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55 男湯の風景

「あれ? 混浴では?」

「先日終わりましたわ」


 お風呂屋さんの前で目を丸くする親方とヴィヴィアンヌさん。


「というわけで、僕とちびっ子はこっち。

 上がったら待ってたりしないで先に工房に帰るから」


 そう言って入り口の先の『男』と書かれたのれんの掛かる方へ進んでいくカルテさん。


「ショータくーん!」


 それに続こうとした僕を呼び止める声。


 振り返るとひよりさんとサヤさんが手を振っていた。

 二人は海で橋作りの手伝い、具体的には橋の土台を作る人達と一緒に海に潜りモンスターから守る仕事をしていた筈だ。


「こんばんは。今日はもう終わりですか?」

「そう! だから疲れを落としに来たの! みんなも?」

「私達は中休み。これからもう一仕事」

「あっちもこっちも大変ですわね」


 そう言いながら二人もヴィヴィアンヌさん達と女湯の方へ。

 だが、ひよりさんが足を止めこちらを見つめる。


「ファントム」


 呼ばれ、僅かに小さく薄くなるファントム。


「こっちだよね?」


 問われ更に薄くなるファントム。


「おいで?」


 白玉を抱いたまま片手でこいこいと言う仕草をファントムに向けるひよりさん。


 ファントムは薄く、僅かに横に揺れる。


「おいで?」


 再び手招きするひよりさん。

 笑顔だが、目が座って居る。

 ファントムは観念したようにゆっくりとひよりさんの側へ。


「じゃ、また後でねー!」


 そう言いながらひよりさんとファントムは女湯の方へと入っていった。


 ……ファントムは向こうなのか。

 どうしてひよりさんは知ってたのだろう。


 そんな事を考えながら僕はカルテさんの待つ男湯へと入っていく。


 既にカルテさんは目の上にタオルを乗せ湯船に浸かって居た。


「……うー……頭いてー。

 ちびっ子は平気?」


 顔を動かさずに問われる。


「大丈夫です」

「何だろ。個人差あるのかな」


 体を流し湯に浸かる。

 このまま十五分。

 それでステータス異常から回復するらしい。


「はー。混浴も無し。マスクちゃんも居ない。

 つまらん風呂になった」


 そう、カルテさんが呟く。


「マスクちゃん?」

「ガスマスクのGM。

 ここに居たの知らない?」

「知ってます。

 もう居ないのですか」

「混浴じゃ無くなったからね」


 お風呂の真ん中に竹で出来た高い柵が取り付けられて居る。

 以前は無かった物だ。

 それによって羽目を外す人が居なくなったと言う事だろうか。


「お前らが押しかけたからだよ」

「居たのかよ。番頭。堂々と男湯覗くな」


 エアルさんが、デッキブラシに寄りかかりながら言った。


「従業員代わりだったマスクちゃんに暇を出したからこうして自ら風呂掃除してるんだろ。

 何が悲しくて男湯なんか覗かないといけないんだ」

「じゃ、女湯行ってくれば良い。

 そこそこ綺麗所揃ってるぞ?」

「そんな事したら只の変態じゃ無いか。

 私はそこまで自分を捨ててないから」

「めんどくせーネカマだ」

「私は! ネカマじゃ無い!」

「まあ、この湯の薬効が広まれば客も増えるだろう。

 そしたら別のNPCでも雇えば良いんじゃ無いか」

「移住組の第二弾が今週末だっけ?」

「そう。今度は十数人くるらしい」

「そしたらもう、その誰かにここを譲ろうかしら」

「もう飽きたのかよ」

「……私の求めた物は、ここには無いのかも知れない。そう思うのよ」

「何を求めてたんだ?」

「……今、向こうに五人の女子が居るのよ」

「ああ。残念ながら僕が宝石を投げつけたい第一位のマスクちゃんは居ないけど」

「……垢BANされろ」

「で?」

「ああ、向こうに。

 あの柵の向こうに五人の女子が居るのよ」

「だから?」

「おかしいじゃん」

「何が?」

「普通さ、こう言うシチュエーションだったらさ『あれ? ひより、ちょっとおっぱい大きくなった?』『そんな事無いよー』『あるって。ちょっと触らせてよ』『やだーやめてよービビー』……とか言う会話がこれ見よがしに漏れ聞こえてくる筈じゃん?

 それが普通じゃん?」

「……普通じゃねーよ。その顔でキモいおっさんの妄想垂れ流すな。ネカマ」

「私は! ネカマじゃ無い!」

「うっせ。宝石ぶつけるぞ。固ったいサファイアが手に入ったんだ」

「そんな訳で理想と現実のギャップに悩む日々なのよ」

「妄想と虚構な。

 大体、アバターなんだからバストサイズ変わる訳無いだろ」

「そんな事無い!

 揉んでたら大きくなる!

 多分」


 何の話だろう。

 僕はそっと湯から上がる。

 ステータス異常は治って居た。

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