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03 ひよりさんとリゼさん

 僕達は、サーシャさんにそれぞれの召喚獣の特徴や特性、戦い方などを教えてもらい、揃って彼女の家を後にする。

 そして、ひよりさんに誘われるまま、彼女の知り合いへ会いに行く事に。


 彼女は白玉という名前になった猫を抱き抱え、僕の頭の上にはファントムがふわふわと浮いて付いて来る。

 行き先は、町の中心部。

 そこには噴水があり、待ち合わせをしているであろう人の姿もちらほら。


「おーい」


 僕の横でひよりさんがそちらに向かい大きく手を振る。


 それに気付いた赤い髪の女の人が手を上げる。

 僕達と違い鎧姿だ。


 ひよりさんが、やや早足になってそちらへ駆け寄る。


「お待たせー!」

「どうだった?」

「バッチリ!」

「でだ、この子は何?」


 その人は一歩離れてひよりさんに付いて行った僕を見てひよりさんに尋ねる。


「チュートリアルでお友達になったの!」

「お友達って……子供じゃない!」


 怪訝そうな顔で僕を見た後にひよりさんに怒る様に言った。


「そうだよ。名前はショータ君!」


 女の人は片手でこめかみを抑え天を仰いだ。


「ショータ君……そうかぁショタかぁ。そのまんまだねぇ……」


 少し警戒が混じった目で睨みつける。

 どうやら僕の事が気に入らない様子。


「ひよりさん。ありがとうございました。僕はこの辺で」

「えー! 駄目だよ! 一緒に狩りに行く約束じゃない!」

「でも」

「リゼ! お願い!」

「いや、しかし……」

「何が気に入らないの? ファントム連れてるから? そりゃ、ちょっと不気味だけど、私が呼び出したんだからね!」

「……ん?」


 リゼと呼ばれた女の人は首を傾げ、僕とファントムとひよりさんを交互に見やる。


「どういう事?」

「交換したのだ!」


 猫の両脇を抱え、それをリゼさんに見せつけるひよりさん。

 白玉は少し嫌そうに足をバタつかせて居る。


「お前、何で子供から子猫奪ってるんだよ」

「チガウヨー、コウカンダヨー」


 リゼさんに片手でほっぺを両脇から潰され、口を尖らせながらひよりさんが抗議する。


「ちょっと、場所を変えよう」


 少し周りの目が気になり始めたのかリゼさんがそう提案した。


「君も。来て」


 そう睨みながら。


 ◆


 リゼさんを先頭にそそくさと街中のお店の一つへ。

 コーヒーカップの看板が出ていたからカフェだろう。

 そして、個室で三人になる。

 正確には三人と一匹と一体、かな。


「ショータ君。ここは私が払うから好きな物を頼んで」


 カフェのメニューを開いて僕に向けるリゼさん。


「どうしてですか?

 恵んでもらう理由がありません」

「……無理に誘ったお詫びと、ひよりが迷惑を掛けたお詫び」

「付いて来たのは僕の意思ですし、ひよりさんから迷惑は受けてませんけれど?」


 僕の答えが気に入らなかったのだろうか。

 リゼさんは腕を組んで、少し考え、そしてテーブルに肘をついて前のめりになって僕を見つめる。


「本当は、こう言う事を聞くべきでは無いし、君も言いたくなければ言わなくて良いのだけれど」


 そう前置きをして、真剣な顔で僕に問う。


「……君、幾つ?」

「20xx年5月5日生まれの12歳です」


 戸籍に書かれた生年月日を答える。

 正確なところはわからないけれど、同年代の平均よりは体格が下回って居るので本当はそれよりは幼い可能性はある。


「本当に?」


 リゼさんが怪訝そうな顔を向ける。

 嘘が見破られる様な言い方をしたつもりは無いけれど。


「どうしてですか?」

「ネカマとかネショタとかある訳よ」


 ネカマ?

 ネショタ?


