62 白兎
『淤岐島作戦、第一フェーズ、弓隊、構え。
カウント、二十より。
十九。
……。
……』
辺りが一斉に静まり返る中、RenNaさんの声が響く。
淤岐島作戦。
今回のフリアイ及び、その取り巻きの鳥を一掃する為の戦闘行動。
その骨子は、昨日の午後に僕が源さん達に伝えた考えが中心になって居る。
決行までに日付が変わる程の時間を要したのは、作戦名が決まらないと言う、至極些細な事が原因。
夜になってもまとまる様子が見られないので僕は先に寝る事にした。
そして、朝、ログインして作戦名と僕の役割が伝えられると共に衣装を手渡された。
真っ白いスーツとコート。パンツのところに丸い尻尾。
頭にウサギの耳のカチューシャ。
日本の神話に出て来る因幡白兎と言うのがモチーフらしい。
僕は、ワニの背を駆け海を渡る兎役。
着替えた僕はその後三十分程の立ち代わり入れ替わり色んな人と記念撮影をさせられた。
意味がわからないとセレンさんが呟いて居たけれど、僕も同じ気分だ。
『二……一……射てっ!』
RenNaさんの声と共に一斉に矢が放たれる。
それに合わせる様に、鳥が一斉降下を始める。
『第二フェーズ、魔法隊、カウント十に合わせ詠唱。
十……九……八…………二……一……放てっ!」
各々詠唱を始めた魔法が一斉に放たれ、色とりどりの閃光を放ちながら矢の間をすり抜けた鳥へと襲いかかる。
『第一、第二フェーズ問題無し。
弓隊、魔法隊は攻撃行動継続。
作戦は、第三フェーズへ。
ピラー発動は、ラビットのタイミングでどうぞ』
さて、僕の番だ。
「良いかい?」
「はい。いつでもどうぞ」
僕の返答に灰さんは頷いて空を仰ぐ。
「全魔力注入・フレイムゥ・ピラァー!」
灰さんの魔法が空に向け一直線に炎の柱を作り出す。
曰く、現時点で全プレイヤーで最強の攻撃魔法。
それは、鳥の群れの中へぽっかりと穴を穿つ。
「行こう」
ファントムが僕の声に合わせ小さく揺れる。
僕は束の間空いた空への穴。
ただその一点を目指し跳躍。
足元にファントムがすぐに足場を移動させ事を確信して。
『ラビット、射出。
各員、誤射に注意。
繰り返す。
ラビット射出。
各員、誤射注意』
穴が塞がる前に。
と言うか、昨日は単身で切り開いたのだからわざわざこんなに大袈裟にしなくても良いのに。
さっさと上に上がらないと、味方からの矢が当たりそうだし、魔法で視界を遮られる。
その辺、ちょっとはこっちの事を考えてくれる様な、そんな人達では無いのだから。
「退いて!」
銃で行く手を遮らんとする鳥を追い払いながら、真っ直ぐ空へ。
やがて、雲の様な鳥の群れを抜け空の下へ。
居た。
「RenNaさん。
こちらラビット。
目標、目視で確認」
『了解。こちらも捕捉した。推定座標、問題無し。
下方はオールクリア。
作戦は第四フェーズへ移行』
「了解。
第四フェーズに移行します」
返事を返しながら、フリアイとの距離を詰める。
こちらに気付き不敵に笑うフリアイ。
直後、昨日と同じ様に鞭の一撃が振るわれる。
跳躍して躱す。足場はファントムが素早く移動させる。
同じ手は食わない。
移動しながら仮想ウインドウを開き、フリアイを見据える。
「アイテムトス」
選択したアイテムは、スパナさん特製の絶対に外れないトラバサミ。
ガシャンと言う鈍い音と共にフリアイの足にトラバサミが食い込む。
「特性消去」
トラバサミの先に付いた鉄骨。
軽量化が施されたその鉄骨からその軽量化を削除したのだけれど、必要なかったかな。
鉄骨の重さに逆らいきれずフリアイがすごい早さで落下して行く。
必死に翼を動かすけれど結果は変わらない。
「…RenNaさん。第四フェーズ完了」
『了解。
第五フェーズへ移行。
海中部隊、着水ちてあー来た、着水!』
その声と共に眼下に水柱が上がるのが見えた。
『来たァ! お前かぁ! 私のショタ君に鞭を食らわせやがった奴は!
私でもまだ……』
レイドを組んで居るアマリさんの絶叫が聞こえて来たのでそちらの通信をオフにする。
「RenNaさん。
予定通り数を減らしながら戻ります」
『了解』
仮想ウインドウを操作しながらファントムに声をかける。
「上手く行ったみたい。
ありがとう。
下りるまでよろしくね」
ファントムはうれしそうに縦に揺れる。
僕はアイテムボックスから宝石を取り出す。
カルテさんから渡された、魔法の力が込められた宝石の山。
それを無造作にばら撒く。
すると、日の光を反射してキラキラと光りながら落下して、鳥に当たるとそこで爆発する。
爆炎の中へ、索敵を頼りに銃口を向け敵を撃ちながら眼下の仲間の元へと下りて行く。
徐々に大きくなって行く喧騒を聞きながら。
『目標、消滅。
淤岐島作戦、完遂。
繰り返す。
目標、消滅。
淤岐島作戦、完遂。
各員は引き続き残存勢力の討伐を計って下さい』
RenNaさんがそう告げるのと、僕が橋の上へと戻るのがほぼ同時だった。
一際大きな歓声が上がる。
「大成功!」
灰さんが素早く駆け寄ってきて、僕の両脇に手を入れ抱え上げる。
「作戦名が良かったからな!」
背後から源さんの嬉しそうな声。
そのまま、後ろから脇に手を入れられひょいと持ち上げられる。
そして、源さんに肩車される格好に。
周囲の人も釣られて騒ぐ中、海中から上がってきたアマリさんの姿が目に入った。
「源さん、おろして下さい」
「ん、おう」
人混みをかき分けながら、アマリさんの方へ。
橋まで泳いできて上に上がろうとする彼女の前で、僕はしゃがみ込んで手を差し出す。
少し驚いた様な表情を浮かべたアマリさんに僕は素直に声をかける。
「アマリさん。
ありがとうございました」
「へ?」
フリアイに鞭で叩きつけられた事なんて、本当に些細な事で全く気にもしていなかったのだけれど、それをアマリさんは僕の代わりに怒っていた。
上手く言えないのだけれど、僕にはそれが嬉しかった。
だから、多分そう言う言葉が出たのだ。
「くそう。天然が……」
そう言って彼女は一度鼻まで海に顔を静めてから僕の手を握り返す。
少し、照れくさそうに。
そして、そのまま橋の上に引き上げる。
と同時に彼女が僕を抱きしめる。全力で。
「結婚して!!」
「しません」
枕のような胸に顔を抑えつけられながら反論する。
『総員! 追加反応! 警戒!』
緊迫感を滲ませた、突然のRenNaさんの声に橋の上が一瞬で静まり返る。




