71 クラン・フェンリル
三人に連れられ着いた先は森の町からやや離れた郊外の小さなあばら屋。
その軒先でトンカチを持ち釘を打つ人。
あれは、もしかしたら先日親方の工房に釘を求めに来た人では無いだろうか。
「団長、戻ったぞ」
黒髪の人が、そのトンカチを持った人にぶっきらぼうに声をかけた。
この人が団長なのか。
振り返ったその人は、僕たちを心から歓迎する。
そんな笑顔を浮かべていた。
「おお、ご苦労。
久しぶりだな。アマリ」
「お久しぶり」
「おんなじゲームでも、会おうと思わなければ意外と会わないもんだな」
「そうね」
「そして、ああ、この前鉄屋で会ったな。少年」
「そうですね」
お茶を出す時に少し顔を合わせただけなのに覚えていたのか。
「こんな所で立ち話も無いでしょう」
「ああ、そうか。
まだ作りかけだが、中へ入ってくれ。
空が見える素敵な家だぞ」
パールさんに言われ、頭を掻きながら家のドアを豪快に開けた。
その弾みで、ドアが傾むき外れかけていたけれど。
言った様に家は作りかけで、天井は無くて青空が見える。
「いらっしゃい」
しかし、そんな青空の下にテーブルとソファが置かれて居て、そこに細面の男性。
細い目を更に細める様な笑みを浮かべている。
僕とアマリさんが並んでソファに。
その向かいに、団長と呼ばれた人が腰を下ろす。
その後ろに黒髪の人が立ち、細面の人がお茶を運んでからその横に並ぶ。
パールさんと茶髪の人は少し離れた所から見ている。
「クラン・フェンリルの団長、ヴォルク」
白い歯を見せながらそう自己紹介するヴォルクさん。
「そして、副団長の二人だ」
「ハヤトだ」
眉間に皺を寄せながらそう名乗ったのは僕等を迎えに来た黒髪の目付きの鋭い人。
「黒です」
もう一人が目を細めながらにこやかに名乗る。
その様に、対照的な二人だなと思ったけれど組織の中でそう言う役割を演じて居るのかも知れない。
「さて、大まかな話は聞いてると思うが」
そこで一拍置いて、僕とアマリさんを順に見るヴォルクさん。
「このクランに入って欲しい」
そう言って彼は深々と頭を下げた。
その行為に後ろの二人はわずかに顔に驚きの色を浮かべる。しかし、すぐさま二人共無言で頭を下げる。
「団長、頭を上げて」
アマリさんが静かに返す。
「私はわかる。
でも、どうしてショタ君も?」
「どうしてって、昨日のバトル、動画で見たぞ。
凄いじゃないか。
あの空飛ぶヤツ、どうやるんだ?」
ヴォルクさんは前のめりになって僕に問う。
「ファントムの技です。
でも、もう出来ません」
「ん? どうしてだ?」
「運営の人がバランス調整だと言って禁止したので」
「何だそりゃ!? いや、まあ仕方無しか?
運が悪かったな」
「クソ運営だな」
ハヤトさんが眉間の皺をより深くしながら吐き捨てる。
「団長、それを聞くためにショタ君を?」
「いいや、楽しそうなヤツだと思ったからな」
「ソイツ、最高だよ。きっと」
茶髪の人が嬉しそうに口を挟む。
「一体目的は何です?」
「目的とか、そんな大層なもんは無いさ。
昔の馴染みが集ってワイワイやる」
「それで済む訳無いでしょう」
「まあ、ぶっちゃけ俺もそう思う。
だからまぁ、軽く最強でも目指してみるかな」
そう言ってヴォルクさんは豪快に笑う。
「て言ってもよ、クラン同士のバトルがある訳でもPKがはびこってる訳でも無いからな。
ボスを倒して攻略して回る様になるだろう。
なのでそんなに手広くやるつもりも無い。
三パーティー、十八人くらいだな。
どうする?
合わなければ途中で抜けてもらって構わない」
ヴォルクさんはそう言ってまっすぐな視線を僕に向ける。
「わかりました。
実は他にも声をかけられているので、返事は後からでも良いですか?
そちらに断りを入れて、それから受けます」
「良いぞ。いつでも待ってる」
ヴォルクさんは歯を見せ笑う。
「……ショタ君、良いの?」
「はい」
心配そうに僕を見るアマリさん。
ボスを倒して回る。
その先はきっと、森の神との約束や親方が波の神に宣言した事、そこに至るのだろうから。
◆
「おう、お帰り」
リゼさん達と別れ工房へと戻った僕を迎えたのは燕三さん。
「ただいま戻りました。何してるのですか?」
「お前……刀鍛冶が鉄打ってて鉄骨作ってると思うのか?」
ついこの前まで、ここで鉄骨を作って居たはずだけど。
「刀の打ち直しだよ」
そう言って、打ち立ての刀を垂直に立ててその出来を確認。そして、小さく首を傾げ苦い顔をする。
「燕三さんはクランを作ったりするんですか?」
「俺か? 俺は暫く源の旦那の所で世話になるつもりだ。お前は?」
「僕はフェンリルと言う所に入ります」
「……フェンリルだって!?」
「はい」
燕三さんが珍しく大声を上げる。
「知ってるんですか?」
「あ? 有名だろ?
……お前、まさか知らんで入ったのか?」
「ええ。どんな人達なんですか?」
「他のゲームでな、名を売っていた自称PKK集団。俺も噂でしか知らんが尾鰭の付いた逸話はごまんとある」
「PKK?」
「PK。プレイヤーキラー。このゲームだと不可能だが、他のプレイヤーを殺害する連中。
そんな連中を標的にするからプレイヤーキラー・キラー。
まあ、どっちも同じ穴のムジナだよな」
殺しは殺し。その命は同じと言いたいのだろう。
最も、殺した後の影響は大小あるのだけれど。
「そうか。
彼らは殺し屋集団だったのか」
「お前はそんなの似合わんと思うけどな」
そう言って燕三さんは再び刀作りに戻る。
似合わん、か。
一目で殺し屋だと見破られてしまっては、それはもう廃業するしか無いだろう。




