47 属性を奪われる
食事は出来ませんのでと言いながらガスマスクの人は消えて行った。
去り際に、何度も僕の方を見て。
マスクを外した顔を見れるかも、とちょっと思ったのに。
リゼさんが焼いたコカトリスの肉はとても美味しかった。
お預けを食らった白玉がかなりご立腹で、でも、こっそりひよりさんが食べさせていたけれど。
食後は、僕とひよりさん、サヤさんの三人。
リゼさん、アマリさん、ヴィヴィアンヌさん、灰さん、そしてセレンさんの二組に別れる。
つまりサモナー組と、その他。
森のなかで向こうの四人がセレンさんに自分たちの戦闘スタイルがいかに優れているか実践を交えたプレゼンテーションを行う横で白玉のダイエット。
小豆を追いかけ、木に登り下りれなくなる白玉。
実は小豆も白玉と同じレアリティなのだと、サヤさんがこっそり教えてくれた。
空を飛ぶ小さな鯉とデブ猫。
そして、その横を漂うファントム。
改めて召喚獣って色々だなと思う。
人間もそうか。
四人のプレイヤーに囲まれ困惑しているセレンさんを眺めながらそんな風に思う。
◆
「何にもしてないのに……どっと疲れたわ……」
並びで用意された親方の住まいと、スパナさんの住まい。
僕とセレンさんは二人共、それぞれ師匠の所に居候しているので、帰りは一緒になる。
と言っても、作りかけの町の端で解散になったのでそれほど長距離移動では無いのだけれど。
「それで、スタイルは決まりましたか?」
「色々教わったけれど、どれもいまいちピンと来ないのよね」
セレンさんは今まで細剣と魔法を使って戦ってきたのだけれど、どうも自分に向いていないと、そんな風に感じていたらしい。
それを決定的に思い知ったのが昨日の六人組によるマグマゴーレムの瞬殺劇。
新しい衣装の素材集めの傍ら、ヴィヴィアンヌさんがその相談に乗った。今日の狩りはそういう事も目的の一つだった。
途中、予定外の仲間が二人加わったけれど。
「それで、その耳いつまでつけてるの?」
彼女は僕の頭を目で示す。
忘れてた。
猫耳。
「返さないと」
頭から取り外し、手に持って眺める。
カチューシャに黒い猫の耳。
「それ、何か効果あるの?」
「少しだけ、耳が良くなるみたいです」
「本当? ちょっと、貸して」
「どうぞ」
セレンさんは手渡されたカチューシャをまじまじと穴のあくほど観察する。
「道具の状態を調べるのに、音は重要な手掛かりなのよ」
そう言いながら、そっとそのカチューシャを自分の頭にはめるセレンさん。
そして、目を瞑り首を廻らせる。
何か聞こえるのだろう。
ただのアクセサリーだと思って居たその耳は、ピクピクと頭の上で動く。
そして、目を開く。
僕と目が合う。
「良く似合ってますよ」
「なっ! そ、そんなつもりで付けたんじゃ無いんだから!」
真っ赤な顔でそう反論する。
「いえ、本当です」
「……どう似合うのよ?」
どう……。
「黒い白玉見たいです」
「デブ猫と一緒にしないでよ!」
素直に言っただけなのに。
そっくりだと思うのだ。
本当は遊んで欲しいのになぜか近寄ろうとしない所とか。
それとも僕の勘違いなのかな。
「とても素敵ですよ」
そう、一言添えて僕は再び歩き出す。
「な、な、なんでそう言う事言うのよ!!」
そう、教え込まれたから。
◆
そのまま工房へ戻り、親方の所で四人で夕食を囲むことに。
セレンさんの猫耳を見ても、親方とスパナさんは眉一つ動かさなかった。
食卓の上には森のモンスターの肉が並ぶ。
「何か得るものはあったかな?」
スパナさんが、セレンさんにそう問いかける。
その視線が僅かに頭の上の耳を向く辺り、気にはなっているのだろう。
そのセレンさんは丁寧に肉を切り分けながら首を横に振る。
「色々と話を聞きましたけど、どれもしっくり来ません。
それに……」
何かを言いかけ、セレンさんの動きが止まる。
「どうした?」
「いえ……同じことをしても、きっと追いつけないのだろうな……と」
「追いつく……か」
弟子のその言葉に、スパナさんが考え込む。
「何を迷っているのかは分からないが、例えば私とノーラが同じ材料を同じ手順で作ったとしても決して同じ味にはならない」
「いや、それはなるだろう」
「ならないのよ。肉の切り方とか、ほんのひとつまみの塩の振り方とか。
ノーラの作ったものには到底及ばないだろう」
そういってワインを一口煽り、スパナさんは続ける。
「そこで私はどうしようかと考える。
肉が上手く切れないのなら、均一に切ってくれる道具を用意しよう。
塩の振り方にムラがあるのならば均一に振る為の道具を用意しよう、と。
昨日、アランが言ったことだけれど、間を埋めるために道具は存在する。
そして、その道具がなければ作ればいい。
その為の職人だ。その為の道具だ。
セレンの……」
それまでセレンさんの目を見ていた視線をスパナさんは少し上げ、言葉を続ける。
「その可愛らしい耳だってそうだろう?」
そこでハッとしたように頭に手を当て、赤くなるセレンさん。
「恥ずかしがることはない。
ショータ君の趣味かな?」
「いえ、全然違います」
何故か、セレンさんが僕を睨む様に見る。
「自分で作れと言うことですね」
「まあ、そうだな。
それが一番しっくり来るだろう。
違和感があると言う事は、既に何か目指すところがあると言うことだろうから」
「……そうかも知れません」
「その為に必要な材料は、ノーラが用意するから」
「え?」
「なあ、セレン。
自分より上手な人が居るのならば、頼ってしまうのも手だ。
肉を切ったり、塩を振ったり……わざわざそんな面倒な道具を作らずとも、ノーラに一言頼むだけで、こんなにうまい飯が出てくるのだから」
「おいおい。なんだその結論は」
ノーラさんが呆れたように言う。
「なんでも一人でなんとかしようと小さくならずに、周りを見渡してみてはどうだと言う話だよ」
「言い方がわかりずらいぞ。
まあ、私も材料と客、そしてスパナのメンテナンスあってこそ仕事が成り立つしな」
「そういう事」
「……はい」
セレンさんは、曖昧に頷いた。




