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07 特異体

 そうやって、ファントムがつくる隙を僕が狙い撃って、そこへリゼさんとひよりさんがとどめを刺す。

 そんな、にわかの連携が取れ出した頃、一度休憩になる。


 僕とひよりさんのレベルが一つ上がったからだ。


 レベルアップに伴いSPが10増え、ひよりさんがメニューを開いてその使い途を考えている。


 その間に、とアマリさんが【サバイバル】と言うスキルで三十分間敵の来ない安全地帯を作成し、リゼさんがフライパンを取り出し肉を焼き始める。


 そして、直ぐに出来上がった料理を僕に差し出してくる。

 断っても、押し問答になると思ったので今度は素直に受け取って口に運ぶ。

 パンに挟んで食べたその肉は、温かくて美味しかった。


「すごい! おいしいです。こんななにもない所で」


 僕は少し感動した。


「……そっか。喜んでくれてなにより。これも食べて良いよ」


 そう言って自分の分を僕に差し出すリゼさん。


「私は、お腹いっぱいだから。食べな」

「ありがとうございます」


 手渡されたそれを口に運びながら、そう言えば、食事を作っている所を見るのが随分と久しぶりだななどと思いだした。


「……ショタ君、家でちゃんとご飯食べてる?」


 アマリさんが不意にそんな事を言う。


「ええ、食べてます」


 三食ちゃんと、固形の栄養食の繰り返しだけれど。


「そう。なら良いけど。私のも食べる?」

「……はい」


 僕は少し考えて、結局貰うことにした。

 年上の言う事は聞くものだと教わったので。


「よし、これでいいや!」


 そう言って、ひよりさんはメニューを閉じ、パンと肉を半分にちぎって膝の上の白玉の口へと運ぶ。


「何もしてないのに良い食べっぷりだね。にゃんこは」


 アマリさんが笑いながら言う。

 白玉は、戦いの間中ひよりさんの足元をちょろちょろしていただけだった。


「何もスキル無いからしょうがないですよ」

「え、そうなの?」

「はい」

「ショタ君のファントムといい、君らの召喚獣は扱いが難しいのかな?」

「他の召喚獣は違うのか?」

「私の知り合いだと、狼なんだが普通に戦ってたよ。

 体当たりしたり噛み付いたり」

「そうなんですか……。白玉、頑張ってみる?」

「まあ、召喚自体、βに無かったからね。私も良くわからないのよ。今度聞いておくよ」


 そう、アマリさんが言った後、視界の端に『二人の召喚獣について、言ってもいいかな?』と言う吹き出しが現れる。

 次いで、ひよりさんの『OK!』と言うスタンプ。

 僕もひよりさんに倣い『OK!』スタンプを送る。


「姉さん、実はこの二匹は特別なんじゃないかと思ってる。特に白玉」

「ん?」

「ファントムはスペシャルレア。

 白玉はウルトラレアだそうだ」

「へー。

 え? ええ!? マジでか!?」


 僕とひよりさんが同時に頷く。


「言っちゃ悪いけど、それでこの弱さ?

 まさか、晩成型の成長タイプとか言うわけ?」

「だと思うんだよ」


 僕とひよりさんは、何かを納得した二人に反論する。


「ファントムは弱くないです」

「白玉は! 可愛いです!」


「お、おう。すまん。……サモナー、めんどくせぇ」

「姉、心の声が」

「おお、すまん。

 そしたら、知り合いにもそれとなく聞いてみる。

 なんかわかったら教えるよ。

 それと、あんまりレアリティの事言わないほうが良いね。

 私も他言はしない」

「はい」

「お願いします!」


 ひよりさんに続き白玉もにゃーーーーーーと鳴く。


「さてと、続きと行こうか」


 そう言ってリゼさんが立ち上がった。




 僕たちは狩りを再開する。


 陣形は前と同じ。

 リゼさんとひよりさんが敵に近づいて行き、そして僕が援護する。

 しかし、ひよりさんの動きが先程までより見違えて良い。

 動作の速さ一つ一つが向上している。

 そんな感じだ。


「【敏捷強化】でも取ったのかな」


 アマリさんが横でそんな事を言う。


「敏捷強化?」

「そう。アビリティ。効果はご覧の通り。ショタ君はどう使ったの?」

「僕は、決め兼ねて使ってないです」

「そうか。ま、悩むのも楽しいよね!

