45 連れ去られる様に
「パールさん、なにしてんすか」
前方から寄ってきて、笑いながらこちらに声を掛けてきたのは魔法メインで戦う人。
灰さん。
「お散歩」
「誘拐じゃないすか。少年、連れ去られるグレイみたいになってますよ。
そうでなくても犯罪すよ」
「親子みたいでしょー?」
そうにこやかに返すパールさん。
「あの、パールさんはおいくつですか?」
僕も聞かれたのだから良いだろう。
「ショータ君より大きな子供が居るわ。
反抗期の生意気なのが。
これくらい可愛くて素直でならなー」
すると、僕に母親が居たとしたらこの人の様な感じなのだろうか。
そんな訳は無いか。
「だからって、その絵面は犯罪の匂いしかしねっす」
「そうかしら。ふふふ」
「そうですよ!」
聞き覚えのある声が後ろから。
しかし、振り返る余裕すらなく右手を握られた。
「いくらパールさんでも、私のショタ君に手を出すのは駄目です!」
アマリさんだった。
「アマリさんのじゃ無いです」
「思いっきり拒絶されてんじゃん」
「ぐぬぬ」
「貴女、持ち場離れて良いの?」
「私の持ち場は、ショタ君の隣!」
「でも、後ろでご立腹みたいよ?」
振り返ると、後方集団の上にスタンプが乱れ飛んでいる。
「ぐぬぬ」
「向こうについたら返してあげるわよ」
「絶対ですよ!」
そう言って、アマリさんは走って戻って行った。
「しょーがない。じゃ、その間は俺が、っと」
そう言って灰さんが僕の右手を握る。
何でだろう。
「……なんか、こう……尊いってこう言う感じすかね」
そう呟く。
「ちょっと何言ってるかわからないわ。ねえ?」
「はい」
そして、どうして僕は両手を拘束されているのだろう。
<ポーン>
<メッセージが届いています>
視界の端に跳ねるアイコンを確認する。
最近、視線だけで仮想ウインドウを操作する方法を覚えた。
後ろのヴィヴィアンヌさんから届いたメッセージを確認する。
『ショータ君、連れられる宇宙人みたいよ:)』
メッセージと共に送られてきたのは白黒の画像。
そこには、トレンチコートを着た男二人に挟まれ、両手を繋がれたガリガリの生き物が写っており……。
「ッ!」
その姿に、自身の未来……行く末を重ねてしまった僕は咄嗟に二人の手を振り払って居た。
「あ……」
ファントムが小さくなって震えて居るのが目に入る。
それは……心配されている様で……。
僕の突然の奇行に、パールさんと灰さんから奇異の視線を投げかけられる。
「ごめんごめん、嫌だったか」
灰さんが、心から申し訳無さそうに言った。
「ごめんなさい。……そう言う訳では……あの……ごめんなさい」
上手く……説明が出来なかった。
だから、僕は俯いて、そして謝る。
それしか、出来なかった。
「よい……しょっと」
パールさんが、僕の両脇の下に手を入れ、そのまま抱え上げる。
まるで、白玉の様に。
そしてそのまま抱きしめられ、子供が抱っこをされる格好に。
「な、何してるんすか?」
そう言った灰さんの疑問はそのまま僕の疑問でもあり。
「子供が怯えてたら、こうやって抱っこするのが一番でしょ?
まあ、ちょっと大きいけれど」
のんびりと言ったパールさんの言葉は、少し心地よく。
相変わらず心配そうに震えるファントムに、そっと手を伸ばして触れてからパールさんの肩に一度顔を埋める。
「あの、もう大丈夫です。ありがとうございました」
「そう?」
もう一度両腕に力を込め、僕を抱きしめてからパールさんはゆっくりと僕を下ろす。
そして、微笑みと共に差し出された手を握り返し再び歩き出す。
洞窟の入り口が見えて来た。
「ねえ、灰君」
「何すか?」
「ずっと気になってたんだけど、君、女の子?」
「な、何言ってんすか?
そんな訳ないじゃないすか!
どっからどう見ても男すよ?
ねえ?」
突然のパールさんの問い掛けにしどろもどろになりながら答える灰さん。
「そうですね。
女の人です」
誤魔化しは嘘で塗り固められていて、思わず僕もそうやって答えてしまう。
顔を痙攣らせる灰さん。
「ちょ、何すか。二人とも。
……言いふらさないで下さいよ」
「ふふふふふ。
他人の年齢を言いふらしたのは、誰かしらね?」
「誤解っすよ!
あれは、不可効力……」
「ま、これでも大人ですから?
誰かの秘密を言いふらしたりはしません。
大人だから。
そう言えば、ショータ君は子供ね」
「汚ねえっ!
それが、大人のやる事?」
「冗談よ」
「オワタ。俺のこのゲーム、今、この人の奴隷と化す事が決まった」
「大袈裟ね」
眉間を抑える灰さん。
パールさんは僕に笑顔を向ける。
「人間、一つや二つ、秘密はあるのよね」
「そうですね」
前を行く四人が洞窟の入り口でこちらを待っている。
「あの四人にもあるんすかね?」
「……大した秘密は無さそうね」
「そっすね」
笑い合うパールさんと灰さん。
大した秘密は無さそうだと言われた四人は怪訝そうな顔をこちらに向けて居た。
◆
五人はあっという間に、本当にあっという間にマグマゴーレムを撃破した。
盾を手にした人がマグマゴーレムの攻撃を受け止める間に、両脇から二人の剣士が切り崩す。
地面を叩き火の吹き出る魔法を放とうとする素振りを見せた直後、灰さんの魔法で氷漬けに。
そこへまるで雨のような矢が降り注ぐ。
パールさんは僕の横で、微笑みとながら戦況を見守って居たけれど最初に全員へ強化魔法をかけただけだった。
そして、洞窟を抜け大地へ。
親方達の感慨深そうな顔が印象に残った。
しかし、感動に浸る間も無く足早に作りかけの町へ。
そこでは、既に大量の料理が用意され歓迎の準備が整って居た。
食材を用意して、調理をしたリゼさんやひよりさん達の笑顔と共に。
こうして、親方の工房は大陸に引っ越して、新たな忙しい毎日が始まる。




