50 遭難しかける五人
「やっぱり」
まっすぐ歩いて居たはずの僕達は再び目印のある木のところの辿り着いた。
マリーさんの漢字もそのまま残っている。
「どっかでループしてんのか」
「ループ?」
僕の疑問に、ガフさんがメモ帳に絵を描いて教えてくれた。
中心に点を打ち、そこから下に線を引く。
「僕たちはこうやってまっすぐ歩いていた」
「はい」
「でも」
ガフさんはペンを離し、ノートの上へ移動させる。
「突然、後方へ飛ばされていたんじゃないかな」
そう言って、上から中心の点まで線をつなげる。
「つまり、ある地点から先へは進めないってことですか?」
「恐らくは。
何処でループに嵌っているのは全然わからなかったね。
少なくとも見た目に変化は無かった。
敵が居ないのもそう言う理由か?」
「どういうことです?」
「周りに敵が居たら、ループの瞬間に敵が消えることになるだろう?」
成る程、と思った。
僕は少し気になったのでその目印のついた気に登って見ることにした。
上から見れば何かわかるかもしれない。
そう思い。
「何かありそうかな?」
下からガフさんの声。
「…………霧、靄のようなものに覆われています」
下を歩いている時はわからなかったが、前方、いや周囲が薄っすらと白い靄に覆われていて先が見えなくなっている。
一度下へ。
「この辺一体は不思議空間になってるんだな」
顎に手を当て、キメ顔をするガフさん。
「改めてドヤ顔するほどの事じゃない」
「予想はされてた事ですよね」
女性二人が冷めた視線を投げる。
いつの間にかお茶を淹れていた。
リゼさんからカップを受け取る。
「特製の苔茶よ。ちょっと不思議な味がするけど特別な効能は無いわ」
「ありがとうございます」
一口、口に含んだお茶はなんとも言い難い味がした。
「それを飲んだら出発しよう」
「当てはあるんですか?」
メモを見ながら言ったガフさんにリゼさんが首を傾げながら問う。
「検証。つまりは、試行錯誤」
「要は勘で色々やって見ようって事でしょ?」
「そうとも言う」
再度キメ顔をしたガフさんに源さんとマリーさんが呆れた様な視線を送る。
それからその樹海の周りで色々と試した。
横一列に広がって移動して見たり、地面に線を引きながら歩いて見たり。
二手に分かれ逆方向へ進んでも、何故か前から相手が現れる。
いっそ全部木を切ろうと言うマリーさんの意見は流石に手が足らないと一旦保留とされた。
その冗談の様な提案を真顔で検討して却下しない様にリゼさんが目を丸くしていた。
僕も内心驚いたけれど、その気になればやるのだろうなとも思った。
開拓組は、そう言う人たちだ。
そして、それまで大人しくしていたファントムもその言葉を聞いてか僅かに黒く。
「まあ、結論は急がず。
破壊は最後の手段。
壊すのは一瞬だけど、戻すことは出来ないのだから」
そう言ってガフさんは再び森の奥へと足を進める。
見落としが無いか、もう一度注意深く探るのだと言う。
「単純にフラグが立ってないんじゃない?」
「まあ、そうだろうね。
アイテムとか、イベントとか。
後は、スキルかな。称号って線もあるか」
「上から眺めて見たらどうだ?」
「空飛ぶスキルなんて無いじゃないか。
鳥でもテイムするのか?
成功した話は聞いたこと無いけど」
「いや、デカいカタパルトを作って人を飛ばせば良い」
「そうか。
……森の端から、樹海までおおよそ三キロ。
その上空を……まあ、百キロと仮定して、それだけの重さの物体を飛ばす。
重力は暫定的に現実と同じとして……」
「それ、途中で敵に襲われると思うわ」
「駄目かー」
提案した源さんが手で頭を抑え天を仰ぐ。
ガフさんは尚もブツブツと何かを計算している。
僕の頭上を漂っていたファントムが急に前を横切り木の陰へと飛んでいく。
「どうしたの?」
何か見つけたのだろうか。
僕は慌ててファントムを追う。
木々の間を縫うように飛んでいくファントムを、枯れ葉を蹴り上げながら追い掛ける。
やがて、ファントムは一本の木の前で止まる。
他の木と何ら変わりの無い木の前で。
「何?」
木の前で揺れるファントムに尋ねながらその木を観察する。
「どうした?」
直ぐ後ろをリゼさんが追いかけて来ていた。
更にその後ろから三人。
僕の目の前でファントムが木の中へと消えて行く。
そして、反対側から回り込む様に再び現れる。
それを、何度も繰り返す。
木の向こう側には変わった景色は見られない。
「ここに何かあるの?」
ファントムが消えて行く所に触れ、問いかける。
横に揺れるファントム。
その後、再び同じように木を通り抜ける仕草。
「ここをまっすぐ行け、とそう言う事かな?」
ガフさんがそう声を上げる。
それにファントムは頷くように縦に揺れる。
「真っ直ぐって言っても……」
障害物をすり抜けるなんて、ファントムにしか出来ない。
「つまり、この木が邪魔なわけだな?」
源さんが斧を手にしながらファントムに問いかける。
そうだ、と言わんばかりにファントムは縦に揺れる。
「良し、ちょっと離れてろ」
斧が木を打つ鈍い音が定期的に響くのを少し離れ見守る僕達。
源さんの側でその様子を守るように漂うファントムを見つめながら、一体何が見えているのだろうと疑問に思う。
揺れる様と色でしか伝えることの出来ない情報の断片。やり取り。それを少しもどかしく思う。
そんな僕の視線に気づいたのだろうか。
静かにファントムが寄ってきて、定位置、僕の頭の上に収まる。
そして、源さんの斧に幹を抉り取られた木が、自重を支え切れず地に倒れる。
「ん?」
「あれ?」
「ほう?」
その木が倒れた先の光景。
つまりはファントムが見せたかったであろう方向を眺め皆口々に驚きの声を上げる。
相変わらず木々が生い茂る森が続いているが、その奥に薄っすらと明かりが漏れているのが見える。
他の景色と、明らかにそこだけ違っていた。