 相談だったら何時でものるから」

「はい。ありがとうございます」


 二人の戦いは順調で、僕とファントムはほとんどやることが無い。

 アマリさんと一緒に離れて眺めて居るだけだ。


「ショタ君さぁ」

「はい」

「君、下の毛って生えてるの?」

「下の毛? ……あ、陰毛の事ですか? まだです」


 どうしてそんな事聞くのだろう。

 戦う二人からアマリさんに目を向けると、何故か彼女は地面に四つん這いになっていた。


「どうしたんですか!?」

「地雷を……踏んだ……」

「え!? 地雷?」


 僕は足を動かさないように周囲を観察する。

 しかし、爆発音はしなかったし、それらしい跡も無い。


「一体どこに……」

「いや、そう言うことじゃないんだ。

 ちょっとした出来心だったのに、罪悪感がすげぇ。

 自己嫌悪でいたたまれないだけなんだ……」

「だ、大丈夫ですか?」

「駄目かも知れない」

「ど、どうしよう」

「いや、どうもしなくて良い。うん。ただ、薄汚い私をその純真な目で見ないで欲しい」


 そう言われても……。

 困惑する僕にリゼさんからトークで通信が入る。


『……ショータ。ちょっと、二人でこっちに来てくれ』

「はい。アマリさん、リゼさんが呼んでます。行けますか?」

「うん。……平気」


 そう言ってアマリさんはフラフラと立ち上がる。

 リゼさんとひよりさんは、少し背の高い草の陰に隠れその先を警戒している。

 そんな風に見えた。


 何か居るのだろうか。

 僕は少し腰を低くしてそちらに急ぎ向かう。


「どうしたんですか?」


 振り返った二人は、僕を見て一瞬顔を赤くする。


「? どうしたんですか?」

「いや、何でもない。それより、あれを見て」


 リゼさんは前方を指差した。

 そこには、黒い体に赤い鬣のライオンが木陰で眠るように座っていた。


「アートルムライオン。特異体か」


 そうアマリさんが言う。


「特異体?」

「稀に現れる個体。同じエリアの他の敵に比べ、段違いに強い。

 どうする? 私も参加しようか?」


 後半はリゼさんに問いかける。


「いや、白玉に経験値をあげたいから手を出さないでくれ」

「ギリだと思うよ」

「まあ、負けるのも経験だよ」

「そうか。なら良い。頑張れ」


 そう言って、アマリさんは二人に回復魔法をかける。


「じゃ、行こう。ひより。

 出し惜しみ無しで」

「うん!」

「ショータ。援護はまかせる」

「はい」

「アマリさん。今回は白玉を預かってください」

「了解!」

「良い子にしてるんだよ!」


 アマリさんに抱きかかえられた白玉がニャーーと鳴く。


「行くぞ」

「おう!」


 リゼの掛け声と同時に二人が草陰から飛び出して行く。

 二手に分かれ。


 アートルムライオンは直ぐに二人に気付き起き上がる。


「こっちだ!」


 そうリゼさんが声を上げる。

 ライオンはすかさずリゼさんへと狙いを定める。


「足を止めて見ます」


 そう通信を入れ、ライオンの両足目掛け引き金を引く。

 射出された弾は確かにライオンに当たった。

 でも、ライオンは全く意にかえさず、そのままリゼさんへと飛びかかる。


 リゼさんの下からすくい上げたリゼさんの剣がライオンの体をすり抜ける。

 それと同時に振り下ろされたライオンの前脚がリゼさんの体を爪で切り裂く。

 一瞬爪の跡が赤く光り、リゼさんのHPが三割程削られる。


 そのライオンの側面から、ひよりさんが槍を突き出しながら突っ込んで行く。

 槍の穂先から、わずかに赤く発光して見えるひよりさんは槍を構えた姿勢で、大地の上を滑空して居た。


 そのまま体当たりして槍を突き刺し、ライオンを弾き飛ばす。


 すごい。


「Ninjaだ」

「あれは武技アーツ

「必殺技ですか?」


 問いかけながら僕は着地したライオンに向け引き金を連続して引く。


「ま、そんなもの。

 でも、隙が大きい」


 一歩後ろに下がり再び槍を構えるひよりさん。

 そして、再度ライオンの正面から突っ込む。


 しかし、それは横に飛んだライオンに躱されそのまま体当たりを受け吹き飛ぶ。

 一気にひよりさんのHPが半分近くまで減る。


 地に転がったひよりさんへ更に追いすがるライオン。

 上からのしかかられ既にHPは四分の一。

 僕は必死に引き金を引き続けるが、ライオンは全くこちらを気にしない。


「こっちだ! フレア・アロー!」


 リゼさんの前に細く長い炎が現れ、ライオンへ向かい行く。

 振り返りながら跳躍して躱したライオンは今度は狙いをリゼさんへと定める。


「アマリさん。今のうちにひよりさんの回復をお願いします」

「しないよ」

「どうしてですか!?」

「今、彼女を回復すると、君たちと共闘した事になってしまってその分経験値の取り分が減るの」

「でも!」

「ショタ君。これは実際死ぬわけじゃ無いのよ。