「何ですか? それ」

「ネットの中では、女性のふりをしたり、小さな子のふりをしたりする事。

 楽しみ方は人それぞれなので良いんだけど、そうやって欺いて下心を持って女性に近づこうとする輩が少なからずいるの」

「成る程。証明のしようが無いわけですね」

「そう。まあ、仕草とかでわかったりすることも有るけど」

「そうすると、リゼさんは僕がそれだと疑っているのですね」

「そうなの!?」


 横に座ったひよりさんがリゼさんに抗議の声を上げる。


「うーん、まあ、ね」

「わかりました。そう言う人が居ると言うことが一つ勉強になりました。

 ありがとうございます」


 僕は、頭を下げリゼさんにお礼を言い、そして立ち上がる。


「どうしたの?」

「不快な思いをさせるのは本意ではありませんので、失礼します」

「え、ちょ! まって、リゼ!!」

「あー、もう、座って! これじゃ私が悪者じゃない」

「でも、証明の方法はありませんし」

「良いから座って。

 で、メニューを選びなさい。

 ここの支払いは、私」

「でも」

「理由はあるわ。

 私のほうが年上。年功序列。年上の言う事は聞くもの。

 ね?」

「はい」


 僕は、座り直し言われた通りメニューからアイスレモンティーを選ぶ。


 リゼさんは三人分の注文をまとめて、そして仮想ウインドウを操作する。


「ごち!」

「アンタは自分で払いなさいよ。いや、むしろ余分に出しなさいよ」

「えー」


 リゼさんが操作を終えると、テーブルの上が一瞬モザイク模様に歪み、直ぐに注文した物が出現する。


「はい」

「ありがとうございます」


 手渡されたアイスレモンティーにガムシロップを入れストローに口を付ける。


「……おいしい」


 偽物だと高を括っていたのもあるし、普段の食生活が味気ないのもあっただろう。

 一口くちにしたそのレモンティーの香りと冷たさが口の中に広がる感触に僕は感動を覚えた。


「お、笑った!」

「うーん、十二歳ねぇ。見えない事もないかぁ。

 ひより」

「何?」

「……犯罪よ?」

「ええええ?」


 パフェを口に運ぼうとしていた手を止めてひよりさんが声を上げる。


「そんなんじゃないよ。ばーか」


 などと口を尖らせながらパフェを一口食べ、もう一度クリームをすくうと、今度は膝の上に乗っている白玉の口へと運ぶ。


 僕は後ろを振り返り、そこに浮いているファントムに「飲む?」と尋ねる。

 小さく横に揺れる様に動くファントム。

 要らないと言う事だろう。


「で、どうしてその子猫をひよりが貰うことになったの?」

「白玉」

「白玉ちゃんね。おいでー」


 両手を伸ばしてひよりさんから白玉を受け取り、抱きかかえたリゼさんはとても嬉しそうに撫で始める。


「チュートリアルが終わってね、その場で召喚をしたの。

 そしたら私がそっちのファントムで、ショータ君の呼び出したのがその白玉だったの」

「でも今は違うよね?」

「契約の前にショータ君が交換しようって」

「はい」

「どうせ、ひよりが露骨に羨ましそうな顔をしたんでしょ?」

「そんな事は……無い! ……いや、ちょっとあるかも……」


 ひよりさんが僕の後ろのファントムをちらりと見る。


「そうかぁ。交換とか出来るのか。

 でも、ショータ君は本当に良かったの?」

「ペットじゃなくて、友達が欲しかったので」


 そう、ファントムを見ながら答える。

 ファントムが、少し紫色に変わる。喜んでいるみたいだ。


 しかし、二人は少し奇異の視線を僕に投げかける。

 なんだろう?


「で、でも! その子もすごいんだよ! 実はスペシャルレアなんだから!」

「へー。そりゃすごい」

「何ですか? それ?」

「召喚した時の珍しさ。

 五段階に分けられていて、スペシャルレアは上から二番目。

 確か確率が1%くらいだったと思う」

「なるほど。貴重なんですね」

「そう。でもその分育ちにくかったりするみたいだから、ちょっと扱いが難しいみたい。

 はじめは育てやすい低レアリティの方が良いって意見もあるみたい。

 召喚獣って、召喚主と経験値が頭割りだから」

「どう言う事ですか?」

「例えば私とひよりと白玉で狩りに行くとする」

「はい」

「敵を倒して、三十の経験値を得ました。

 そうすると、まず、プレイヤーの人数で等分される。

 私に十五。ひよりに十五。

 そこから更にひよりと白玉で分配になります。ひよりが八、白玉が七。

 端数は召喚主に行くみたいだけど、まあその程度なら誤差の範囲内かな」

「つまり、私と白玉がリゼに追いつくには単純に倍戦わないといけないって事?

 ずるーい!」

「しかも、レベルあたりの必要経験値がレアリティが高いほど必要になるそうだ。

 だから、一概にレアが良いとも言い難いんじゃないかな。

 当然その分強いのだろうけど、まだそこまで育成が進んでないので予測でしか無い」


 振り返ってファントムを見ると心なしか、少し薄くなった様に思えた。


「一緒にがんばろう」


 そう声をかけるとまた紫に光り、今度は縦に揺れる。

 すると、白玉がリゼさんの手から飛び出し、僕の頭の上に乗ってファントムと戯れ出した。


「そう言えば、白玉のレアリティ聞いてないなー」

「確か、ウルトラレアって言ってました」


 僕は白玉を落とさないようにゆっくりと頭をひよりさんに向けながら答える。




「「えぇぇぇぇ!!??」」


 三秒ほどの静寂のあと、二人は声を揃えて絶叫した。


「ひより! お前、子供を騙すにも程が有るぞ!」

「知らなかったんだよ! どうしよう!?」

「どうって……もう一回交換しろ。それで丸く収まる」


 僕は頭の白玉を捕まえ、ひよりさんに渡す。


「何が問題かわかりませんけど、僕はもう交換しませんよ」

「いや、でも、ウルトラレアだよ? まだ聞いたことがない!

 多分、0.01とか0.001とかそんな確率だよ!?」

「僕はこのファントムと一緒に居て、それで名前を教えてもらうんです」

「……そう。他人がどうこういう問題じゃなかったね。

 本人達が納得してるなら良いのか」

「いやいやいや、私、納得出来てません!

 駄目ですよ!

 こんなに可愛くて、しかも超絶レアなんて!

 流石にショータ君に申し訳が立たなすぎます!」

「ファントムも負けないくらい可愛いです」


 その言葉に、ファントムは真っ赤に燃え上がりながら小さくなる。


「……ごめんなさい」


 でも、ひよりさんは謝った後に、俯いてしまう。


「とりあえず、ここはひよりの驕りにしよう。

 折角だから、私もパフェ頼もう。

 ショータ君も食べよう」


 そう言いながらリゼさんが僕にウインクをした。


「じゃ、ひよりさんが食べていた物を」


 僕はリゼさんの提案にのることにした。


「ううぅ、無一文だぁ……」


 ひよりさんが白玉を撫でながら呟いた。

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