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67 海を歩く

前回までのあらすじ


主人公ショータ(自称12歳)は召喚獣ファントムを相棒にゲームを開始する。

先行者利益を目論む生産職プレイヤー達は、拠点となる街を作りそこへと至るショートカットとして

海へ巨大な橋を架ける。

街は序盤の攻略中心地となり、そこで店を構えることが出来たプレイヤーは労せず集客出来る。

そういう目論見で。


一方運営はフリマ機能を実装した。


 ログイン。


「おはよう」


 何時もの様に上からフワフワと僕を見つめるファントムに挨拶。


<ポーン>

<称号【波の加護】を入手しました>

<メッセージが三件届いています>


 直後にシステム音。

 仮想ウインドウを確認。


 ◆


 メンテナンス作業終了のお知らせ


 Vinculum Onlineをご利用いただきましてありがとうございます。

 ゲーム内容のアップデートのため、メンテナスを行いました。

 お客様にはご迷惑をおかけいたしたが、

 引き続きVinculum Onlineをお楽しみください。


 【作業時間】

 01:30〜03:30


 【アップデート内容】

 ・クラン機能の実装

 ・フリマ機能の実装

 ・その他バランス調整


 Vinculum Online運営チーム


 ◆


 クラン?

 何だろう。


 他は?


 ◆



 ログインしたらすぐに連絡を!

 アマリ



 ◆


 こっちも何だろう。

 でも、当のアマリさんがログインしていない。


 後で改めて連絡しよう。


 ◆



 ショータ君!

 私達はクラン立ち上げるからショータ君も来てね!

 ひより



 ◆


 こっちも何だろう。

 ひよりさんもログインしていない。

 まあ良いや。

 二人には後で改めて連絡しよう。

 そう思いながら部屋を出る。


「おはようございます」

「おはよう。

 もうじきパンが焼ける。

 先にご飯にしよう」

「わかりました」


 すでに幾つかの皿が並んだ食卓。

 僕は何時もの席へ腰を下ろす。

 すぐに、親方が焼きたてのパンを運んでくる。

 昨日と変わらぬ朝食の風景。


「ショータ。今日は工房は休みだ」

「そうですか」

「その代わり、一緒に橋を見に行こう。

 この工房の仕事の成果を」

「ええ。良いですよ」


 もともとそう言う約束だったし、既にキッチンの片隅にはお弁当の用意があった。

 朝ごはんを作る横で手際よくこしらえていたのだろう。


 ◆


「なんとも……」


 橋の手前で親方は立ったまま絶句する。

 僕らの前に海の真上に浮かぶ鉄筋に木の床を貼っただけの武骨な橋。

 海面スレスレに浮かぶように延びるその道の先に広がるのは青い海だけ。

 向こう岸は見えない。


「行きましょう」


 親方にそう促し僕は先導するように橋へと向かう。

 波の音が耳に心地よかった。


 穏やかな風と光の中、ゆっくりと歩みを進めていく。


「橋を、架けた……と言うより、置いたに近いな……」


 途中、親方がそう呟いた。


「気に入らないですか?」

「こんな無骨な橋ですら今まで無かったのだから、文句を言えるような筋合いではない。

 それはわかっている。

 だが、な。

 同時に、こんな物しか作れないのかと言う思いも……ある」


 親方は足を止め、ゆっくりと来た方向を見返し、再び道の先へ目を向ける。


「……いや、違う。

 ここから作り直していけば良いのだ。

 その為に、私は……大地テラに戻ったのだから。

 私だけでなく、皆も続くのだろう。この橋を通り……」

「そうですね。

 皆、そう願ってこの橋を作っていました」


 そして、その後の利益を見込んでいたのだろうけれど。


 再び親方は歩き出す。



「それにしても、誰も来ないな……」

「そうですね」


 僕らは森の町から始まりの島の方向へと歩いている。

 向こうからプレイヤーの一人くらい歩いてきてすれ違っても良さそうなのだが、その気配は全く無い。

 誰も橋の存在に気づいて居ないのだろうか。


「まあ、この景色を二人で独占してると思うと気分は良いがな」

「いや、三人です」


 頭の上に浮かぶファントムに目を向ける。


「ああ、そうか。お嬢さんを忘れていたな」


 そのファントムは、やや高い位置に動き、何かを見つけたのか慌てて僕の後ろへと移動する。

 目を凝らすと、海の上に人影があった。




「フハハハハ!」


 橋の横、海上に立ち高笑いを上げる人影。

 その横で親方が足を止め、問う。


「貴方は?」


 僕は、おそらくその答えを知っている。

 どうしてかわからないけれど、ファントムは僕の服の中に隠れた。


「波の神、ベレじゃ!」


 肉体を隆起させながら、浅黒く日焼けした老人が答える。


「やはり。

 このような所で何を?

