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111 夢の話

 

 断続的に耳に入る、キュルキュルと言う音で目が覚めた。

 髪が風になびく。

 家のベッドに寝たはずなのに。

 せわしなく回るプロペラと、抜けるような青空。白い雲。


「夢、か」

「魔法ですよ」


 デジャブの様なやり取り。

 振り返ると微笑むメーア。

 だとしたら、これは空飛ぶ船。

 夢と魔法。

 その違いは何だろう。


「今日は、何ですか?」

「どうしても、一言謝りたいと、そう言う方がおりまして」

「謝る? 僕に?」


 彼女は微笑んだ後、後ろを向き歩きだす。

 メーアに付いて船内へ。

 細い廊下のその先。

 木製の扉の前で立ち止まり、その先を示す。

 古ぼけた真鍮の取っ手に手を掛け、その扉を開ける。


 女性が居て、その頭を床に付けて座っていた。

 ドゲザ、と言う物だ。


「何、してるんです?」

「すいません!」


 ガスマスクさんが、顔を上げずに謝る。


「どうぞ、私の頭を踏みつけ罵ってて下さいまし。

 この雌豚、と」

「えっと……」


 困り果て、メーアを振り返ると苦笑いを浮かべた彼女から助け舟。


「一体、何がどうなってこんな風になってしまったのか……。

 個人的な好奇心を満たすために彼を呼んだのですか?」

「そうであり、そうでは無く。

 ただ、こうしないと私の気が治まらないのです」

「わかりました」


 そう答えた僕に、メーアが少し驚いた様な顔をする。


 右足を上げて、それをガスマスクさんの後頭部へと下ろす。


「この、雌豚が」


 ……これの何が楽しいのだろう。

 まあ、良いや。

 どうせ夢だし。


「……何か、違う」


 僕の足の下でガスマスクさんが小さく呟いた。

 もうどかしても良いのかな。


 ◆


 改めて、ソファに座り直し僕の向かいにメーアとガスマスクさんが腰を下ろす。

 出されたクリームソーダに口を付ける。

 冷たくて美味しい。


「貴方達を止めるためとは言え、槍で突き刺し泥水の中へと押し付けたことをどうしても謝りたかったのです」


 そう言ってガスマスクさんが頭を下げる。


「ああ、そう言うことですか。

 気にしてないですけれど」

「……そう言うだろうとは思いました。

 まあ、もう一人は大層ご立腹なのですけど」


 もう一人?

 それはファントムの事だろうか。

 僕は視線を頭上へと向けるけれど、そこに相棒の姿は無い。


「ただ、もうあのような事はしないで下さい。

 今回は、たまたま彼が身代わりを引き受けてくれましたが、本来であれば相応のペナルティは免れないのですから」

「緊急避難による情状酌量の余地あり。

 ログイン停止15日。

 執行猶予を与えるかどうか。

 本来は、その辺が落とし所だったと思うのですけどね」


 ガスマスクさんに続き、メーアが言う。


「では、何故ヴォルクさんが除名となったのですか?」

「彼の虚偽により、そうせざるを得なくなったのです。

 偶発的な緊急避難行動ではなく、事前に計画された恣意的な犯罪。

 どちらがより重いかおわかりでしょう?

