101 草原フィールドボス
相変わらず、強い風が吹き付ける草原のフィールド。
「行こうか」
僕の呼びかけに、ファントムが小さく揺れる。
<イベントフィールドに侵入しました>
一歩踏み出した僕の耳に届くシステム音。
直後、左右から同時に獣の雄叫び。
ムボヨとワレンガ。
獅子の頭を持つ人型の草原フィールドボス。
左右より挟むこむ様に迫り来る両者にファントムが呪いの状態異常を掛ける。
僕は右のムボヨへ向かい、地を蹴る。
相手の側面へと回り込む様に走りながら、引き金を引く。
跳躍し、生い茂る草の上から姿を現すムボヨ。
鋭利な爪で引き裂かんと飛びかかってくる。
銃弾がその身を貫いても、その勢いは変わらず。
大振りな上からの攻撃を交わし、自分の小柄な体を懐の下へと潜り揉ませ、体術技で下から一気に蹴り上げる。
宙返りをしながらの攻撃。
スキはあるのだけれど、自分の二倍以上ある巨体を宙へ跳ね上げることが出来る。
最も、くまこさんには一度として当てることが出来なかったのだけれど。
蹴り技を食らい、宙に浮かされたムボヨへ両手で銃を向ける。
二丁の四門の銃口が銀製の銃弾を絶え間なくムボヨへと撃ち込んでいく。
横手からもう一体、ワレンガが僕を切り裂かんと飛び込んでくる。
だが、それは空中で透明な壁に激突し自分の突撃の破壊力をそのまま自身の体で受ける結果となる。
ファントムの武技。
物質化。
ファントムの持つ魔力、MPを具現化させる技。
それは使い方によって、今の様に盾にして身を守ることも出来るし、更にはその上へと乗ることも出来る。
最も、一度でも何かに触れると壊れてしまうのだけれど。
よろよろと立ち上がったワレンガへ銃弾を撃ち込みながら距離を取る。
二体が連携して攻撃してこようとも、僕とファントムがそれ以上に上手く捌けば問題ない。
着地して再び飛びかかろうとしたムボヨの出鼻を挫くタイミングでファントムがランプ音を浴びせる。
それに合わせ、僕は引き金を引く。
勝てるな。
◆
「見事ではないか」
「どうも」
見世物にしていたつもりは無いのだけれど。
まるで海が割れる様に、伸びた草が避けて道が出来る。
その先に居たのは、風の神。
相変わらず口元を扇子で隠しているが、目元は笑っている様に見える。
「何か御用ですか?」
「このところ死者の気配が濃くなっての。
なんぞあったのかもしれぬ。
主、暫くこの辺で狩ってはみぬか。
褒美は……考えよう」
「いえ。すいませんが、帰ります」
そう答えた僕を眉間に皺を刻み青筋が浮きそうな顔で睨んだ後にファントムの方へと顔を向ける。
ファントムはからかう様にその場で二、三度円を描く様に飛んで僕の後ろへと隠れる。
「では」
一礼して、そして工房へと転移する。
ろくろさんに銀の銃弾の量産を頼もう。
◆
「ただいまもどりました」
「おかえり。丁度良かった」
工房に戻った僕は親方から呼び止められる。
「これを、届けてほしいのだが」
「はい」
「納品がてら、付与魔法の仕上げもしてやってくれ。
そこまで料金の内だから」
「わかりました。では行ってきます」
親方から剣と槍、二つの武器を受け取りその足でローズガーデンへと向かう。
◆
「こんにちわ」
「あら、いらっしゃいませ。ビビさんですか?」
ローズガーデンでサヤさんに出迎えられる。
僕は、事前にリゼさんとひよりさんが居るか確認しておくべきだったとその時に思い至る。
「いえ、すいません。約束も無く来てしまったのですがリゼさんとひよりさんに納品です」
「まあ。でしたら中でお待ちになって。直ぐ戻るはずですので」
「はい。失礼します」
室内に、セレンさんの姿があり、ソファに座っていた彼女は僕を見て立ち上がる。
「どうぞ」
無表情にそう言うと、彼女は立ち去ってしまう。
相変わらずだなと思いながらソファに腰を下ろすと、彼女がティーセットを持って戻ってくる。
「クリームソーダは無いからこれで我慢して」
「ありがとうございます」
カップにお茶を注ぎ、僕の前に。
そして、向かいへと腰を下ろす。
「今日はどうしたの?」
「武器の配達です」
「わざわざ持ってきたの?」
「仕上げの作業があるので」
「そう。
私の矢はフリマ経由で引き渡すくせに」
「その方が効率的ですよね」
「……そうね。
ついでだから、矢の追加をお願いしておくわ」
「わかりました」
「急がないから、落ち着いてからでいいわよ。
来週は忙しいでしょうから」
来週は丸々一週間、イベントが開催される。
だが、矢を作るくらいの時間は取れるだろう。
「出来たら連絡します」
「ありがとう」
ティーカップを持ち上げながらセレンさんは少し笑顔を見せる。
「すまない。待たせたな」
「いらっしゃーい」
セレンさんと話をしているうちにリゼさんとひよりさんが戻ってきた。
「頼まれていた物の納品です」
僕は、仮想ウインドウを開き、二人にそれぞれアイテムを渡す。
「仕上げで付与魔法を施すように言われていますので、希望をおっしゃってください」
「わかった」
「りょーかい!」
二人はそれぞれに武器を手にする。
リゼさんは大振りの大剣。
ひよりさんは二股の槍。
「ん?」
「あれ?」
二人が揃って怪訝そうな顔をする。
「どうしました?」
「軽いな、と思って」
「うん。軽い」
「はい。でも強度などは変わらないはずです。
リゼさんの剣は、燕三さんが仕上げました」
素材の時点で軽量化を付与しているから軽いのだろう。
そうすることで、仕上がった加工品に対して更に強化を施すことが可能になる。
「ふむ」
「なるほど、なるほど」
「……室内でブンブン振り回すの止めなさいよ」
新しい武器の手応えを確認する二人にセレンさんが注意する。
二人は苦笑いを浮かべた後に、僕の方へ武器を差し出す。
「ショータ、火の属性を付けてくれ」
「私はまた雷!」
「わかりました」
まずはリゼさんの大剣を受け取る。
僕より大きのでは無いだろうか。
「ファイア・アタッチ」
武器【ブレイズブレイド】両手剣/ランク7
叩き壊す様に斬る大振りの剣
真紅に染まる剣身は炎の力を宿す
製作者:オヴェット工房
次いでひよりさんの槍。
「サンダー・アタッチ」
武器【ライトニングスピア】槍/ランク7
雷の力を宿すその穂先は
鎧すら容易く貫く強固な槍
製作者:オヴェット工房
再び二人は武器を手に取り、一度確認するように掲げる。
「ふん!」
大剣を振り下ろすリゼさん。
その軌跡に、火の粉が舞う。
「とりゃあ!」
槍を突くひよりさん。
その穂先から一瞬、雷光がほとばしる。
「室内でやるなって言ってるのよ!」
それを見て、セレンさんが怒鳴り声を上げた。
二人は再び苦笑いを浮かべた。
二人に使った感想は、親方へ直接言ってくださいと言い残し僕はローズガーデンを後にする。