 よもや、この橋を壊そうと?」


 さして驚くでもなく親方が会話を続ける。


「そんな事はせん!

 我はこの道を通る戦士の力試しをしておるのだ!

 フハハハハ!」


 そう言って、その笑い顔を僕に向ける。


「昨日の小兎の小僧だな?

 一つ、儂と力試しをせい」

「……貴方を倒せば良いのですか?」

「左様」


 神がそう答えると同時に、僕はその眉間に向け引き金を引く。


 額の中心を捉えた金の銃弾は、しかし、そのままガラスのように砕け散る。


「ファントム!」


 あまりに非常識な結果に内心舌打ちしながら、相棒に呼びかける。

 出現させた金属板が目の前に固定される。

 それを蹴り、空へと駆ける。

 もう一歩。

 神の頭上を越え、上から急襲。


 しかし、僕のその目論見は果たせず。


「!?」


 二歩目を掛けようとした、その先に足場が無かった。

 宙で姿勢を崩しながら視線を巡らせ下を探る。

 最初に足場にした金属板が、ゆっくりと動いて僕の落下地点へと回るのが見えた。

 かろうじてそこに着地して、そして、橋の上を振り返る。


 親方の後ろに隠れるように浮かぶファントムが小さく横に揺れた。


 どう言う事だろうか。


「どうした?」


 余裕を滲ませた声。

 その主を仰ぎ見る。


「アイテムトス」


 顎の下へカルテさんから貰った宝石を放り込む。

 相手に触れると同時に爆音を撒き散らしながら炸裂する宝石。

 跳躍して、僅かにのけぞった神の肩口目掛け身をひねりながら、体重を乗せ足を振り下ろす。

 狙いを違わず首の付根へと食い込んだ僕の左足を、神は何喰わぬ顔のまま鷲掴みにする。

 そのまま振り上げられ、そして、背中から海面へと叩きつけられる。

 オートポーションが発動。

 足を掴まれたまま逆さ吊りにされた僕は、橋の上へと放り投げられる。


「まずまずだな」


 そう言った神に再び銃を向けようとした僕の前に親方が立ちはだかる。


「波の神ベレよ。

 戯れはおやめください」

「儂はただ、戦士の力を見ているのみ。

 この橋を戦士が通ると、そう言っておったのでな」


 そう言って、神は親方越しに僕を見る。

 お前も聞いて居ただろう、とそう言うかの様に。


「であるならば、私の弟子は戦士たる証を示せたでしょう」

「放り投げられただけで一体何を示したというのか」


 親方は一度僕の方を振り返り、そして再び神に向き直る。


「私の弟子は自らの危険を顧みず貴方に挑んだ。

 それが戦士でなく何だと言うのです?」

「戦士ならば力を……」

「力無くば戦士でないと、そう言い放つのであれば、御自ら示したらどうですか?

 魔竜と魔神を討ち倒し!」


 語気を強める親方に、波の神が僅かにたじろぐ気配を見せる。


「まさかとは思いますがここを通る者全てにああして力試しをさせていたのですか?」

「……うむ」


 神が決まりの悪そうな顔をする。

 親方の背中から怒りを感じる。


「迷惑なので止めていただきたい!」


 親方は静かに、しかし、有無を言わせぬ口調でそう言った。


「多少は……」

「お止め下さい!

 我らは、再び地に降り立った。

 その意味をお考え下さい」

「……我らに代わり魔神と魔竜を討ち亡ぼすか。

 人の身でそれが成せると、そう言うのか」

「いつの日にか。

 我らが、我が子らが。

 剣を打ち、その刃を喉元に突き立てて見せましょう」

「……フハハハハ!

 気丈だな!

 わかった。

 汝に免じ、こちらから手を出すのは……たまににしよう!

 ところで汝、我が妾とならんか?」

「……あの、私の話、聞いてましたか?」

「フハハハハハ!

 ならんか?」

「なりません」

「そうか。

 気が変わったらまた来い。

 フハハハハハハハハハ」


 そう高笑いを残し、神はゆっくりと海の中へと消えて行った。

 全く歯が立たなかった。

 もっと強い銃弾が必要だろうか。


「怪我は無いか?」


 緊張の糸が切れたのか、その場でしゃがみ込んでしまった親方は僕を振り返りながら言う。

 その声と体は僅かに震えていた。

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