13 職人街の女鍛冶さん
ログインして、ベッドから体を起こした僕の所へファントムが静かに近寄ってくる。
「おはよう」
そう声をかけると微かに揺れて答える。
「今日は、職人街を見に行こうか」
弾丸を作るためにはどうすれば良いのか。
生産者ギルドと言う施設でも大丈夫らしいけれど、二日間この世界に居てわかったこと。
僕の様な子供の体は、この世界では少数派で、町を歩いていても度々奇異の目を向けられることがある。
気にしなければ良いのだけれど、それで昨日の様なトラブルになるのはあまり好ましくは無さそうだから、多くのプレイヤーが集う施設よりは同じことが学べる職人街に行こうと決めた。
ただ、NPCと呼ばれるこの世界の人達はそれぞれに性格が異なっていて、人によっては素直に教えてくれない事もあるとヴィヴィアンヌさんが言っていた。
実際にどうやって作っているかを一度見ていて損はないし、歩いて居るだけで楽しいところだとも。
何も言わないファントムを伴って、僕は職人街へと足を向ける。
職人街。
そこは街の中心から外れた一角にあり、でも、人で賑わいながらも比較的落ち着いた街中と異なり通りまで雑多に物が置かれ、そして、機械の奏でる様々な音と人の怒鳴り声が絶え間なく耳に入ってくる、そんな場所だった。
高い煙突が何本かあって、煙を吐き出している。
それを見上げながら通りを歩く。
僕の小奇麗な衣装はそこに迷い込んだかのように異様だと思ったけれど、忙しなく動くプレイヤーやNPCにそんな事を気に留める余裕は無いのかもしれない。
嬌声が上がっているのは食事処だろうか。
歌声まで聞こえる。
この世界、夜は訪れないらしいから昼から酒盛りをしていても何らおかしくはない。
そんな様子を眺めながら歩く僕に、不意に声が掛けられる。
「迷子かい? 坊や」
見ると通りに置かれた木箱に腰を掛けた女性。
汚れたつなぎを着ているので職人かもしれない。
ただ、上半身はタンクトップ姿でつなぎの袖は腰の所で巻かれているが。
片手に緑色の瓶を手に居ていて、顔が赤い。
酔っているのだろう。
「見学に」そう答える前に彼女は続ける。
「冷やかしなら帰りな。ガキの来るところじゃないよ」
そう、嘲るような口調で言われる。
「冷やかしだと思われたなら謝ります。
だた、子供と言うのは追い出される理由になるのですか?」
「なる」
そう言って、その人は酒瓶を呷る。
「ここは、男の世界だ。女子供のいる場所じゃない」
「あなたは女性ですよね?」
「見てわかるだろ?」
「じゃ、貴方がここにいることもおかしいのですか?」
「そうだね」
そう言って、彼女は笑い声を上げる。
僕には何が可笑しいのか理解できなかった。
ただ、彼女が座っている木箱の中に入っていたのは、僕の求めていたもの。
銃弾。
「これは、貴方が作ったのですか?」
近寄り、無造作に地面に溢れたそれを拾い上げながら問いかける。
「……欲しけりゃ好きなだけ持ってきな」
「いえ、恵んで貰いに来たのではありませんので」
僕の答えに彼女が僕を睨みつける。
腰を掛けた彼女の目の高さは、それでも、僕よりも上で、僅かに見上げる格好になる。
「じゃ、何しにきたんだよ」
「これを作りに」
拾い上げた弾丸を手のひらにのせ、彼女に見せながら答える。
「教えてください」
僕は、彼女を見据えそう言った。
「私が作ったなんて一言も言ってない」
「いいや、貴方だ」
ツナギ姿で、職人の世界を語る人が、他人の作ったものをこんな風に粗末に扱う訳がない。
「誰が作ったにせよ、私は廃業だ。
他を当たりな」
そう言って再び酒瓶を呷る。
折角、銃弾の作り方がわかりそうだったのに。
……「困ったときは、『助けて、お姉ちゃん』と言うのだ」と、唐突にメーアの言葉が蘇る。
そんな事を考えてしまった自分が馬鹿らしくなって、唇をきつく結び、小さく頭を振る。
職人の人が、そんな僕を見下ろしていた。
さぞや滑稽に見えただろう。
顔を上げ目が合うと、直ぐに赤い顔を逸らす。
「……教えようにも、素材が無い」
少し悲しそうにそう呟いた。
「素材?」
「そ。何も無いんだよ。ここには。
作り方を知りたいんなら、自分で集めて来な」
視線を逸したままそう言うと、彼女は再び酒瓶を呷る。
<ポーン>
システム音。
<クエスト【女鍛冶屋の依頼】を受領しました>
仮想ウインドウを開き、それを確認。
◆
クエスト【女鍛冶屋の依頼】
生産者組合から嫌がらせを受け、
素材の買い付けや、商品の納入のままならない
女鍛冶屋を助けよう
期限:30日
納品アイテム:銅鉱石×3,鉛鉱石×5
報酬:ツルハシ
◆
これは、ネタバレという物だろうか。
それで捨て鉢になっているのか。
「わかりました。行ってきます」
「そこにツルハシがあるから持ってなければ貸してやる。
……ただ、今日中に返しに来い」
「ありがとうございます」
言われたとおり、人の居ない工房に置かれたツルハシを借り受け、頭を下げる。
とは言え、何処に行けば良いのだろう。
尋ねようと思ったのだが、女鍛冶さんは酒瓶で肩を叩きながら工房の奥へと去っていってしまう。




