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61 迎撃

 工房で鉄骨を作る親方の後ろで僕はその姿をなんとなく眺めながらあのフリアイをどうやって倒そうか考えていた。


 敗因は何だろう。

 不意を突かれた事と足場を奪われた事。


 勝負にすらなっていない。


 いや、鳥と対等に戦おうと言うのがおかしな話なのだけれど。

 不意打ちはもう受けない。

 足場は手持ちを増やそう。

 それで勝てるか、と言われるとどうだろう。


 フリアイだけでなくステュムパリデスの攻撃もある。

 おそらくだけれど、フリアイはステュムパリデスをある程度自由に操れると、そう考えたほうが良い。


 ああ、そうか。

 アレを何とかしないとステュムパリデスの群れは消えないのかもしれない。

 多勢に無勢。


 僕一人でどうこうできるものでは無いな。


「鳥、か」

「そうなんです」

「鳥なら罠だろう。

 トラバサミとかね。

 そう言えば絶対に外れないトラバサミを作って結局使ってないな」


 機械のメンテナンスをして居たスパナさんとそれを手伝いながら先程の出来事を報告して居たセレンさんの会話が耳に入る。


「どうしてですか?」


 工具を手渡しながらセレンさんが尋ねる。


「絶対に外れないと言う事は、再利用出来ないと言う事。

 そんなもの要らないと呆れ顔で言われたのよ。

 再利用したいなら予め言えば良いのに」

「いや、そこは普通に考えたらわかるだろう」


 呆れ声で親方が言う。


「むしろそう言うのが欲しかった、と言う輩も居たのだけれど」

「本当か?」

「真っ当な人間には到底見えなかったからお断りしたけど」

「どう言う事ですか?」

「まあ、拷問にでも使うつもりだったんだろう」


 そう軽く言ったスパナさんにセレンさんは顔を顰める。

 確かに拷問の道具としてなら利用価値はありそうかな。

 非合理的な行為なのだけれど。

 情報が必要なら自白剤で済むし、死体の処理は薬品で。

 相手をいたぶりながら何かを聞き出し、挙句、遺体を海に沈めるなんてフィクションでしか無い。それか、素人仕事、見せしめか。


 ……フィクションか。


「スパナさん。

 その道具、見せてもらっていいですか?」


 あのフリアイを倒す馬鹿げたアイデアが思い浮かんだ。

 成功するかどうかもわからないけれど。


 ◆


「櫓もう一組組み立てろ!」

「誰か海中に薬届けろ」

「くっそ、レポート終わってねーんだよ!」

「弾幕薄いぞー」

「作業員、鳥さん突っ込んでくるぞ。各自退避よろ」

「誰か、突端で長物振り回してるバカ海に沈めろ。

 邪魔でしゃーない」

「一回人員整理しろ。邪魔なやつは海へ突き落とせ!」


 喧騒に包まれる橋の上。

 一晩経っても鳥の数は減らず、その侵攻を押し返すためにこんな状態らしい。

 幸い作りかけの橋を破壊されるには至っていないがあと少しとなった工事も進まない。

 橋の上に木で組まれた櫓が作られ、その上に矢を構えるプレイヤー。

 或いは魔法使い。

 上空は大量の鳥。

 餌食になりそうなプレイヤーを急降下して襲うべく旋回している。


「ショータ! こっちだ!!」


 人混みの中から源さんが大声を上げ手を振る。

 それに気づき周りの人達が道を開けてくれる。


「遅くなりました」


 思った以上に橋の上に人が居て到着が遅れてしまった。


「大丈夫。まだ作戦前だ」


 スパナさん達の話を聞きながら思いついた事、そして、フリアイの事を源さんに通信で伝えた所、彼は直ぐにフリアイの討伐作戦をまとめ上げ各所に声を掛け決行の陣容を整えた。


「ショタ君は今回の主役だからね! 君が居ないと始まらない!」


 源さんの横でアマリさんが言う。

 腰に手を当て、胸を張りながら。

 スクール水着姿で、頭に水泳帽を被っている。

 まあ、周りも褌姿のプレイヤーが多いので違和感は無いのだけれど。


 むしろ、今の僕の格好の方がこの場では異物だ。


「ねぇ。あんな思いつきで倒そうなんて、本気なの?」


 僕と一緒に来たセレンさんが、眉間に皺を寄せながら源さんに問う。


「試せることなら、なんでもやるべきだろう!」

「でも、こんな大騒ぎになって失敗したら……」

「失敗したら次を考えれば良い!」


 源さんが満面の笑みで言い放つ。

 対するセレンさんの眉間の皺は更に深く。


「セレン! 世の中には、失敗しちゃいけないことって案外少ないのよ!」

「そうかしら?」

「そうなのだよ!

