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26 お風呂屋さん

「お待たせッ!!」


 アマリさんが右手を上げながら、元気よく浴場へと入ってきた。

 紺色のワンピースの水着。

 確か、スクール水着というやつで、胸の白い布の所に『あまり』と丸みがかったひらがなで名前が書いてある。



 ◆



 新しいエリアの入り口へ降り立った僕達四人と一匹を待ち構えていたアマリさんの案内され、元は遺跡があったという所へ。

 と言っても切り株の目立つ森の中を歩いて十分ほど。

 敵らしい敵は襲ってこず。


 そうして案内された先は、石材やら木材やらが積まれそれを運ぶプレイヤーで溢れるところ。

 飛び交う声の雰囲気が、職人街を想像させる。

 最も、建物は全然立っていないのだけれど。


 それでも何とか発展させたという中心部には屋根だけがついた食べ物を売る屋台が並び、いろいろな匂いと呼び声が飛び交っていた。

 さっきまで一緒に戦っていたプレイヤーの姿もちらほらと。


 それを横目に、もう少し進んだ所に突如小さな小屋が現れる。

『♨』マークの描かれた幟が立ち、白い蒸気が噴き出す煙突を備えた小屋。

 その奥を背の高い木造の塀が取り囲んでいる。


 露天風呂だと言うその施設の前で立ち止まり、まずは疲れを癒やすのだ、と半ば無理やり全員でお風呂に入ることに。


 アマリさんがまとめて五人と一匹分の料金を払い、僕は一人『男』と書かれた脱衣所へ。

 長椅子が二つ置かれただけの殺風景なその部屋は、壁に『全裸はR18+に設定! それ以外は水着か湯着着用』と書かれた張り紙がしてあった。


 僕は、海でもらった水着に着替え更衣室のドアを開く。

 そこには、湯気が立ち上る石造りの大きな露天風呂があった。


 こういう所に入るのは、初めてだな。

 確か、体を流してからお湯に浸かるんだったかな、とうろ覚えのマナーを思い出しながら浴槽へ近づく。


 浴槽の湯を掬い、風呂桶で体を流す。

 浴槽には既に先客が居た。

 隅の方でこちらを凝視しているその人物は知り合いで。

 僕はその人に小さく頭を下げてから、浴槽へと入っていく。


 しばらくすると、僕の入ってきたドアと並びにあるドアが開きリゼさんとヴィヴィアンヌさん、ひよりさんが入ってくる。

 三人共昨日見た水着姿。


 皆体を流し、そして、浴槽へと入って来る。


 ひよりさんが、僕を見て僅かに顔を赤くする。


「やっぱり、ちょっと恥ずかしいね」

「昨日も水着だったじゃないか」


 照れくさそうに笑いながら言ったひよりさんに、リゼさんが笑いながら言う。


「そうなんだけど……ちょっと感じが違うじゃん」


 そう言って、口が沈むほど湯に浸かるひよりさん。


「これは、何のオイルかしら」


 ヴィヴィアンヌさんは、両手でお湯を掬い匂いを確かめている。


「マンダリンオイルです」


 そう答えたのは浴槽の奥に居た人。


 その人に気づいて居なかった三人が一斉にそちらを見る。


 そして。


「「「きゃーーーーーーー!!」」」


 と、甲高い悲鳴が上がる。


「どうも。GMです」


 そう言って、立ち上がった彼女は湯着と呼ばれる白い着物をまとっていて、でも顔には相変わらずカスマスクを着けている。


「設定上の性別は女ですのでお気になさらずに」

「いや、気になるわよ!」

「そうおっしゃらずに」

「せめて、そのマスクくらい取れないのかしら?」

「それは、出来かねます」

「何してるんですか……?」

「レイティング違反の予防と取締です。

 それだけですと暇なので、お湯の効用の説明や、時折浴槽の掃除なども」


 そういうこともする人なのか。

 それだけ言うと彼女は小さく頭を下げ、再び肩まで湯に浸かる。

 そして、僕の方へ顔を向ける。


「……何か?」

「いえ、お気になさらずに。お気になさらずに」


 何で二回言ったのだろう。


 そして、豪快な音を立てドアが開き、アマリさんが登場するのである。



 ◆



「相変わらず反応が薄い!」


 そう言いながら浴槽の方へと歩いてくる。


「ってガスマスク! 今日も居るのかよ!」

りますが、何か?」

「ショタっ子が怖がるから帰れ」

「ショータさんとは既にご挨拶を済ませておりますので、問題は無いと思いますが。

 そうですよね?」

「はい。お久しぶりです」

「ちょ、なんか妙に物腰柔らかじゃない!

