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60 新技

「弾幕、薄いぞ!」

「MP切れたやつは作業に戻れ!」

「急降下だけ気を配れば他はそんなに痛くない」


 戦闘開始から三十分以上は経っただろうか。


 絶え間なく続く魔法の発光と爆発音、そしてプレイヤーの怒号。


 それでも敵は減る気配すら無く。


「ワンハンドレット・アロー!」


 セレンさんの武技アーツ

 一射が、百の矢に分裂し鳥の次々に撃ち落ちしていく。


「焼け石に水ね……」


 そう言いながら再び矢を番えるセレンさん。


 苦戦している原因は敵の数が多いから。

 そして、それが全て下、つまりは僕達の方向へと押し寄せてくるから。

 更にその大多数が魔法の射程の外から急降下をして近寄ってくること。


 打開策と言える程の物では無いけれど僕に一つ考えがあった。


「セレンさん。少し、離れます。

 危なくなったら離脱して下さい」

「何するの?」

「上を押さえます」

「上?」

「はい」


 疑問の視線を投げかけるセレンさんに頷きを返し、ファントムの方を向く。


「行くよ」


 ファントムが小さく縦に揺れる。

 僕は仮想ウインドウを開き二十センチ四方の鉄の板を二枚取り出す。


 僕の手から離れたその板は、素早く上に浮かび上がり空中で固定される。

 その板へ向かって、全力で跳躍。

 着地に瞬間、わずかに沈み込む。

 もう一枚が、更に僕の頭上に。

 それ目掛け、再び跳躍。


 ファントムの武技アーツ、ポルターガイスト。


 無機物を移動させるだけの技。

 だけど、それを利用して空中に階段を作ることが出来る。


 戦闘で試すのはこれが初めてで、そして、思いの外大変な戦場での試用になってしまったけれど。


「うん。行ける」


 素早く上空に回り込んだ鉄の板目掛け、三度目の跳躍。

 着地と同時に上の敵へ銃弾を放つ。


 そうやって、何度も板の上で跳躍を繰り返し、時折ファントムのラップ音で敵の隙きを作り出し、魔物の群れの隙間を縫いながら空へ。


「抜けた!」


 分厚い雲のような鳥の群れのその更に上に。

 眼下には蠢く敵の群れ。


「足場、お願い」


 僕はファントムにそう声をかけ、両手の銃に金の銃弾を込める。


 意識は全て敵に。

 移動する先には必ず床が有る。

 僕はファントムを信頼している。


 パートナー、だから。


 上に現れた脅威に気付き、一斉に遅い来る鳥の群れ。

 両手の銃がそれを的確に捌いていく。

 金の銃弾は押し寄せるそれらを確実に葬っていく。


 それでも撃ち漏らしの突撃を食らうこともしばしば。


 ただ、HPが危険水位域になると自動で回復を行われる。

 オートポーション。

 取っておいて良かった。

 そのお陰で僕は絶え間なく引き金を引くことが出来る。


 持てるだけ持ってきた金の銃弾は、みるみるうちにその数を減らしていく。


 360度、周り全てから迫る敵を体を捻り回転しながら撃ち落とす。

 まるで、スケート選手の様な跳躍のその先にファントムが板を移動させる。


 そうやって、上からモンスターを撃ち落として行く。

 やがて、下のモンスターの群れの隙間から魔法の閃光が漏れて見える。


 敵が減って来た証拠。

 もう一息。


 ファントムが、突然赤く燃える様に発光。

 警告!?


 下に気を取られ過ぎて上から迫る敵に気付かなかった。

 見上げると同時に後ろへ下がる。

 上から放たれた何かが、鼻先を掠める高速で通り過ぎて行く。

 それは、甲高い金属音を響かせ足元に置き去りになっていた、金属板を弾き飛ばす。


 しまった。

 足場を奪われた。


 もう一枚の板に乗りながら改めて敵を観察する。



 モンスター【フリアイ】鳥類/レベル??

 復讐に駆られたハーピー。

 かつて天空に住んでいた女神の成れの果てとも言われている



 見下す笑みを浮かべる女性の顔に、金属製らしい翼と、羽毛に覆われた体。鳥類の様な下半身。

 手には黒い金属の様な鞭。

 先程、鼻先を通り抜けたのはアレか。


 下から迫る鳥を撃ち落としながら、フリアイの動きを警戒する。


 撃ち漏らしたステュムパリデスの金属の嘴が体に突き刺さり体勢が崩れる。


 後ろに飛んで避け……そのタイミングを見計らっていたかの様にフリアイの鞭が空を切る。


 いや、狙いは金属板か。

 振り下ろした鞭が足場にして居た金属板を弾き飛ばす。

 ファントムも抵抗はしたのだろうけれど、そんな事はお構いなしに。

 そのまま続けて振り下ろされる鞭は空中で身動き取れず落下する僕の体を違わずに捕らえる。


 強烈な力に打ち据えられた僕の体はそのまま重力も加わって高速で落下を始める。

 更に都合の悪いことに<状態異常:麻痺・毒>。

 徐々に減り行くHP。

 離脱を図ろうにも体は動かない。


 暫くの落下の後に背中から衝撃。

 海面へ叩きつけられた。

 一気にHPが危険水域へ。

 一瞬水柱が上がるのが見えたが体はそのまま海の中へと沈んで行く。

 窒息の状態異常も追加されたみたい。

 このまま死んで町へ戻るのだろう。


 ゆっくりと海の中を沈んで行きながらそんな風に考えた。


 突然、体が浮遊する。

 抱えられる様に脇から手を差し込まれた。

 そのまま、力強く抱き寄せられ海面へと向かっていく。


 水の中を揺れるピンクの髪。

 気付くと状態異常からも回復して居た。

 優雅に泳ぐ小豆の姿が見えた。



「ショータ君、平気!?」


 海面から顔を出したひよりさんが間近で心配そうに言う。


「大丈夫です。

 ありがとうございます」


 次いでサヤさんも水の中から顔を出した。


「船まで行こう」


 そう言って僕を抱えたままひよりさんは泳ぎだした。


 近くに浮かぶ小船のところまで。


「間に合ってよかった」


 小船の縁に捕まりながらひよりさんが僕に言う。

 船の上では白玉が留守番をして居た。

 ファントムも追いついて来た。


「セレンがね、もしかしたら落ちるかもって」

「本当に落ちて来るとは思いませんでしたけれど。

 小豆が見つけたのですよ」


 そうか。

 色々な人に助けられている。


「ありがとうございます」


 そう二人と二匹に頭を下げる。


 そして、セレンさんに通信。


『無事ね?』


 前置きなく問われる。


「はい。ひよりさん達に助けてもらいました」

『一度引き上げるわよ』

「はい」


 返事と共に通信が切れる。


「僕は一度町へ戻ります」

「うん。今日もたくさん魚持って行くから」

「親方も喜びます。

 では」


 仮想ウインドウから転移先に森の町を指定して移動。


 視界が一緒で切り替わる。

 既にセレンさんが立って僕を待っていた。

 海の中でずぶ濡れだった僕の服は乾いて元どおり。

 便利。


「大丈夫?

 何があったの?」

「強い奴が上に居ました」

「そう。

 一度工房へ行きましょう」

「ええ。

 セレンさん、矢はどれくらい残ってますか?」

「半分くらい。

 今日貰ったばかりなのに」

「僕は……六千発の銃弾を使いました」

「お互い大変ね」

「そうですね」

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