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12 夢の話

 全身に風を受けていた。

 髪が、ヴィヴィアンヌさんに作ってもらった服が風になびく。


 絶え間なく響く低い音。

 見ると、プロペラが高速で回っていて、その先に白い雲が浮かぶ真っ青な空。


「すいません。お待たせしてしまって」


 掛けられた声に振り返ると、メーアが微笑みながら立っていた。


「先ほどは折角お問い合わせいただいたのに」

「えっと……」


 僕は、混乱していた。

 覚えている最後の記憶では、僕は現実のベッドで寝たはずで。


 ゲームに接続するためのギアは装着していないので、ここに居る理由が無いのだ。


 とすると。


「夢?」

「魔法ですよ」


 ニコリと笑い、メーアさんが言った。

 そんなはずはきっと無くてこれは、夢なのだろうけれど。


「それで、なんの御用でしたか?」

「このゲームは、人を殺してはいけないんですよね?

 どうしてですか?」

「それがルールだからです。

 そうすることで、より多くの人が楽しめると、そう判断したからです。

 ショータさんが遭遇したあの場面で、あの男を殺したとしましょう。

 その後どうなりますか?」

「どう? 殺したらそれで終わりですよね?」


 あるいはその報復を他の誰かがするか。


「いえ。

 殺されても、再びゲームを行うことが出来るのです。

 だって、現実では死んでいないのですから。

 すると、相手はショータさんに復讐をしようと現れるでしょう」

「向かってくれば、また殺します」

「そういうことがずっと続く。

 多くの人は、そういう出来事を不快に思います。

 こちらへ」


 そう言ってメーアは歩き出した。

 ついていくと、床の上に大きな前輪と小さな後輪のついた自転車が置かれたいた。

 ペニー・ファージングと呼ばれる、前輪にペダルがついた古い物。


「乗りましょう」


 メーアはそう言うと、その自転車にゆっくりと足をかける。

 よく見ると座席が二つ付いていて二人乗りにが出来るようだ。

 でも、その椅子は小さな後輪の上に取り付けられて居て、どこにどうやって足をかけて乗ろうかさっぱりわからない。


「さあ」


 と、困る僕にメーアが声をかけると一瞬で景色が切り替わり、僕はその後部座席に収まっていた。

 自転車の進行方向から後ろを見る形で。

 丁度メーアと背中合わせになった。


「行きますよー」


 自転車はゆっくりと動き出す。

 それは、そのまま宙へと漕ぎ出した。


「あれが、今乗っていた飛空艇です」


 それは、大きなプロペラを持った空を飛ぶ船。

 空に浮かぶ大きな船だった。


「そして、この下がVinculum Onlineの舞台。テラと呼ばれる大地です」


 そう言うと、自転車は一気に高度を下げていく。


 海が見え、やがて陸へと変わる。

 その中に魔物と戦う人の姿。


「あの人達は、ショータさんと同じ、プレイヤーです。

 みんなこの世界で楽しむ為に来ています。

 一時、この世界に身を置き、そして、再び現実へと戻る。

 現実逃避だ。

 時間の無駄だ。

 そう言う人も居るでしょう。

 でも、私達はそうは思いません。

 ここでああして楽しむことで、直接的なストレスの解消になるかもしれません。

 あるいは知らない誰かとコミュニケーションをとることも出来ます。

 ここでの経験は、直接的に現実世界に還元されることは少ないかもしれませんが、それでも全てが無駄ではない。

 そう言う思いで私達はこの世界を提供しています。

 ですが、人と人が集まると当然少なからず衝突が発生します。

 そう言った場合に、極力不快感を現実へと持ち込まない為に、いくつかのルールを設定しました。プレイヤー間の暴力行為を禁止としたのも、その一つですね」


 自転車を漕ぎながらメーアがゆっくりと説明する。

 その下を、沢山のプレイヤーが現れては消え、現れては消えて行く。


「嘘だ」


 多分メーアはAIで、その言葉に感情なんで無いのだろうけれど、僕は彼女の声色に僅かに偽装の匂いを感じ取った。


