご飯の時間には少し早い。


「お前は、私の弟子だ」

「はい」

「だが、鍛冶屋になるつもりは無いんだな?」

「はい」


 僕の答えに親方は少し寂しそうに小さく息を吐く。


「実はな、何人かここで学びたい、機材を使いたいと言う人が居てな。

 新しく弟子を取ることにした」

「燕三さんですか?」

「いや。奴はここの家主だ。家賃代わりにここの機材を使う。そう言う契約だ」


 そうだったのか。


「しかし、そうですか。

 新しいお弟子さん」

「だから、明日からは手伝いはしなくて良い。

 これは、餞別だ」


 そう言って親方は銃を僕に差し出す。


「試作品だが、左用もすぐに用意する。

 それを持って……お前はお前のやりたい事をしろ」

「はい。

 では、部屋の荷物はすぐにまとめます」


 と言っても部屋には銃弾と金塊くらいしか置いて無いけれど。


「いや、部屋はそのままで良いぞ」

「は?」

「流石に弟子全員を住まわすつもりは無い。

 暫く引きも切らないでやって来そうなのだ。

 なので外弟子だな。

 住み込みはお前だけだ」

「そうなのですか?」

「ああ。

 まあ、旅立つなら止めは……しない。

 だが、ここに帰る場所がある。

 それを忘れないで欲しい」

「……はい」


 帰る場所……。

 それは、とても暖かく僕の耳に響いた。


「飯は好きな時に、いや毎日食べに来い。

 ちなみに今晩は、オムライスだ」

「はい。

 ……親方、何だか……お母さん、みたいですね」


 などと言っては見たものの僕には、母親の記憶は無い。

 本で読む母親とは、こう言う感じなのだろうと、そう思っただけなのだが。


「……いや! 待て! そんな年では無いぞ!

 …………いや、そんな年に見えるのか。

 まあ、そうか。

 そうだよな……」


 親方が顔をひきつらせる。

 どうも不味い事を言ったみたいだ。


「あ、ごめんなさい。

 深い意味は無いです」

「ハハハハ……そうか……」

「この銃、試し撃ちをして来ます。

 夕方には戻ります」

「ああ。自信作だ。

 是非、感想を聞かせてくれ」

「はい」


 僕は、新しい銃を手にファントムと二人、森へと向かう。


 ◆


「親方って、馬鹿なんじゃないかな」


 数発、親方の試作品だと言う新しい銃を試し撃ちした僕は思わずそう独り言を漏らす。


 鈍い銀色に輝くそれは、ショットガンの様に銃口が二つ横に並んでいる。

 散弾ならば、何ら問題はなかったであろう。

 でもこの銃は小型の拳銃で、今までと同じ銃弾を射出する。

 引き金が二段になっているらしく、奥まで引く途中で一発右の銃口から弾が吐き出される。

 更にそのまま奥へと引き絞ると左の銃口からもう一発。

 つまり、連射が可能な拳銃なのだ。

 そう言うと、便利そうに聞こえるのだけれど、問題は普通の拳銃と同じ様なフォルムに銃口が二つ付いている所為で狙いがずれる。

 しかも、一発目と二発目で射出する銃口が違うので手を固定して撃つと必ず着弾点がずれる。

 それでも、現実ならば、人体ならばまあ、相応に破壊はするだろう。

 でも、このゲームだと弱点をピンポイントに打ち抜く必要がある。

 同じポイントへ弾を当てるには、引き金を引き終わるコンマ数秒の間に狙いを矯正しなければならない。

 一発目を撃った反動と跳ね上がりを考慮に入れて。


 つまり、簡単に言うならば実戦では使い物にならない不良品。


 こんな物を使って居たら変な癖がつきそうだなと手の中の銃を眺めながら思う。


 引き金を引きながら手首を流す様に僅かに角度を変える。

 そんな撃ち方……。


「ハハハハ」


 不良品の使い方を真剣に考えている自分が可笑しくなった。


「別に、変な癖が付いても良いか」


 そうやって、銃がまともに扱えなくなって困ることなんて無いのだから。

 そう言う結論に至り改めて銃を握り直す。

 捻くれていて扱いにくい。

 でも、ちゃんと扱えばきちんと仕事をする。


「なんか、親方そのものみたいな銃だな」


 そう思ったら、これはこれで悪くない気がして来て。

 もう少し、使い込んでみようとそう思った。


「じゃ練習を再開しようか」


 僕の側でじっとして居たファントムにそう声を掛け、再び森の中へ獲物を探しに行く。


 ◆


「ただいま戻りました」

「おかえり」


 工房で僕を迎え入れたのはセレンさんだった。


「こんにちわ。矢、出来てますよ」

「早いわね。ありがとう」

「親方は?」

「スパナさんとすっかり出来上がってるわ」

「え、もう?

 早いですね」

「何かあったのかしらね?」

「何でしょう?」


 矢を渡し、その代金を受け取りながらそんな会話。


「それで、貴方フェンリルって所に入るの?」

「はい。そのつもりです」

「そう。……負けないわよ!」


 僕を見て、セレンさんはそう言ったけれど……一体何の事だろう。


 酔った親方とスパナさんに絡まれつつ部屋に戻りログアウト。

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