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44 旅立ち

 土曜日。

 親方の工房は、スパナさんが機械類をバラしそれを運ぶ為に集まった開拓組のプレイヤー達がアイテムボックスへと収納して行く。


 荷物運びだけで三十人近くが駆り出されたらしい。

 そして、工房の外からそれを退屈そうに見つめる六人組。


 トッププレイヤー。

 今、このゲーム内で一番強いと目されている人達らしい。

 向こうのエリアへと移動する為に、途中マグマゴーレムを倒さねばならない。

 開拓組の人達が総出で行けば問題ないらしいけれど、親方達に万が一があってはいけないと、念には念を入れて傭兵として声をかけたらしい。


「何も無くなったな……」


 がらんどうになった工房を眺めながら親方が呟く。


「さっぱりしましたね」


 その横で僕も感想を告げる。

 普段は物で溢れかえっているけれど、こんなに広かったのか。


「君さ、その言い方はちょっと違うよ?」


 セレンさんに注意される。

 彼女はスパナさんの弟子になった。


「では、何と言えば良かったですか?」

「う……」

「まあ、良い。感傷に浸っても得るものは無いからな」


 そう言って親方は、僕の頭とセレンさんの頭に交互に手を置く。


「準備は整いました。

 皆さん、出発します」


 そうアマリさんが声を張り上げる。

 いつものえいえいおーは無かった。



 先頭を傭兵の六人。


 中段に親方、アランさん、スパナさんと荷物持ちの一団。


 そして後方からアマリさん、燕三さん達が追って来る。


 そんな陣形で、慎重にフィールドを進んで行く。


「凄いですね」


 先導する六人の戦いを見ながらヴィヴィアンヌさんに言う。


「学べるようで、レベルが違いすぎて参考にならないわね」


 ボウガンを持ったプレイヤーから放たれた矢はあっさりと敵を消滅させる。


「その溝を埋めるのが、僕達の作る道具のはずだろ?」


 そうアランさんが得意そうな顔で言う。


「道具は、でも使い手次第ですよ」


 僕はそう反論する。

 どんな凶器だって、殺意が無ければ意味が無いのだから。

 逆に言えば殺意があればどんな物でも凶器になり得る。


「服も、モデル次第ですわ」

「そこを何とかするのが職人の気概だろ?

 なあ、ノーラ」

「ん? それは、モデルとしてはイマイチの私をアランの服で何とかすると、そう言う事か?」


 そうにこやかに返した親方の顔は僅かに強張って見えた。

 それ以上にアランさんが顔を強張らせ弁解をする。


「そ、そう言う事じゃないよ。

 何なら今度ドレスを仕立てようか?

 そう、そうしよう! 純白のドレス!

 きっと似合うぞ!」


 しかし、親方は露骨に顔をしかめる。


「そんなドレス、何処に着ていくのだ?」

「何処って……」


 とても悲しそうな顔をするアランさん。


「ハッハッハ。アラン、その時は是非私も呼んでくれ」


 スパナさんが大声で笑いながらアランさんの肩を叩く。

 肩を落とすアランさんと、仏頂面の親方。


 苦笑いを浮かべるヴィヴィアンヌさん。


「楽しそうねー」


 にこやかな笑顔で前から一人寄って来た人が。

 確か名前はパールさん。


「ああ、騒がしくてすいません」

「良いのよー。別に」


 白いゆったりとした衣装を身にまとい杖を手にしている。


「どうせ、洞窟までは暇だし。

 でも、この様子だと洞窟でも暇かもしれないわね」


 のんびりとした口調でそう言った。


 そして、微笑みを浮かべた顔で僕を見つめる。


「あなたがショータ君?」

「はい」


 どうして知っているのだろう。


「ちょっと、前に来ない?」

「どうしてですか?」

「そうねぇ……。興味があるから、じゃ駄目かしら?」

「わかりました」


 パールさんの微笑みに頷きを返す。

 僕も、この人達の強さには興味がある。


「気をつけてな」

「大丈夫よ」


 心配そうな声を上げた親方にパールさんはにこやかに返答を返し、そして僕の左手を握る。

 それは、そっと包み込むような。


 そのまま手を引かれ、中団から離れていく。


「ショータ君、何歳?」

「12です」


 何気なく問われたその質問に、僕は反射的に答える。


「本当に?」

「はい」

「もっと小さく見える。

 小学生よね?」

「はい。でも学校は行ってないです」

「あら、そうなの」


 僕は正直に答える。

 この辺で嘘を吐くとボロが出るから。

 とは言ってもオンラインで教育プログラムは受けているし、公的には何の問題も無い。


「それにしてはしっかりしてるわね。

 親御さんのしつけが良いのかしら?」

「教育プログラムが優秀なんでしょう」


 特に日本語は。

 半年かけて重点的に習った所為でもあるけれど。

 それでも、時折、翻訳ソフトの力を借りているけれど。


「そう。ごめんなさいね。急に不躾なことを聞いて」

「いえ」


 多分、ネショタ、と言うのを疑っているのだろう。

 そんなに珍しいのだろうか。

 セレンさんもそれほど年は違わないと思うけれど。

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