 一度の失敗が何なのだ。

 私は何度でも繰り返す。

 ショタ君を、私の嫁にする道を!」

「ならないです」


 アマリさんが口をへの字にする。


「失敗してもそれを活かせりゃ失敗じゃねーんだよ。

 引き際だけ間違えなければ案外何とかなる。

 ……だが、アマリはもう、負け戦だと自覚しろ」

「私は! 何度でも繰り返す。同じ時間を…イデェ!」


 僕らの背後から静かに現れた燕三さんに歯をむき出しにして反論した後に、身を仰け反らせるアマリさん。


『アウトです』


 GMさんの声だけ響く。

 溜息を一つ吐いてから源さんは燕三さんへ顔を向ける。


「どうした?」

「試し切りに来たんだよ」


 そう言いながら、白い木の鞘に収まった刀を僅かに引き抜いて見せる。

 親方の工房の隅でさっきまで作っていた物だろう。


「橋の上は駄目だぞ。

 やるなら褌巻いて下行けや」


 そう言いながら海を指差す源さん。


「クソ。

 ……褌、寄越せ」


 燕三さんが顔を顰めながら言った言葉に、源さんとアマリさんが目を丸くする。


「小坊主。

 ババアから伝言だ。

『晩飯冷める前に終わらせて帰ってこい』だとよ」


 僕にそう言ってから、燕三さんは刀を担いで下がっていった。


「アイツ、わざわざアレを伝えに来たのか?」

「超意外」


 源さんとアマリさんが顔を見合わせる。


「うおーい、そろそろ始めないと野郎どもが限界だぞー」


 燕三さんと入れ違いに声をかけてきたのは灰さん。

 僕に気づき軽く手を上げた彼女に会釈を返す。


「うっし。じゃやるか!」

「ショタ君、失敗しても次の作戦はあるから思い切って行ってきな!」

「はい」


 アマリさんは僕にそう声をかけてから海へと飛び込んでいった。

 その言葉には嘘が混じっているのがわかったけれど、嫌な感じは無かった。


「なんだ。そうなら先に言えばいいのに」


 横でセレンさんがそう呟いて、口を尖らせる。


「行きましょう」


 僕はそんなセレンさんに声をかけ、拳を突き出す源さんに拳を合わせ返し灰さんの元へ。


「よろしくね」


 灰さんがそう言いながら僕の頭に手を乗せる。


「よろしくおねがいします」

「よく似合うよ。うん。尊い」

「はあ」


 灰さんが嬉しそうに僕に笑いかける。


『あーあー、テステス。

 皆さん、聞こえてますね?』


 辺り一帯に静かな女性の声が響く。

 それに応えるように歓声が上がる。


『えー、本作戦の進行オペーレーターRenNaです。

 間もなく作戦開始。各員速やかに担当場所に移動して下さい。

 繰り返します。

 間もなく作戦開始。各員速やかに担当場所に移動して下さい。

 私信。

 来月私のセカンドシングルが配信されます。よろしく。以上私信終わり』


 抑揚の乏しい平坦な声とそれの呼応するような歓声が戦場に響く。


 僕は灰さんの後について、一台の櫓の下へ。


「じゃ、私は上に行くわ。

 ……がんばってね」


 セレンさんがそう言った後に櫓の上へと上っていく。

 その先には、クロスボウを持った灰さんの仲間の人、朝景あさかげさん。

 以前、親方達の護衛として一緒にこの大陸へ来たトップグループと呼ばれていた人。


『……では、定刻通り、一三ひとさん〇〇(まるまる)より、淤岐島おきのしま作戦開始します』

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