41 アマリ達の企み
「ここです」
「休みじゃない」
「ですね」
職人街のアランさんのお店。
入り口に『Closed』と言う看板。
でも、日曜じゃ無いし休みの時間でも無い筈だけれど。
「ちょっと待って下さい」
僕は仮想ウインドウを開き、ヴィヴィアンヌさんへ連絡を取って見る。
『はーい』
「あ、ヴィヴィアンヌさん。
ショータです。
えっと、紹介したいお客さんが居るのですけれど今何処ですか?」
『君の工房よ』
「え? 親方の?」
『そ。近くに居るなら来た方が良いわよ』
「わかりました。直ぐに」
通信を切り、そして、セレンさんに向き直る。
「近くに居るみたいなので行きましょう」
「ふーん」
しかし、何で親方の工房に居るのだろう。
直ぐに見えて来た工房からヴィヴィアンヌさんが通りに出て来て僕に気付き手を振っている。
「あの人が、この服を作った人。ヴィヴィアンヌさん」
小さく手を振りながらセレンさんに紹介。
「ヴィヴィアンヌさん。
セレンさんです。この服に興味があるみたいです」
「セレンです」
「初めまして。
私のセンスに合う服なら幾らでも仕立てるわよ」
工房の前で二人を引き合わせ、そして、工房の中を覗く。
「何をしてるんです?」
工房の中に何人もの人影。
……知った顔も。
「入ったら?」
「取り込み中では?」
「大丈夫。君にも関係あるから。多分」
僕にも?
何の話し合いだろうか。
僕は静かに工房の中へ。
奥の応接スペースに親方とアランさん、そして、知らない女性のNPC。
短髪にデニム姿。多分、何かの職人だろう。
その向かいにアマリさん、源さん、それから鍛治職人の燕三さん。
開拓組の……中心的な人達。
「戻ったか」
親方が僕に気付く。
「おお! ショタ君! おかえり!」
「その子がノーラの弟子?」
「そう。ショータだ」
「ショータ、ね。うん。君、ノーラに愛想を尽かしたら私の所へ来ない?」
そう言って短髪の人が僕を見てニヤリとする。
「ウチの弟子を勧誘するな」
「私の嫁を勧誘するな」
「アマリさんの嫁では無いです」
「ショタ君よ、そこ、あえて否定するかい?」
「事実ですから」
アマリさんが眉を八の字にする。
「おい、ババア共、はしゃぐ時間じゃ無いぞ?」
燕三さんが眉間に皺を寄せながら言い放つ。
「ババアじゃねーし」
「誰の事よ?」
「その口、溶接してあげようか?」
女性三人が一斉に燕三さんを睨む。
何故かファントムも親方の上で黒くなり揺れる。
「まあ、ショータ君が連れて来た彼女に比べればトウは立っているだろう。
でも、若けりゃ良いってもんでも無いだろう?
ワインと一緒だよ」
そう、アランさんが宥める様に言う。
だが。
「ワインと一緒にするな!」
「そんなに熟して無いわよ!」
「……彼女!?」
アマリさんの一言で皆の視線がセレンさんに集まる。
「え、な、何?」
後ずさるセレンさん。
「彼女では無いです」
「そ、そうよ! 変な事言わないでちょうだい!」
顔を真っ赤にしてセレンさんも抗議する。
「坊主が居ると話が進まんな……」
「すいません」
「いや、坊主が悪い訳じゃ無いんだが」
源さんが頭を掻く。
「じゃ、ちょっと席を外しますわね」
笑いながらヴィヴィアンヌさん後ろから僕の両肩に手を置いた。
「お師匠、先に仕事場に戻ってます」
「じゃ、私も」
「お前は関係無いだろ?」
立ち上がりかけたアマリさんを燕三さんが腕を掴んで押さえる。
「さ、行きましょう」
ヴィヴィアンヌさんが僕の両肩を抑えながら振り向き、そして、セレンさんに声を掛ける。
そのまま工房を出て、アランさんの店へ。
「何なの? アレは」
店に入るなり、セレンさんが不機嫌そうに言う。
「愉快な人達でしょ? 座って」
「そう?」
笑いながらヴィヴィアンヌ言って、奥へと入っていく。
セレンさんは不満気な顔のまま椅子に腰掛ける。
僕はその横に。
一度僕を睨み、少し横に椅子をずらすセレンさん。
「はい。どうぞ」
コーヒーの入ったカップをテーブルに置くヴィヴィアンヌさん。
「いただきます。
何の話をして居たのですか?」
「次のエリアへお師匠さん達を連れて行く相談ね」
「あっちへ?」
「そ。それで雁首揃えて説得に。
特にノーラさんとスパナさん。
スパナさんは初対面だったかしら?
