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27 アマリさんの企み

 折角なのでと、屋台で色々買い込んで食べる。

 串焼きのお肉とか、ゆで卵とか。


「焼きそばとか無いのか」

「欲しいよね」

「それ、声を大にして言ってごらん。

 料理人達から袋叩きにあうから。

 青海苔も、紅生姜も無いんだよ! って」

「え、足らないのそれだけ?」

「見たいよ」

「良いじゃん。別に。そんなの無くても」

「駄目らしい。彼らの矜持なんだろうさ」


 食べながら、そんな会話。


 串焼きの肉を頬張る白玉。


「少し、大きくなりました?」

「レベル上がった!

 さっきので!

 ショータ君のお陰!」

「いえ、勝てたのは白玉のお陰です。

 こちらこそありがとう」


 頭を下げる僕にニコリとして白玉を撫でるひよりさん。

 そうしたら、何かでお礼をした方が良いだろうか。


 手持ちの素材を思い浮かべ、後でヴィヴィアンヌさんに相談しようと決める。


 そして、もう少しまわりをぶらつくと言う三人と別れ僕とアマリさんは職人街へと移動する。

 明日、ファントムと改めて来ようと、そう心に決め。



 ◆



「親方、戻りました」

「ああ、おかえり。

 ……お客さんか」


 出迎えた親方は横のアマリさんを見て言った。


「アマリと申します」

「ノーラだ。

 ショータの恋人かな?」


 そう、僕に笑いかける。


「違います」


 否定する。


「嫁です!」

「違います」


 アマリさんの冗談も否定する。


「……お友達です」

「そうなんですか?」

「は? え? それも違うのかい? ショタ君」

「いえ、友達……なんですか。そうか」


 僕の様子に怪訝そうな顔をするアマリさん。


「……笑った……のかい?」

「えっと、うれしいです」

「ショタ君、君は私を何度殺せばいいのだい?」


 顔を赤くして、体をくねらせるアマリさん。


「いや、意味がわからないです。

 親方に用事だそうです」

「少しお仕事のご相談が」

「ああ、そうか。では奥へ。今お茶を出す」


 二人が工房の隅の応接スペースへと移動するので、僕は一度部屋へ戻ろうとするがアマリさんに呼び止められる。


「ショタ君。

 上役に来客があったら、君がお茶を運ぶべきでは?」

「お茶ですか?」

「いや、良いんだ。私がやる」

「良くないですよ。ノーラさん。

 そういう事が出来なくて、いずれ困るのはショタ君です。

 ちゃんとやらせるべきだ」

「……その通りだな」

「そして、なにより私はショタ君の淹れたお茶が飲みたい!」

「その通りだな!」


 何故か固い握手を交わす二人。


「わかりました。

 一つ勉強になりました。

 ありがとうございます。

 親方、今まですいませんでした」

「いや、私が言わないのが悪い。気にするな。

 ただ、そうだな、これから私に来客があって、手が空いていたらお茶を入れてくれ」

「はい」

「では、早速お願いする」

「あの、親方」

「何だ?」

「お茶の淹れ方を教えてください」

「お、おう。そうだな」


 ひょっとしたら、そんな事は一般常識で、聞かなくてもわかることかもしれないけれど、残念ながら僕にはその知識は無い。

 親方は作業場の給湯室でお茶の淹れ方を丁寧に説明してくれた。

 と言っても蛇口を捻ればお湯が出るし、それをお茶の葉を入れたポットに注ぐだけなのだが。

 コツは、お湯を注いで暫く蒸らすことと、お茶の葉の量を正確に入れることだと教わる。


 それと、カップをお盆に載せ下まで運び、下で待つアマリさんの所へ。


「どうぞ」

「ありがと!」


 教わったとおりに彼女の前にカップとポットを。

 アマリさんが満面の笑みを僕に向ける。


「安物だが」


 そう言いながら椅子に腰掛ける親方。


「いえいえ。生意気言いまして失礼しました。

 いただきます。

 ……美味しいよ。ショタ君」


 カップに口を付けた後、再び僕に笑顔を向けるアマリさん。

 それはそれほど感情のこもっていない言葉だと感じたけれど、それでも少し嬉しいと僕は思った。


「場合によってはショタ君にも関わる話題だから一緒に聞く?」

「……良いですか?」


 親方の方を見る。


「ああ。構わない」

「よし! じゃおいで」


 そう言って彼女は椅子に座ったまま両手を広げる。

 僕は、親方の隣の席に腰を下ろす。


「それで、話というのは?

