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56 工房のお客さん

「戻りました」


 一人、工房へ戻り機材の前に立つ燕三さんに声をかける。


「客が来てるぞ」

「僕にですか?」

「ババアにだ。奥に座ってもらってる」

「お茶は出しましたか?」

「……まだだ」

「わかりました。ありがとうございます」


 燕三さんに頭を下げ、簡易にこしらえた応接スペースへ。

 と言っても、机と椅子が置いてあるだけなのだけれど。


 仮想ウインドウを開きながら待っていたのはリゼさんだった。


「こんばんわ。今お茶を出します」

「ああ、気を使わなくて良いぞ」

「そうですか? わかりました」


 僕はそのままリゼさんの向かいへ腰を下ろす。


「今日はどうしたんですか?」

「ノーラさんに武器を作ってもらおうと思ってな」

「昨日の魔法は駄目でしたか?」

「いや、逆だよ。ショータの魔法であれほど切れ味が上がるのならもっと良いものが出来ると思ってな」

「そうですか。でも親方、刃物はあまり得意でないそうですよ?

 最初の町の職人に頼んだ方が良いんじゃないですか?」

「そこでショータの魔法の出番だろう」

「そういう事ですか」


 そこへカルテさんが戻り、軽く手を上げリゼさんに挨拶をしながら僕に声をかける。


「やっぱり女子連中はまだか」

「まだです」

「あー、客が来たならお茶を出したほうが良いぞ」

「いや、私がいらないと言ったんだ」

「ちびっ子。そう言われてもお茶は出す。

 めんどくさい話だと思うけど、そうした方が良い」

「わかりました」

「いや、本当に要らないんだが」

「マナーの話。一般的に客にはお茶を出す。それで良いんだよ。

 それでリゼは一口飲んで『大変美味しゅうございます』と言う。

 極上の笑顔で。

 オーケー?」

「お、おう……」

「では、お茶を淹れてきます」

「ちびっ子。何も聞かずに僕の分も出てくると、気の利いた男だと思われてモテモテだ」

「わかりました」


 いろいろと、暗黙のルールが有るのだな。

 そう思いながらお茶を淹れる。


「どうぞ」


 二人の前にお茶を置く。


「ありがとう。ちびっ子。今度、とっても硬い宝石を上げよう」

「いえ、結構です」


 満面の笑みのカイルさん。


「……大変美味しゅうございます」


 一口飲んで、僕の方へ笑顔を向けるリゼさん。


「ありがとうございます」

「ぎこちない笑顔だな」

「五月蝿い! そんな無茶振りする方が悪い!」

「うれしいです」


 僕はそう言って、機材の前に立つ燕三さんの元へ。


「お茶です」

「ん? ああ……すまん。

 お茶くみまでやるとは、お前、ホント小坊主みたいだな」

「小坊主、ですか?」

「んー……なんつーか、住み込みで働く弟子だよ」


 なら間違っていないのでは無いだろうか。


「でも、鍛冶屋になるつもりはありません」

「そうかい」


 再び燕三さんは機材へ真剣な顔を向ける。

 僕は、二人の元へ。


「しっかし遅いな。

 呼び出せば?」

「いや、急がないので気長に待つさ。

 お茶もいただいたし」

「お前も少し休んだらどうだー?」


 カルテさんが大声で燕三さんに呼びかける。


「時間がない」


 しかし、燕三さんは振り返りもせず怒鳴り返した。


 こうそうしているうちに楽しそうな声と共に五人の女性が戻ってきた。

 真っ先に工房に入りスーッと僕の方へと飛んできたファントム。

 心なしかすこし赤くなっている様に見える。


「ただいま」

「おかえりなさい。親方、お客さんがお待ちです」

「何?」

「こんばんわ。お邪魔してます」

「あら、リゼ」

「待たせてしまったかな? すまない」

「いえ、約束もなく来たのはこちらですし、お茶もいただいてましたので」

「そうか。ありがとう。ショータ」


 そう言って僕の頭に手を乗せる親方。


「遅かったのは事実だけどな」


 立ち上がりながらカルテさんが言う。

 そして僕達は残りの鉄筋へ軽量化の魔法をかけるためそちらへ。


「ショータ君に何を着せるか話してたら随分と長湯になっちゃったわね」

「僕のですか?」

「そうだよ!」

「何になったんですか?」

「フフフフフ」

「へへへへへ」


 皆一斉に笑いながら目を逸らす。

 なんだろう。

 見上げると、ファントムも赤くなっていた。


 再び四人で鉄骨の軽量化作業に取り掛かり、ある分全てかけ終わった頃に親方の夕食が出来上がる。

 リゼさん達も交え賑やかなものになったが、燕三さんだけは早々に離席して作業へと戻って行った。

 そのまま夜通し作業をすると言い残し。



 そうして、僕もログインしている間は付きっきりで工房で手伝いをする日々が続く。

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