蒸気機械職人よ。
ウチのお師匠さんは、まあ、ついで見たいだけと。
二人と仲が良いからね」
「どうして……?」
「まあ、色々悪巧みはしてるでしょうけれど。
悪い話では無いんじゃないかしら。
ここより広い工房は用意出来るでしょうし、お客も多くなると思うわ。
ただ、この町の生産者ギルドを抜ける事になるでしょうから……」
そんな話があるのか。
親方はどう言う決断をするのだろうか。
「あの……話が全然見えないのよ」
「ああ、ごめんなさい。
まあ、貴女には関わりの無い事ね」
そう言われ、顔に不満を露わにするセレンさん。
「それとも、仲間に加わりたいかしら?」
「……全然」
挑発する様な笑みを浮かべるヴィヴィアンヌさんからつまらなそうに顔を背けるセレンさん。
「大体、NPCって死んだらそれっきりなんでしょ?
そんなの連れて向こうへ行ける訳無いじゃない」
「それは、大丈夫じゃないかしら。
何がなんでも行けるだけの戦力を揃えると思うわ。
あ、ショータ君も頭数に入ってる筈よ」
「僕もですか?」
「さっきあっさり負けたのに?」
「そうなの? また行ったの?」
「ええ。エアルさんが一人で倒したって聞いたので」
「変な人の変な所に感化されてるわね……。
あの人はソロで行ったんでしょ?
ソロだと弱体化するそうよ?
パーティで挑むより」
「それでか……」
「それに、あの人、戦い方滅茶苦茶らしいわよ」
「滅茶苦茶?」
「私達と一緒に戦った時は随分と猫を被ってたって話」
セレンさんが咳払いをする。
「あら、ごめんなさい。
貴女の服の話ね。
それとも向こうへ行く方が興味あるかしら?」
「どっちも結構よ」
「そんな事言わずに。
一着くらい作らせてよ。
モデルが良いとインスピレーションが湧くわ」
「安っぽいお世辞」
「そんな事無いわよ?
私は好きに遊ぶ。
そう決めてゲームをしてるの。
その為にお世辞なんかで自分の価値を下げてもつまらないじゃない?」
「私は……」
「やりたい事、やってほしい事。
それはね、伝えようとしないと相手は決してわからない。
それでもわからない人は居るけど。
でも、初めから諦める様な、そんな接し方はマイナスの方が多いわよ?」
笑顔を崩さず、諭す様に言うヴィヴィアンヌさん。
対してセレンさんは奥歯を噛みしめる様な仕草の後、俯く。
「ちょっとだけ、待ってくれる?」
ヴィヴィアンヌさんはそう言って席を立つ。
そして、スケッチブックを手に戻って来た。
「これ。貴女にぴったりだと思うの」
スケッチブックを開きながらヴィヴィアンヌさんは楽しそうに言った。
そこには、少し和風のドレスのデザイン画が描かれて居た。
下に、素材と加工費らしき金額。
「……かわいい」
「でしょ!?」
「……駄目。お金無いの」
「後払いで良いわよ。
それと、私が作ったって宣伝してくれればなお良いの。
あと、貴女が持ってる素材もギルドよりは割高で買い取るわ」
「後払いは……嫌。
素材は自分で集める」
「でも、次のエリアでしか手に入らない物もあるわよ?」
「一人なら……一人ならボスが弱くなるのよね?」
「そうだけど、今ならもっと簡単な方法があるわ」
セレンさんは首を大きく横に振る。
ヴィヴィアンヌさんは小さく唇を噛んで、その続きを言うのをやめた。
そして。
「私は、何時でも待ってる。
だからよろしくね。
セレン」
セレンさんは俯き、そして、その後に小さく頷いた。