 言っておくが、弟子は渡さないぞ?」

「く、先手を打たれた」

「そう言う話なんですか?」

「いや、すまんす。

 単刀直入に。

 釘が大量に欲しいのです」

「釘?」

「そう。サイズはこれを」


 そう言って、アマリさんは釘の寸法がいくつか書かれた紙をテーブルの上に出す。


「全て既製のサイズだな。

 大量にとは?」

「有るだけ全部」

「そんなに?」

「ええ。森を切り開き、町を作ろうと、そう考えています。

 あって足らないことは無い」

大地テラにか?」

「もちろん」

「困難だぞ」

「承知の上です。だから、楽しいのです」


 そう言って、アマリさんは心から楽しそうな笑みを浮かべる。

 対して親方は腕を組み、眉間に皺を寄せる。


「残念だが、私では力になれそうにない」


 そう、静かに答えた。


「どうしてですか?

 信用できませんか?」

「いや。

 弟子の友人だ。信用はする。

 だがな、材料の手配がつかないのだよ」

「材料、ですか?」

「付き合いのあった卸問屋と没交渉になってしまっていて……聞けば弟子が拾ってくる分では到底足らないだろう」

「何が必要ですか?」

「素材となる鉄鉱石と、炉を動かすための石炭だな」

「鉄鉱石なら、我々の方でも採掘出来ます。

 いえ、採掘します。

 ただ、石炭は……難しいかもしれません」

「向こうのエリアで石炭は採れないんですか?」


 表情を曇らせたアマリさんに疑問をぶつける。


「そんな事は無いのだけれど、向こうの石炭は風呂屋が買い占めてる。

 今日一緒に入った、あの風呂屋が」

「ああ、そういうことですか」

「一緒に、風呂に?」


 僕の方を見る親方。

 風呂の話とか、どうでも良いと思うので話を進めることにする。


「僕が石炭を採りましょうか」

「お前は鉱夫じゃない。鍛冶屋の見習いだ。そんな事はさせない。それより風呂って……」

「石炭以外に使える物はないんですか?」

「石炭以外……例えば、火、いや、灼熱の魔法石とか、マグマコークスとか。

 まあ、どれも高価だ。

 その分、一つあればこんな工房一年分の燃料は余裕で賄えるだろうが」


 そう言って首を横に振る親方。


「マグマコークス、僕、持ってますけど?」

「何?

 そうか、特異体。フレアゴーレムに会ったか。

 勝ったか。それでも幸運だな」

「では、ショタ君。

 それを私に売って頂戴。

 そして、それを私から親方さんに提供しましょう」


 そう、アマリさんが提案する。

 しかし、親方は首を縦に振らず、黙ってアマリさんを見据える。


「……知っててショータを同席させたのか?」

「……はい。

 そうなんだ。

 ショタ君。

 私は君達がそれを持っているのを、妹から聞かされて居たし、そして、君ならそう言うだろうとそう思ってた。

 目的の為ならば手段は選ばない。

 私は、そんな汚い女なのだ……」

「いえ、汚いとは思いませんが」


 それが出来ない人間は、結局食い物にされるだけで終わると、そう言われた。

 それでも良いとそう言う人が居る、とも。


「ショタ君……。

 結婚して!」

「しません」

「残念だが、その提案は承服出来ない。結婚の方ではなく、マグマコークスの方だが。

 そこまでしてもらう理由が無い。

 いや、理由じゃ無いな。プライドだ。

 客にそこまで恵んでもらうようじゃおしまいだ」


 そう言って、親方は背もたれに背を預け天井を仰ぐ。


「親方。

 金鉱石、まだ残ってますか?」

「ああ。丸々残ってる」

「では、それを引き取ります。

 払いはマグマコークスで」

「なぜだ?」

「全部弾にします。

 昨日作った物は撃ち切ったので」

「は?

 お前、なんて無駄使いを……」

「でも、そのお陰でマグマコークスを親方に売り付ける事が出来ます」

「……わかった。

 当分忙しなるぞ?」

「はい」


 親方は僕の頭に手を乗せる。


「アマリさん。

 話が付いた。

 鉄鉱石が納品され次第、仕事にかかろう」

「ありがとうございます。

 ショタ君も、ありがとう」


 アマリさんは深々と頭を下げた。


「ところで、その金の弾ってなんなの?」


 顔を上げたアマリさんが僕に尋ねる。


「弾芯に金を使った銃弾です。

 僕が作りました

「金の弾。

 ショタ君の作った金の弾!

 ショタの金ん……の……タマ!

 それ! 全部私に撃ち込んでくれ!」


 そんな事を言われても。


「ショータ。

 友達は選んだ方が良いぞ」


 親方が冷たい口調で言った。

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