「まるっきり嘘と言う訳では無いのですが……。

 そうですね。

 事実でなかったのは、『そう言う思いで提供している』というところでした。

 プレイヤーに楽しんでもらうことは目的ではなく、手段でしか無い。

 目的は、この世界を救うことにあります」

「世界を救う?」

「初めに言ったではないですか。

 目的は魔王の討伐だと。

 ……誰一人、本気にしてくれて無くて私悲しいんですけれど。

 それには、皆さんの力が必要で、その為には今は一人でも多くの人に楽しんで頂く必要があるのです」

「世界って言っても、作られた舞台ですよね?」

「そうかも知れないですし、そうでないかもしれません。

 世界とは何ですか?

 ショータさんの生きる現実も、このゲームの世界も、本質的に何も変わらないのかもしれませんよ?

 その人がどのように認識するか。それだけです。

 少なくとも私には、この世界も、そちらの現実も等しく同じ世界です」


 なおも自転車は走る。

 地の上のプレイヤー達から、僕らの姿は見えていないのだろうか。


「まあ、世界なんてものは、認識の仕方一つでいかようにも捉えることが出来るあやふやなものです。

 ショータさん、友達が欲しいと、そう言いましたよね?」

「はい」

「それは、ひよりさんやリゼさんはお友達ではないですか?」

「わかりません」

「ショータさんが、彼女達を友達だとそう思えば友達なのではないでしょうか。

 少なくとも、彼女達はそう思っていますよ」

「そうでしょうか?」

「……多分」


 最期にポツリと付け加えた。


「いっぱい人が居るんですね」

「普段は会わないようになってますけれど、おかげさまでそれなりの人数で遊んでいただけてます」

「会わない?」

「ええ。この世界は幾重にも重なり合っていて、人を分散させています。

 そうしないと、ゲームの開始地点が人だらけになってしまいますので。

 Partially Parallel Systemと言うものです。興味があれば調べてみてください」


 自転車は再び海を越え陸地に入る。

 そこで一時、プレイヤーの姿が見えなくなる。


「ま、深く考えないで楽しんで下さい。

 変な輩に絡まれたらすぐに『助けてよ、お姉ちゃん』と言うのです!」

「他に言いようは無いのですか?」

「GMと呼んでいただければ、まあ大丈夫なんですが、お姉ちゃんと呼ぶと彼女が超特急で向かいます。多分」

「あのガスマスクの人は、メーアだと思ってました」

「私で居て、私で無いのです。まあ、根底は同じなのですが」


 眼下に広がって居た森が拓ける。

 そこには、何かの建造物の後。遺跡のような物があった。


 そして、多くの人。


「彼らは何をしてるんですか?」


 戦闘をしている訳では無かった。


「何……してるんでしょう?

 え、マジ何してんの?

 アイツラ」


 自転車は彼らの上空を旋回する。


「え、嘘。

 家作ってる?

 宅地開発?

 ちょ、不味いって!

 そんな事されたら!

 この先のロードマップにとんでもない影響があるってば!

 馬鹿じゃないの!?」

「駄目なんですか?」


 その集団の中にアマリさんの姿があった。

 とても楽しそうに木材を運ぶ人達に指示を出している。


「駄目……では無いんだけど……こちらの想定外なのですよ」

「でも皆楽しそうですよ」

「どうなることやら……」


 そう呟いたメーアも、でも少し楽しそうで。


「さて、そろそろお時間ですね。

 他に聞きたいことはありませんか?」


 自転車が上昇を始める。


「色々あるけれど、まずは自分で考えます。

 どうしてもわからない時は、その時にまた改めて」

「その時は、教えてよ、お姉ちゃんと言うのだ!」


 言うのだ言うのだ言うのだ言うのだ………。

 と反響しながら視界が暗転した。


 いや、目が覚めた。

 家のベッドで。


 全部夢。

 変な夢。

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