16 モンスターの群れ
ツルハシを持つ手を止める。
ファントムが激しく僕に警告している。
振り返ると、遠くから土煙が上がっている。
ツルハシを仕舞い、そして、銃を手に。
向かってくるのは……モンスターの群れ。
それも二手から。
先頭を走るのはプレイヤー?
追われているのか?
あ。
消えた。
<帰還>したのだろうか。
しかし、モンスターは僕を挟み込む様に迫りくる。
「勝てるかな?」
ファントムに問いかける。
ファントムは青くなって大げさに揺れる。
「逃げろって?」
今度は縦に。
「でも、逃げれなそうだよ」
敵は二方向。
僕は崖を背にしたままより近い方へと走り出す。
ファントムは、それ以上何も言わず、僕より早く敵へと迫る。
ラップ音。
一瞬動きを止めたモンスター。
弱点を突いてる余裕はない。
僕は続けざまに引き金を引いていく。
◆
「負けちゃったね」
頭上のファントムにそう声をかける。
少し小さく震えるファントム。
「君の言う通りだった」
忠告を聞かなかったことを詫びる。
僕もファントムも奮戦はしたのだけれど、それでも迫る大量のモンスターには勝てず、結果最初の町のゲーム開始地点に立っている。
ステータスを確認する。
<ペナルティ:ステータス低下 50%>と表示されている。
でも、それは僕だけで、ファントムは何とも無いようだ。
これを解消するためには、教会でお金を払うか、時間経過を待つしか無い。
「取り敢えず、ツルハシ返しに行こうか」
外へ出なければ、このステータス異常もあまり関係ないのだから。
女鍛治さんの工房へ顔を出すが、彼女はそこに居らず。
「こんにちはー」
上かと思い、声をかける。
「何だ。早かったな。
まだ準備中だから……」
バタバタと工房まで下りて来て彼女はそう言った。
何の準備だろうか。
「取り込み中なら、ここにツルハシ置いて置きます」
「あー、待て。
今日はどうだった?」
「駄目です。
石炭と、鉄鉱石ばかりで。
また、明日トライします。
では」
「待てって。
その鉄鉱石と石炭買い取ろう。
でも今手が離せないから、そうだな、三十分程ぶらついて来い」
「明日でも良いですよ?」
「うるさい。
つべこべ言うな」
そうやって、また来いと追い出される。
まあ、仕方ない。
僕は少し職人街をぶらつく事にした。
◆
他の工房は、機械の音と喧騒で活気付いて居るのにどうして女鍛治さんのところは開店休業何だろう。
やっぱり、何かの嫌がらせを受けて居るのか、それとも単に腕が悪いのか。
そんな疑問を持ちながら工房へ戻る。
「こんにちは」
「ああ、丁度良かった。
上に上って来い」
「はい」
言われた通り、お邪魔する。
昨日と同じように食卓に食事の準備がしてあった。
パンに、揚げ物にサラダとスープ。
それが二人分。
「お客さんですか?」
「いや、あーそう。
その予定だったんだが、急に都合が悪くなったらしくてな。
どうしようも無いから、お前食っていけ」
「はい。ありがとうございます」
言われるままに席に座り、そして、食事をいただく。
「どうだ?」
食べる僕を覗き込む様に語りかけて来る。
「難しいです。
鉄鉱石ばかりで。
場所が悪いんでしょうか?」
「いや、聞きたいのはそうでは無く……。
いや、いい。
どこを掘って居るのだ?」
「北西に行った荒野です」
「あそこか。
あそこは昔金山でな。
ま、もう金なんかないけれど」
「どうりで。
ふたかけらほど、手に入りました」
「うぇ?
本当?」
「ええ」
「私も行こうかな……」
やはり場所が悪いのか。
「そう言えば弾は売り物ですか?」
モンスターの軍団に襲われた所為で残りが50発程しか無い。
「ん、ああ。
勝手に持って行っていいぞ」
「そう言う訳には行きません」
「どうせ買い手なんか居ないんだから」
「僕が買います」
「……わかった。
なら持って来た鉱石と取引をしよう。
食ったら下に行くぞ」
「はい」
それっきり黙々と食べる僕を女鍛治さんはじっと見ていた。
何だろう。
「これで全部です」
工房の床に持って来た鉱石を全て出す。
ちょっとした小山になったのだが、これだけの物を持っていても重量は感じなかった。
「鉄鉱石が60と、石炭が96、金鉱石が2か。
全部で15000Gと言ったところだな。金鉱石は一つ7000Gぐらいだろう」
少し考える。
全て弾に変えて、300発か。
ひとまず、それで凌げるかな。
「じゃ、全て引き取って下さい」
「わかった。
物と交換で良いんだな」
「はい」
女鍛治さんは弾を箱に入れて持って来る。
「1000発ある。
あと、これもおまけしてやろう」
そう言って、短銃を僕に手渡す。
それを手に取る。
武器【OT-L】短銃/ランク6
職人が丹精込めて作ったもの
細部にわたってこだわりの詰まった品
最大十連射
製作者:トーマス・オヴェット
ちなみに今持っている、最初に貰った物。
武器【ハンドガン】短銃/ランク1
特徴は無いが入門用としては最適
最大六連射
ランクと言うのが強さだろう。
グリップを握り、引き金に指をかける。
悪くは無い。
手の中の銃を細部まで観察する。
銃身のライフリングが美しい螺旋を描いていた。
女鍛治さんに突き返す。
「受け取れません」
「……どうして?
言っちゃ何だが、良い品だぞ?」
「ええ。
少なくとも、おまけで譲り受ける様な物でない事は分かります。
貴女が作ったのですか?」
「いいや」
首を横に振る女鍛治。
「素性のわからない道具に命は預けられない」
それだけ言って僕は女鍛治さんに背を向ける。
せめて、この中でくらいは後ろ暗い気持ちを抱えない様にしたい。
「また明日来ます。
弾はその時に。
ごちそうさまでした」
それだけ言って、工房を後にした。




