31 風呂屋の番頭さん
その戦士は、針の様な細剣を手に大木程の敵と戦っていた。
まるで、サイズが違う。
あれでは蚊に刺された様なものではないだろうか。
そう思ったのだが、僕達が駆けつけた時にはデスワームのHPは半分を切って居た。
ファントムのラップ音に合わせ、麻痺弾を打ち込む。
そして、リゼさんとひよりさんが攻撃を浴びせかける。
デスワームは麻痺してもその体を地に倒す事なく踏みとどまる。
その背を、細剣の剣士は駆け上って行く。
あまりに突飛なその行動に、思わず三人の手が止まる。
『止まっちゃダメだよー』
アマリさんの忠告。
『ショタ君、頭の辺り狙ってね。彼女は自分で避けれるから心配しなくて良い』
「はい」
言われた通りに、戦士のことを考えずデスワームの頭部に光る弱点へと弾幕を浴びせて行く。
両手で、何度もリロードして。
麻痺から立ち直ったデスワームが、こちらを睨みつける。
と言っても、目の様な物は目視では確認出来ないが。
『みんなショタ君の後ろへ』
リゼさんとひよりさんが素早く動く。
デスワームの口が僕達の方を向く。
そして、そこから大量の砂が、風と共に吐き出された。
咄嗟に、ファントムが僕の前に。
駄目だ!
そう、声を発する前に押し寄せた砂と風はファントムの向こうで見えない壁に当たり八方へと消えて行った。
ヴィヴィアンヌさんの風の盾だ。
『アクア・キャノン!』
デスワームの四方に水の塊が現れ、それが次々と巨体へとぶつかり行く。
『ライトニング・エッジ』
苦しそうに口を天に向けたデスワームの喉元から一気に大地まで剣士が急降下。
その手にした細剣をデスワームに突き刺したままで。
デスワームの体に一直線に雷撃が走り抜ける。
僕の背後から、リゼさんとひよりさんが飛び出して行く。
僕も再び銃を向ける。
程なくして、巨体は粒子へと化して消滅した。
「ありがとう。助かった」
剣士は振り返りながら、被って居たフードを上げ笑顔を見せた。
桜色、ひよりさんより白みがかった髪を短く刈り上げ、眼鏡をかけた女性。
「私はエアル」
そう言いながらリゼさんに右手を差し出す。
「リゼです」
「ひよりです」
「ショータです」
「なーにが、助かった、よ」
後ろから近寄ってきたアマリさんがそう毒づく。
「助けられたのは本当だし」
「一人でも勝てたでしょ?」
「無理するよりはマシかなーって」
どうやら二人は知り合いの様で。
「お久しぶり。番頭さん」
「久しぶり。
今なら女性は半額だから是非是非。
今日の帰りにでもみんなで。
歓迎するよ。
何なら背中も流すよ?」
「その店をほったらかして油売ってて良いの?」
「入り口にはお金を入れる缶を置いてあるし、風呂の中にはGMが居座ってる。
何の問題も無い」
「悪いが、話が見えない」
そう、リゼさんが割り込む。
「なら、少し休憩にしないかい?」
そう、エアルさんが提案し、彼女はセーフティエリアを展開した。
「風呂屋の番頭。主人」
そうアマリさんが改めてエアルさんを紹介する。
「あー、あの」
「そう、その」
眉を跳ね上げたひよりさんに、エアルさんは笑顔で答える。
「βの頃からの生粋のソロプレイヤー。
マグマゴーレムも一人で倒した強者」
「「「え!?」」」
言ったアマリさんと僕を除く三人が同時に驚きの声を上げる。
「まあ、攻略法がわかればそれほど難しくは無いよね」
「だったらそれを公表すれば良いのに」
「すぐに見つかると思ったんだ。
あいつの上に乗れば良いなんて。
それと、一つ誤解がある様だから言っておくけど、別にソロ志向なわけじゃ無い。
付き合ってくれる友達が居ないだけで」
「あ、そう」
「友達、作らないんですか?」
僕の質問に、エアルさんは軽く首を傾げ、そして答える。
「男の友達は、要らないのだよ。
ちびっ子」
それをアマリさんがジト目で見ている。
「それで、あのデスワーム、本当に一人でも倒せたの?」
「どうだろ。
一歩間違えば死んでたんじゃない?
だから、助かったのは本当。
死に戻りとかしてる余裕はなかったから」
「ふーん」
相変わらずジト目のアマリさん。
「何でそんなに疑うのさ」
「アンタの存在が信用出来ないから。
大体何でこんなとこにいるのよ。
ストーカー?」
「非道い!
私はただ宝石を探しに来ただけなのに!」
「何? 今度は宝石商でも始めるの?」
「金欠なのよ!」
「何で?」
「風呂の燃料代が嵩む!
客の入りに関係なく、燃料代がかかる!
営業努力でアロマを入れたら、今度はその精油が高い!
やればやるほど儲けが少なくなる!
何で?」
「番頭がネカマだから」
「私は! ネカマじゃない!!」
そうエアスさんは叫ぶが、リゼさんとひよりさんは少し身を引いた。
「エステとかやってみたら?」
「それだぁ!」
ヴィヴィアンヌさんの意見に指を指して満面の笑みのエアスさん。
「アマリ! 被験者になってくれ!」
「死ね」
「揉むのは! 任せろ!」
「死んで。マジで」
「くそう。どこで間違ったんだろう」
「そんなんだから友達居ないんだよ」
「止めて。メンタル攻撃は!」
盛り上がる二人に冷たい視線を送りながらリゼさんが立ち上がる。
「さて、そろそろ我々は行こうと思う。
アマリ、せっかくだから付き合って差し上げたら?」
「嫌だ! 私は今日はショタ君と居るんだ!
……どうしたの?」
「いえ、あれ……何でしょう?」
僕は、砂漠の中に蜃気楼の様に出現した建造物を指差した。
それは、一寸前まではそこには無かったものだ。
「知ってる?」
アマリさんがエアルさんに問い掛ける。
「いや。ピラミッドみたいだけど隠しステージ的なやつかな。
よし。行こう。宝の匂いがする!」
「何でアンタが決めんのよ」
「サービス初日以来の団体行動!」
盛り上がる二人。
「……行く?」
「折角だから行ってみようよ」
「はあ。今朝の占い最下位だったな……」
そうでもない三人。
「行きましょう」
僕はエアルさんを見ながら言う。
あの人の戦い方は、もう少し見てみたい。
「……え、私?」
「ショタ君! こいつは駄目だ!」
……僕は一人歩き出した。
ファントムが静かについてくる。




