46 新たなる境地
「広いですね」
「ああ。
まあ、直に物で溢れ手狭になるだろう」
冒険者の大陸。
そこへ用意された親方の新しい工房。
何の機材も置かれていないのもあるけれど、今までの倍どころでは無い広さ。
「こんな広さ、必要ですか?」
銃を作るなら、これほどの広さは不要だと思う。
「大方、鉄工所にでもするつもりなんだろうさ」
自分の工房なのに何処か他人事の様に言う親方。
「まあ、スパナの仕事が終わるまでは何も出来ないからな。
私は風呂に行くが……一緒に行くか?」
「僕は、森に行ってきます」
「……そうか……」
既に約束があるので。
◆
約束の相手であるヴィヴィアンヌさんは既に森の端に居り。
その隣にセレンさん。
今日は彼女の服を作るための素材を集めに行くのだという。
他に、ひよりさんとリゼさん、サヤさん。
もちろん、二人の召喚獣白玉と小豆も。
「ボスのソロ討伐をしてたそうだな」
「ええ」
リゼさんが腕組みをしながら僕に尋ねてくる。
「戦士の顔になってきたな」
……何を言ってるのだろう。
アバターなので顔は変わらないと思う。
「ショータさんが困ってますわよ?」
和やかにサヤさんが言う。
「そうだよ。強さは顔じゃ無いよ?」
「ほう? その割には随分とドヤ顔だな」
「まあ、何て言うの? 毎日毎日海に潜って一皮剥けたって感じ?」
「面白い。ならば競争だ!」
「望む所!」
盛り上がるリゼさんとひよりさん。
「森の中ならショータ君の一人勝ちじゃない」
呆れ顔でヴィヴィアンヌさんが言う。
リゼさんとひよりさん、二人が同時にこちらを見る。
「絶対に!」
「負けない!」
「いや、剣と槍が銃に勝てる訳無いじゃないですか」
前に一緒に戦った時とは違う。
僕には属性弾が山ほどある。
そうでなくとも障害物の多いエリア。
射程の差もある。
「言い切っただと!?」
「キャラ違くない!?」
こうして、急遽三人によるハンティング勝負が開催されることになった。
◆
茂みの中の気配へ銃を向ける。
……障害物に隠れ弱点が捉えられない。
行け。
半分祈る様な気持ちで引き金を引く。
弾が当たると同時に茂みから飛び立つ大きな鳥。
コカトリス。
仕留め切れなかったか。
次弾を。
しかし、その前にそのコカトリスの喉元を槍が串刺しに。
そのまま消滅するモンスター。
やや離れて『フハハハハハハ』と言うスタンプ。
そして、わずかにピンクの頭が茂みの中に見えるがすぐに消える。
また奪われた……。
『はい。
みんな集合。
お昼よ!
お昼!!』
ヴィヴィアンヌさんから通信が入る。
やや語気が強い。
何かあっただろうか。
指示された地点へと戻る。
レジャーシートの上にお弁当が広げられている。
「クソ、遅れを取ったな」
薮の中から出てきたリゼさんが悔しそうに言う。
「私の勝ち!!」
同じく合流したひよりさんの嬉しそうな声。
ハンティング対決はひよりさんが一番。
僅差で僕。
そして、離れてリゼさん。
そう言う結果になった。
「一対一なら負けない」
「ほほう?
それは、負け惜しみですかな?」
「くっ!」
「まあ、半分はショータ君の作ってくれた槍のお陰だけど!」
そんな僕達を笑顔でヴィヴィアンヌさんが手招きする。
「……どうしよう。怒ってるよ?」
「……失敗したな」
リゼさんとひよりさんが顔を見合わせる。
相変わらずヴィヴィアンヌさんは笑顔で。
でも、その視線は刺すように冷たい。
「三人正座」
「はい」
「はい」
「はい」
大人しく従う二人に倣い正座でする。
腕組みしたヴィヴィアンヌさんとその横にファントム。
「リゼ。
ショータ君に会えて嬉しいのはわかるけどはしゃぎ過ぎ」
「そんな事ないぞ!」
赤い顔で弁解するリゼさん。
「ひより。
レベル上がって嬉しいのはわかるけどはしゃぎ過ぎ」
「ごめんなさい」
素直に頭を下げるひよりさん。
「ショータ君。
釣られない」
「はい」
ヴィヴィアンヌさんの横でファントムが縦に揺れる。
「大体ね、前衛組が後衛ほったらかしで森の中へ身を潜めてどうするの!
