19 弟子の仕事
翌日、ログインした僕に親方が最初に言いつけた事は工房の掃除だった。
箒を手渡され、たどたどしい手つきでそれを扱う僕を見ていられなかったのか親方の丁寧な指導が入る。
箒なんて、見た事はあっても使った事はなく、家の掃除は機械が勝手にやっている。
つまり、こう言う日常的な事は不慣れなのだ。
一通り教えて、親方は朝食を作りに戻る。
そして僕は工房の外を箒で掃く。
「オヴェット工房の弟子かい?」
黒い服を着た男の人が声をかけて来る。
「おはようございます。手伝いです」
「ああ、おはよう。
昨日、久しぶりに蒸気と石炭の煙が上ってだけれど、ノーラはやる気を取り戻したのかな?」
「どうでしょう?」
「また改めて顔を出すよ」
「あの、お名前は?」
「アラン・フォックス。彼女の古い馴染みだよ」
「伝えておきます」
彼は、手を上げ立ち去った。
その歩き方は、内股で少しクネクネして見えた。
「飯が出来たぞ」
「あ、はい。
親方、アランって人が来ましたけれど」
「また嫌味でも言いに来たのか。
塩でも撒いておけ」
「嫌です。
折角掃除したのが無駄になります」
僕がそう返すと、親方は一瞬ぽかんとした後声を上げ笑い出した。
工房の掃除と、鉄のインゴットを十個。
それが弟子としての僕の当面の仕事になった。
その変わり空いている時は機材使い放題。
その日は、インゴットを作りそして南西へ鉛と銅を掘りに行く。
それぞれ40個程手に入れ、600発銃弾に変えた。
◆
弟子入りして二日目。
掃除と親方に渡す鉄のインゴットを作り終え、自分の作業に取り掛かる。
鉛の鉱石が30G。
銅の鉱石が80G。
それをインゴッドにするとそれぞれ五倍の150Gと400Gになる。
さらにそれを銃弾にすると100発分で5000G。
これは、錬金術だなぁ。
なんて思いながら箱に溜まっていく銃弾を眺める。
まあ、売るつもりは無いのだけれど。
何発持っていようと重さを感じることは無いので作りすぎて困ることは無い。
ゆくゆくは違う銃弾も作ろうかと思うけれど、それは必要性を感じてからで良い。
「これで良いかな」
昨日の分と合わせて3000発。
有に十日持つと思う。
「随分作ったな」
若干親方が呆れ顔。
「有るに越したことは無いですから」
「それにしても、限度があると思うのだが。
まあ良い。
これが頼まれていた銃だ。
左手で扱いやすい様にリロードボタンの位置を変えておいた」
「すごい。流石ですね。親方」
「若干小馬鹿にされている気もするが」
「そんな事はないですよ」
本心から言っているつもりなのだが。
武器【ON-L3】短銃/ランク3
職人が作った品
左手で扱えるように工夫されている
最大八連射
製作者:ノーラ・オヴェット
この銃の名前であるONと言うのは(Factory) OvettのNoraと言う意味らしい。
なので僕が作るとOSになるわけだ。
作らないと思うけど。
早速左手に持って試して見る。
確かに、リロードが容易い。
腕を伸ばし、工房の外へ向け狙いをつける。
視線の先で、両手を上げる人物が。
タイミング悪く、来客が合ったようだ。
「暗殺家業にでも手を出すつもりかい?」
顔を引き攣らせながら、そう言ったのは昨日会ったアランさん。
「うちは、銃鍛冶なんだからおかしくないだろ。
子供に銃を向けられてびっくりしてるんじゃないよ」
「いや、本当に殺されるかと思ったよ」
そんなつもりは無いのだけれど。
「失礼しました」
僕は銃を下ろしアランさんに頭を下げる。
そして、アランさんの奥で手をふる人にも。
「何しに来たんだい?」
「仕事の依頼だよ。弟子にハサミを作ってもらおうと思ってね」
そう言ってアランさんは後ろに控えていたヴィヴィアンヌさんを紹介した。
「それは鍛冶屋に行きな」
「ここも鍛冶屋だろ?
他は忙しそうでさ」
「悪かったな。閑古鳥で」
「ああ。それで廃業してしまう前に一流の仕事をお願いしておこうと思ってさ」
「……わかった。鋏くらいなら今ある材料でなんとかなるだろう。
奥で座って待っててくれ。
お茶を持って来る」
そう言って親方は二階に、アランさんは工房の隅に申し訳程度に置かれている応接スペースへ。
「私の服を着ないでそんな汚れたつなぎを着るなんて、随分と良い度胸じゃないかしら?」
そう、ヴィヴィアンヌさんが言って来る。
しかし、目は笑っている。
怒っている訳ではないだろう。
「作業着です。
汚れるので」
「本当に弟子になったのね」
「はい」
「それであのお師匠さんの相手をしているからひよりと遊ぶ暇が無い、とそう言う事かしら」
「親方の相手をしている訳じゃないですよ。
自分の為なので」
「そう。
なら、この後は私達の相手をしようか」
「良いですけど……」
僕は応接スペースでアランさんと話し込む親方を振り返る。
「お師匠さん。
私、ちょっと出かけて来ますわ。
また、近いうちに顔出しますね」
「お、そうか。
気をつけてな」
「それと、鍛冶屋のお姉さん。
お弟子さんも借りて行きますわね」
「な、何?」
「何か問題がおありですか?」
「……いや。晩飯までには帰って来い」
「わかりました」
ひとまず許しが出た。
この弟子と言うのはいつまで続くのだろう。
「何? 晩御飯って」
「いま、ここに住み込みなんです」
ヴィヴィアンヌさんに続き工房の外へと出る。
「若い男女が一つ屋根の下。
ちょっと、宜しくないわね。
って、そんな事無いか」
「宿代が浮いて助かります」
「へー。食事もついて来るの?」
「はい」
「随分な厚遇ね。
流石」
何が流石なのだろうか。
「それで、何処に行くのです?」
「海よ」
「海」
「そう。夏だから!」




