108 GM
「お前が暴れ回ってるって言ってたロリっ子?
うーん、良心が咎めるな」
町の門で僕を待ち構える様にそいつは立っていた。
最後の一人。
他の仲間もデスペナを解消して戻って来ることは出来るけれど、その可能性は低いだろう。
そうRenNaさんは言った。
コストがかかるし、向こうにしたら想定外の事態だろうからと。
「でも、プレイヤーなのに何でPK出来るんだ?
バグ?」
それに答えず銃口を向ける。
「問答無用かよ。
GM!」
男がそう叫ぶと同時に引き金を引いた。
男へと向かう銃弾は、溶けるように空へと消えた。
そして、僕の前に<警告 / Warning>と言う赤い文字が浮かび、ブザー音が鳴り響く。
構わず引き金を。
しかし、弾は出ない。
前傾姿勢で地を蹴る。
ナイフを手に。
たが、それは相手の顔に一瞬の恐怖を刻み込む事しか出来なかった。
僕の刃が相手の喉元へ突き刺さる前に、背中から衝撃に貫かれ、僕の体は地面へと繋ぎとめられた。
水溜りが出来た地面に倒れこんだまま体が動かない。
胸、心臓部に棒のような物を打ち込まれている見たいだ。
視界の端に見える僕のHPバーがグングン減って行く。
「罪悪感を覚えるような光景だなぁ」
言葉とは裏腹に、嬉しそうな男の声。
必死に上半身を捻り顔を上げ、笑いながら僕を見下ろす男を睨みつける。
「抜けませんよ。
且つて英雄が手にしていた槍。
模造品とは言え神殺しと呼ばれた物ですから」
それは男の言葉では無かった。
でも、聞き覚えのある声。
体の中からパリンと言う何かが砕け散る様な音がした。
HPがゼロに。
憑依が解けた。
ファントムの力が、尽きた……。
再び現れた僕のHPバーは、さっきよりはややゆっくりと、でも確実に減って行く。
「何故ですか!?」
僕は、姿の見えないその人に問いかける。
「プレイヤーキルは禁止事項ですので」
横にガスマスクさんの靴が見えた。
「あいつは町を破壊している!」
「してねーよ。まだ」
「嘘つくな!」
辛うじて肘を立て、男を睨む。
何か、手段は無いか。
あいつを殺すための。
「本当です。
彼はまだ何もしておらず、対して君はプレイヤーキルを行なって来て、更に今、彼に危害を加えようとした。
私は、予防的に動く事は無いのです。
……わかりますか?
貴方が町を破壊した、その瞬間に私は貴方を拘束出来るのです」
後半は、僕に向けてでは無いだろう。
男は手の中で宝石をいじりながら、僕から視線を外す。
その視線の先はガスマスクさんだろう。
「は?
何に違反して?
出来ないだろ?
てかさ、何でそいつはPK出来んの?」
その問いに答えたのは、ガスマスクさんでは無かった。
上から高速で飛来した何かが男の手を弾き、その手から溢れ落ちた宝石に次いで飛来した矢が突き刺さる。
「は?」
その間抜けな声が、男の最後の言葉になった。
弾ける様に飛びかかって来た黒い巨体が、男を地に押し付けその頭をひとかじりに。
それに合わせ、僕の方へと飛びかかってくる白と黒の影。
白い影が僕を飛び越し、僅かに浮いた僕の体の下に潜り込む黒い影。
覚えのある感触。
スコルの毛並みにしっかりと掴まる。
「召喚獣はさ、プレイヤーに攻撃可能なんだよ」
粒子と化して消え去る男に、答えを与えたのはくまこさんだった。
ハティが口に槍を咥え、スコルが背に僕を乗せノルンさんの元へと降り立つ。
「ヒール」
僕を癒やすパールさんの声。
ハティの背から降りた僕の頭を優しく撫でるパールさん。
ハティの口から槍を受け取り、それを手に僕を守るように立つノルンさん。
それに寄り添う二匹の狼。
五郎と共に、戦闘態勢をとるくまこさん。
建物の上で弓を構える朝景さん。
「GMさんよぉ。
俺達の仲間、返してもらうぞ」
そんなフェンリルの面々の前に歩み出て、空に浮かんだガスマスクさんを悠然と見上げるヴォルクさん。
……フェンリルの面々。
何故、ここに?
「それは出来ません。
彼は、規約違反で連行します」
「あのさぁ、規約違反って、PK出来る抜け道を作っておいてちょっと理不尽じゃ無いか?」
「ですが、それを利用する事自体禁止事項なのです」
ガスマスクさんとくまこさんが言い争う。
「納得行かないね」
「そうですか?
その子は人殺し。
その理由はどうであれ、罰すべきでしょう?」
ああ、そうだ。
僕は人殺しだ。
「緊急避難に当たりませんか?」
僕の背後からそれに待ったをかけた声は黒さんの物だ。
「そうかもしれません。
仮にそうだという結論であっても、今、この場でそれを決めて解放と言うわけにはまいりません」
「では、それまでは推定無罪でしょう」
そう反論した黒さんに、だが、ガスマスクさんは首を横に振る。
「ククククク」
突然、何者かの笑い声。
「神に策を弄する痴れ者。
或いは、親の慈悲を理解せぬ青二才、か?
幾千と時が流れようと、人は変わらず愚かだな」
何時からそこに居たのだろうか。
屋根の上に腰掛け、足を組む人影。
「デイストルクス。
人は、我が子では無いのよ。
こんなところへ一体何の用?」
「こんなところとは随分だな。
光の神の恵みを謳歌している最中だと言うのに」
「あら、そう言えば穴蔵から這い出てきたのね」
「そう言う御前は未だ氷の中であろうに。ククククク」
宙に浮くガスマスクさんと、屋根の上の黒いローブを纏った人物。
二人は旧知の仲の様で、僕らの事は蚊帳の外で会話が進む。
あの黒いローブは、今朝、工房の前で見かけた奴だ。
直後、ファントムに殺された時の。
……ガスマスクさんはデイストルクスと呼びかけた。
それは、破壊神と呼ばれる者の名。
「貴方は、愚かにも愚かと見下す人に力を貸したのかしら?」
「戯れよ。
この町を壊さんと願う人の浅ましさ。
人の魂を地の底へと閉じ込める我が宿願。
それが一時一致しただけ故」
「安々とそれを許すと思うてか?」
ガスマスクさんが、右手をデイストルクスへと向ける。
しかし、その先にデイストルクスの姿は無かった。
「仮初の体で何が出来ると?」
何時の間にか、音もなく地面に降り立って居たデイストルクスが、楽しそうな声を上げる。
「……不覚」
デイストルクスが片手で掴んだガスマスクさんの頭部が、そう一言呟いて、そして粒子になり消えて行った。