 ですが、おそらく彼自身がそれを望んだのでしょうからこちらとしても全面的にその証言を受け入れることにしたのです」


 でも、そのせいで、クランは解散した。

 僕が解散させたような物だろう。


「本当は、こう言うの禁止なんですけれど、まあ夢だから良いですよね」


 メーアがそう言ってウインクをした。


 次の瞬間、景色が切り替わる。




 そこは、フェンリルのクランホーム。


 ソファに座るヴォルクさん。

 その横に、ヴォルクさんと背中合わせで背もたれに腰を下ろすハヤトさん。


「急にこんなことになっちまって悪かったな」

「しょうがねえよ。何時かは終わる。

 皆、薄々分かってはいたんだ。

 それが偶々今日だっただけだろ」


 二人は、互いに逆の方向を見ながら会話を続ける。


「蛍は、悲しませちったなぁ」

「それだけ好かれてたんだろ」

「男じゃなきゃ大歓迎だったんだけどなぁ」

「あ? そんな事に興味あったのか?」

「おいおい。俺だって男だぞ?」

「いやいや。恋愛禁止とか言い出したのアンタだろうよ」

「待て待て。そんな事、一言も言った覚えは無いぞ? むしろウェルカムだ」

「そりゃ、知らなかった。惜しいことしたな。仮想世界こっちならそれなりにモテただろうに」

「だろ? 俺もそう思うんだよ」


 二人が声を揃え笑う。


「……大丈夫なのか?」


 少し、間を置いてからハヤトさんが尋ねる。


「それがよ、意外とワクワクしてんだよ。

 新しくゲームを始めるみたいによ。

 あれだ、強くてニューゲーム」

「強くねぇだろうがよ」

「それぐらい、心配無用って事だ」

「そうか」


 ヴォルクさんが、静かに立ち上がる。

 ハヤトさんも。


 そして、二人同時に振り返る。


「そろそろ時間だ」

「もう、言う事もねぇな」


 ヴォルクさんが右手を握り締め、前に突き出す様に上げる。

 ハヤトさんが、右手を同じ様にそれに合わせる。


「……ありがとうな」


 そう言って、ヴォルクさんが消えた。


「……頑張れよ」


 右手を突き出したまま、ハヤトさんがヴォルクさんの消えた空間に向かって声をかけた。




 そして、再び景色が切り替わる。


「彼は、いつかしなければならない決断を今日した。

 たまたま、ショータさんがその場に居合わせて、少しだけその背中を押した。

 それだけの事なんですよ」

「背中を押して、それで死んでしまう事もありますよね」


 そんな殺し屋の事を聞いたことがある。

 それは、作り話だっただろうか。


「死んでしまう人の顔には到底見えませんでしたけれど」


 確かに、ヴォルクさんは最後まで笑顔だった。


「まあ、去る人の話はこの辺で。

 これからの話をしましょう。

 少し、予定より早く、そして、予定外の形でデイストルクスが地に現れてしまいました」

「あの、赤い目をした人ですね」

「そう。

 我々が不甲斐ないばかりに!

 貴方達を危険な目にあわせてしまう。

 いずれ命を脅やかされる事になるかもしれません。

 そう言った意味で、早々に立ち去ったヴォルクさんは幸せなのかもしれません」

「どう言う事ですか?」

「人は死してシャルディーニの元へと旅立つ。

 そして、彼女の赦しを得て再び生を得る。

 それがこの世界の定理。

 あるいは、貴方達の言葉で輪廻。

 デイストルクスの刻印は、魂を輪廻の外へと導く物。

 それは、彼女の悲しみが癒えるまで続く。

 故に、彼女の悲しみは癒える事は無い」


 メーアが言ったその言葉は、僕には殆ど理解できなかった。


「まだかろうじて私の慈しみが残る地の上ならば、彼女の悲しみは及びはしない。

 だから、地の下に、或いは、彼女の前に。

 貴方は行ってはならないのです」


 ガスマスクさんが、そう続けた。


 ああ、だからファントムは僕を殺したのか。

 根拠は無いけれど、不意にそう思った。


 いや、元はと言えば、この刻印へと僕らを導いたのはファントムでは無いか?

 あのピラミッドの小部屋へと。


 直接、聞こう。


 その為に、ずっと一緒に居たのだから。

 話をする為に。


「まあ、今のはちょっと大げさでした。

 ゲームをして居て生命が危険に晒されるなど、あってはならない事。

 その為に、ゲームマスターとしての私が居るのですから」


 それは、僕に対しての忠告でもあった。


「わかりました。

 でも、また同じ状況になったら僕は躊躇わずに殺します」

「誰かに殺せと命令されなくても、ですか?」

「はい」

「そうならない事を祈ります。

 そして、そうならない様に努めるべきですね。

 お互い」

「はい」


 そう答えた僕にガスマスクさんは小さく頷く。


「そろそろ、お時間ですね。

 ……暫く、会えません。

 寂しい様なら毎晩ここにご招待しますけれど」

「いえ、結構です」


 反射的に答えた僕に、メーアが悲しそうな顔をする。

 もう一人は、相変わらずガスマスクで表情が見えない。

 でも、不思議そうに首を傾げる。


「何が不満なのでしょう?」

「本当に」


 多分、居るべき相棒が居ないからだろうけれど、ここにファントムが居たらどうなるのだろう。


「最後に、一つ聞かせて下さい」


 僕はガスマスクさんの方を見ながら尋ねる。


「何でしょうか?」

「名前を知りません。教えてもらえませんか?」

「ジェルディーア!

 ジェマと、ジェマとお呼び下さい!」

「あ、何どさくさに紛れて正体明かしてるですか!

 私は、メアルヴィア!

 メアルヴィアです!

 親しみを込めてメーアお姉ちゃんと呼ぶのです!」

「そっちこそさり気無くランクアップさせて!

 私はジェマお姉ちゃんです!

 そう、呼ぶのです!」

「「呼ぶのです……呼ぶのです……呼ぶのです………」」


 そこで目が覚めた。


 ……変な事、聞くんじゃ無かった。

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