54 鉄骨の量産
鉄鉱石がインゴットに変わり、それ熱され、圧力を加えられそして冷やされて鉄骨へと変わる。
10メートルの鉄の塊。
完成したその品を、源さん、燕三さん、アマリさん、そして、チョウさんと言う橋の設計図面を作ったプレイヤーが検分する。
「実際に出来上がると、すごいね」
「このサイズで……大体2000本必要ですかな」
「そんなもんで足りるか?」
「床面は木にせざるを得ないですな。
百年持つ橋を作るわけじゃないから耐久性には目を瞑りましょう。
まずは、架けること」
「そうだな」
「しかし、どうやって運ぶかな。
アイテムボックスに入らんサイズとなると、人力で往復か?」
出来上がった鉄骨は、重量の関係でアイテムボックスに入れることが出来ないらしい。
「これ一本持つのに何人の手が必要?
海岸まで5キロ長。
護衛も必要よね?」
「先に作るべきは、トロッコだったな」
「うるせ。時間がないんだ。人手かき集めてでもやるしか無い。
夏の間に終わらない」
開拓組合の橋作りには彼らが定めた明確なタイムリミットがあった。
今月中。
殆どのプレイヤーが、夏休みが終わる来月以降は忙しくなる。
その前に何としても終わらせたいと言う。
今日が八月十七日なので、残り二週間ほどしか無い。
「ショータ。軽量化の魔法は使えるか?」
その様子を一歩下がってみていた僕に、同じく下がって眺めていた親方が声をかける。
「はい。使えます」
「では、鉄骨にそれをかけてご覧」
僕は頷きを返し、その鉄骨の元へ。
「軽量化」
たったそれだけで問題の一つは解決した。
「アイテムボックスに入る! よし、運搬は解決だな」
「流石ショタ君! 結婚して!」
「しません。
でも、MPが直ぐに尽きそうです」
対象の大きさと効果によって消費のMPが違うのだろう。
今の一回で僕のMPは三分の一ほども減った。
「付与魔法の使い手と、MP回復手段か……」
「もう一つ、問題が有る」
親方が僕の頭に手を乗せながら言う。
「一本作るのに、およそ五分。一時間十本が限度だろう。
私一人だと、一日百本が良いとこだ」
「機械を動かす手があれば良いんだろ。
夜中は俺がやるよ。
その代わりアンタは騒音の中で眠ってもらうことになるけども」
そう、燕三さんが言う。
工房に住居が隣接しているので、夜中に機材を動かすとどうしてもその音は住居まで響くことになる。
「私は鍛冶屋の娘だぞ?
金属を打ち付ける音を子守唄に育ったんだ。
それぐらい何とも無い」
そう答えた親方は、少し嬉しそうに見えた。
「そうかい。
ならやり方を教えてくれ。直ぐ覚える」
燕三さんは、つまらなそうにそう返した。
彼も鍛冶屋だと言うが、剣などの刃の付くものにしか興味が無いらしい。
「じゃ、私らはもう一つの問題を片付けよう。
マリーに相談かな」
「付与魔法使いは誰だろうな。掲示板で呼びかけるか」
親方に頭を下げ、そんな事を相談しながら三人は退出していった。
「ショータはインゴッド。
そっちのヒゲは鉄骨の作り方を教える。
新生オヴェット工房の始まりだ」
そう言って、ノーラさんは頭にタオルを巻き直す。
ヒゲと呼ばれた燕三さんが険しい顔をしてノーラさんの後に付いて行く。
僕はファントムと鉄鉱石を取りに向かう。
◆
およそ百本の鉄骨が積み上がり、親方の顔にも流石に疲れが見える。
「すごい。壮観ね」
それを眺めながらヴィヴィアンヌさんが感想を漏らす。
「これ、全部に魔法をかけるのか」
うんざりしたように言うのは彼女の知り合いでアクセサリー作りを行っているというティフェルさん。
それともう一人、宝石職人のカルテさん。
付与魔法が使えるということで急遽呼ばれた三人。
「ま、さっさとやってしまいましょう」
軽量化の付与魔法をどうするか。
それは、結構簡単に結論が出た。
マリーさんがMP回復薬として特製マジックマッシュルーム茶を用意し、回復をしながら魔法をかける。
薬の使いすぎで中毒になるのだが、そうしたら、今度は露天風呂でそれを癒やす。
昨日、森の神からマリーさんが頂戴してきた『銀のヒソップ』は、露天風呂に置かれ薬中有毒を含む解毒の湯となっている。
入湯後は1.2倍のステタータス向上効果も見込めると言う。
調査してそういう効果があるとわかったマリーさんは、もともと精油を卸していた繋がりがあるエアルさんにその話を持ちかけた。
エアルさんは二つ返事でその話に乗り、結果、売上の三分の一を渡す事になった。
僕達が一度に魔法を掛けれるのは三本。
お茶でMPを回復するのが五回まで。
その後、露天風呂で中毒を癒やして再び同じことを。
それでひとまず目の前の分は終わる。
明日からも順次誰かが来るように計画がされている。
親方は機械を操作し鉄骨を作り出す燕三さんと僕達の両方を見守っていた。
そうして、僕を含む四人がお茶をがぶ飲みしながら魔法を掛け、揃って【マジック・ポーション中毒】となる。
「一回、お風呂いきましょうか」
「そうね……」
ヴィヴィアンヌさんが青い顔で言い、ティフェルさんが頷く。
「良し! 行くか!」
何故か親方が嬉しそうな顔で立ち上がる。
「燕三、留守番よろしく!」
親方の大声に振り向きもせず手をヒラヒラさせるだけで答える燕三さん。
「何であの人、あんなに楽しそうなの?」
ティフェルさんが訝しげにヴィヴィアンヌさんに小声で問う。
「……多分、何か勘違いしてるんじゃないかしら」
ちらりと僕の方を見た後に、そう返す。
なんだろうか。