 死んだらどうなるかを身をもって経験する事も大事。

 大丈夫。あの二人がやられたら私がショタ君を抱えて逃げてあげる」

「それは、大丈夫では無いです」

「うぇぇ?」

「みんなで帰りたいです」

「あ、そう言う事か」


 僕はライオンに集中する。

 僕にできる事はここから銃を撃つ事。


「こっちだ!」


 僕は声を出しながら走り出した。

 ライオンの注意を引きつけようと、そう思い。


 でも、ライオンはリゼさんへと牙を剥いたまま。

 当たった弾が効いて居るのかさえわからない。


 飛びくるライオンの爪をリゼさんが躱しながら剣を振るう。

 ひよりさんが立ち上がった。


 あまりに手応えが無く、少しイラついた僕はライオンの眼に狙いを定める。

 ライオンが動きを止めた一瞬。

 そのタイミングで両目に向けて。


 その攻撃に、ライオンはネコの様な悲鳴を上げ、飛び上がった。

 僕の銃がはじめて有効打を与えた気がする。


「ナイス! 暗闇の状態異状だ。

 ひより、畳み掛けるぞ」

「了解!」


 再び突撃するひよりさん。

 そして、連続して高速の突きを繰り出すリゼさん。

 ライオンは、両目を固く閉じそれを避ける事が出来ない。


 二人の攻撃をその体で受け、鳴き声を上げながら地を転がり逃げるライオン。

 そして、大きく跳躍し、二人と距離を取る。


 ライオンの目が再び開かれた。

 そして、赤いたてがみを発光させながら大きな咆哮を上げる。

 鼓膜が破れる様なその声に、一瞬体の自由が効かなくなる。

 そして、ライオンが再び僕らへと襲いかかる。

 その速度は今までで一番早く。

 ライオンは目の前で武器を向ける二人の間をすり抜ける僕の方へと突っ込んで来る。

 全身のバネを使って地を蹴りながら。


 避けないと。


 そう、頭ではわかって居るのだけれど何故か体が言う事を効かない。


 ライオンが両前足を地に付け、次の跳躍で僕の所へと届く。

 そのタイミングで、ピシッと言う音がした。

 気を削がれた様に、あるいは呆気に取られた様に立ち止まるライオン。

 いつの間にか、ファントムがライオンの顔のすぐ横に浮かんで居た。


 再びラップ音。

 それに驚いた様に一度体を震わせた後、ライオンがその爪でファントムを引き裂かんと前脚振るう。


「逃げて」


 咄嗟にそう叫んで、そして体が自由を取り戻す。

 しかし、ライオンの腕は振り下ろされ、ファントムを切り裂く。


 でも、ファントムは何事も無かった様にそこへ漂って居た。


 ピシッ。

 今まで一番大きなラップ音。

 ライオンが体を硬直させる。


 僕は銃をライオンへ向ける。


 向こうからリゼさんとひよりさんがライオンへと襲いかかる。


 三人の攻撃を同時に受け、ライオンは膝を折り、そして粒子と化して消えて行った。


 リゼさんとひよりさんが、嬉しそうに顔を見合わせた後、「やったー」とこちらに駆け寄って来る。

 そして、そのまま僕を抱きしめる。

 二人挟まれもみくちゃに。

 苦しい……。






「しっかり休め」

「じゃーねー」

「バイバイ!」


 ライオンの倒した後、直ぐに町に戻った。

 メニューから<帰還>を選ぶ。それだけで、一瞬で。

 リゼさん、アマリさんからのフレンド申請をそれぞれ受理して、アマリさんに勧められままに、宿屋でログアウトする事にした。


 こうすると、もう一度ログインした時に、少しの間ステータスがわずかに上がった状態らしい。


 今日、色々と教えてくれたみんなへ手を振り返し受付を済まし、教えられた部屋へ。


 窓の外に三人が並んで通りを去っていく後ろ姿が見えた。


「……楽しかった」


 僕は、ベッドに腰を下ろしながらそう呟く。

 ファントムがふわふわと浮いている。


「君はすごいね」


 最後はファントムが居なければ助からなかったかも知れないと、アマリさんが教えてくれた。


 おいでと、両手を伸ばす。

 ふわふわと近寄って来たファントムを、ひよりさんが白玉をかわいがる様に足の上に。

 もちろん、足の上に浮いているだけだし、触れもしない。

 でも、ひよりさんが白玉にして居たみたいに撫でる真似をしてみる。


「ありがとう。僕の所へ来てくれて」


 そう言うと、ファントムは赤くなったあと、ピンクに変わり、溶けたみたいにぐにゃりとなってしまった。


「ところで姉よ。

大体予想はつくのだが、お前はショータに何を聞いているんだ?」

「な、なんのことかな?」

「パーティトークが繋がりっぱなしだった……」

「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ………。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

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