ショータ君も着いて行ったら誰がこっちを守るのよ!」
「ビビが居るだろう」
「白玉も」
二人がヴィヴィアンヌさんから目を逸らしながら弁解する。
「私は、サボりたいの!」
そう言いながら踵を地に打ち付けるヴィヴィアンヌさん。
レジャーシートの上でサヤさんが苦笑いを浮かべる。
「白玉は小豆に戯れて使い物に成らない。
と言うか、太り過ぎ! 少しは戦わせなさい」
「大袈裟だよ。ちょーっと丸くなった気がするけど」
ひよりさんが口を尖らせる。
でも、白玉が太ったのは事実だ。
「それに今日はセレンのプレイスタイルを考えるって目的忘れてるでしょ?
三人が姿隠してどうすんの!」
「すまん」
「ごめん」
「ごめんなさい」
頭を下げる三人。
ヴィヴィアンヌさんは腕組みを解き、腰に手を当てる。
「そう言う訳で、三人には罰を与えます」
「「えぇ!?」」
「まず、リゼ」
「はい」
「ご飯食べたらセレンの先生役。ついでに何か調理」
「はい」
レジャーシートの上でセレンさんがリゼさんに頭を下げる。
「ひより」
「はい」
「白玉、ダイエット!」
「えぇ!?」
「やりなさい。白玉の為よ」
「……はい」
潤んだ目でレジャーシートの上の……デブ猫を見つめるひよりさん。
「ショータ君」
「はい」
「罰として、今日はこれを付けて過ごすこと」
「これは……?」
仮想ウインドウにアイテムが表示される。
見上げるとヴィヴィアンヌさんがニヤリと笑う。
……仕方無い。
仮想ウインドウを操作して、渡されたアイテムを装備する。
頭に違和感。
ヴィヴィアンヌさんを見上げる。
露骨に吹き出す。
横を見る。
「ちょっと、キャラ盛りすぎじゃないか?」
「いや……かわいい、よ?」
眉間に皺を寄せるリゼさんと顔を赤くするひよりさん。
レジャーシートの上には相変わらず和やかな笑顔のサヤさんと、睨むように顔を顰めるセレンさん。
そしてヴィヴィアンヌさんの横でファントムがピンクに変わりグニャリとなる。
「何です? これ」
頭に装備したアクセサリーを触りながら尋ねる。
「猫耳」
とても嬉しそうにヴィヴィアンヌさんが答える。
「でも、ちょっとやりすぎね」
「そんなこと無い!!」
突然の大声。
「ケモショタぁぁぁ!!!
何と言う……GMぅ!!!」
「はい。何でしょ……はあぁぁぁ! あぁぁぁぁぁ!!」
「うん。成る程。これは……尊いな」
一気に人が増えた。
水着姿のアマリさん。
そして、アマリさんに呼び出されたガスマスクの人。
さらに灰さんまで。
「ビビは相変わらずいい仕事をするな!」
アマリさんがヴィヴィアンヌさんに向けサムズアップ。
「いえいえ、と言うかどうしてここへ?」
若干の困惑を顔に浮かべながらヴィヴィアンヌさんが尋ねる。
ガスマスクさんはどうして僕を拝むように両手を合わせているのだろう。
「風呂屋でノーラさんに会ったのだよ!
そしたら、ショタ君お出かけと言うじゃないか!
直ぐに走ってきたのだ!」
「姉よ。その格好で街中を走ってきたのか?」
「着替えより!
ショタ君を優先する!
そのお陰でこうして良い物を見れた!」
「GM的にはOKなのか?」
「不問とします!」
「灰は?」
「僕? 街中をスクール水着が走ってたら追いかけるよね? 普通」
「そりゃ、まあ、そうかも知れないが……」
リゼさんが眉間を抑え、首を横に振る。
「そろそろ、白玉のお腹が限界のようですよ。
皆さん、ご飯にしましょう。
お三方も、ご一緒にいかがですか?」
サヤさんが、そう和やかに言う。