 GMが特定プレイヤーに肩入れか?」

「そんな事はございません。

 ございませんが、仮にショタっ子に肩入れしたとして、何か問題が?」

「う。…………問題……ない」

「ですよね?」

「何ら問題もない」

「そうでございますよね!」


 何の話だろう。

 そう思ったのはどうやら僕だけではなく。


「ショータ、のぼせる前に上がろうか」

「はい」

「「ちょぉぉぉ!!」」


 リゼさんに言われ、立ち上がった僕にアマリさんとガスマスクの人が同時に声を上げる。


「すいません。

 大人しくしておりますのでもう少しごゆっくりと。

 本日はマンダリンオイル配合の若返りの湯となっております」

「私がこの日をどれだけ楽しみにしていたかわかるか?

 妹よ!

 私に死ねというのかい!?」

「ああ。死ね」

「非道い! ショタ君、一緒に死んで!」

「嫌です」

「冷たっ!」

「取り敢えず、ここに集めた理由だけ聞きましょう?

 何か悪巧み?」


 ヴィヴィアンヌさんに手で座れと促され、再び肩を湯につける。


「いや。ショタ君と風呂に入りたかっただけだけど?」

「ビビ。こう言う姉だ」

「良し。上がりましょう」

「ちょー! 待てよお前ら!

 屈強な男共に囲まれて野良作業している私がショタ君にひと時の清涼を求めて何が悪い!

 一緒に海なんか行きやがって!

 チクショウめ!

 こっちだって海行きたいわ!

 海辺で、『ショタ君、生き物は全て海から生まれたんだよ。母なる海。

 君も母なる海へ帰ろう。

 私が君の母になる。さあ、母の中へおいで』とかやりたかった!」


 アマリさんの絶叫が木霊する。




 静寂の中、風が湯気を揺らす。




「イデッ!」


 アマリさんが身を仰け反らせ、苦悶の表情を浮かべる。

 そして、彼女の前に『警告』と書かれた仮想ウインドウが出現。


「アウトです」


 静かにGMさんが言った。


「クソ。エレキ風呂じゃ無いんだから電気やめろ!」

「次は、退場ですよ?」

「反省した」

「よろしい」


 なんだろう。

 これは。


「と、この様にリラックスしてハメを外す人が続出ですので私はここに常駐しているわけです」


 そうガスマスクの人が静かな声で言った。


「ちょっと、お前、本当に何言ってるんだ?

 姉ながら気持ち悪い。

 いや、前からだが。

 本当に用は無いなら早々に退散したいのだが」


 リゼさんが青い顔で言う。


「えっと、まあこの辺の注意事項をいくつか。

 宿の幾つかは雑魚寝だとか。

 外れの屋台が二、三あるとか」


 俯きしどろもどろに返すアマリさん。


「その辺は、まあ大体調べた……」

「あ、そう。ショタ君も?

 宿決めた?」


 僕の方へと顔を向ける。


「僕は、親方の所へ戻りますけど?」

「え、そうなの?」

「私も職人街へ戻るわよ?」

「ビビも?」


 リゼさんもひよりさんも驚いた顔をする。


「だってここだと仕事にならないもの。

 でも、エリアの入り口までは飛べるんでしょ?

 なら別に良いかなって」

「僕も手伝いが有るので」

「そうか。まあ、そうだな」


 リゼさんとひよりさんが顔を見合わせる。


「ショタ君さ、鍛冶屋だっけ?」

「はい」

「親方さん、忙しい?」

「いえ。閑古鳥です」

「腕は?」

「悪く無いと思います」


「あのさ、紹介してくれない?」


 暫く考える素振りを見せた後、アマリさんが両手を合わせながらそう言った。


 思わずリゼさんを見る。


「姉よ。

 今までの流れを無かった事にして、普通に会話が進むと思うなよ?」

「私は心を入れ替えました。

 清く正しい魔法少女アマリ十四歳です」

「わかりました」

「え、わかったの?」


 僕の言葉に目を丸くするアマリさん。

 なぜ言った本人が一番驚いているのだろう。


「いえ、魔法少女は知りませんけど紹介はします」

「ありがとう!

 ついでに奇跡も魔法も……イダァい!!」

「アウトです」


 悶絶するアマリさんと警告と言う仮想ウインドウを横目に僕はお風呂から上がる。

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