99 妹弟子あるいは後輩
アマリさんは全裸でお湯の中に浮かんでいたらしい。
ニヤケ顔で。
そう、マリーさんが呆れ顔で教えてくれた。
「まったく、相変わらず喧しいな。お前らは」
「へへへへー」
「褒めてねーよ」
番台の横でフルーツ牛乳を飲みながら涼む僕らに、やって来たカルテさんが呆れ顔をする。
「ショータ、宝石まだあるかい?」
「はい。少しですけど」
「あるだけ全部くれないか。
魔法を込めた奴が思いの外好評でさ。
フリマでよく売れるんだわ」
「僕も少し欲しいです」
「そうか。じゃ、二、三十選り分けとくよ」
「ありがとうございます」
「どんなのでも良いから手に入ったら連絡ちょうだい」
「はい」
宝石ならジュエル・パペットを倒せば良い。
折を見て行ってこよう。
男湯へと入っていくカルテさんを見送りながら、手持ちの宝石をリストにして彼宛に送っておく。
「宝石職人が泣いて呆れるよ」
カルテさんの姿が見えなくなってからマリーさんがそう毒づく。
まあ、爆破物を売っているのだから宝石職人でなく武器商人が近いだろうけれど。
「所でショータ、ちょっとウチのクランにアンタを紹介して欲しいって子が居るんだけど」
「それは、許すまじ」
仰向けになって頭に濡れタオルをのせたアマリさんが口を挟む。
「良いですよ」
「ちょー! ショタ君! コイツのクランって事はメガネ女子……」
「まだ、動かないほうが良いですよ」
「……はい」
起き上がりかけたアマリさんを制止して、落ちたタオルをおでこに乗せ直す。
どうやら、アバターが意志通りに動かせない、そんな状態らしい。
「じゃ、呼んじゃうね。
でも、聞けば妹弟子らしいから直接会えば良いのにと思うわ」
そう言いながらマリーさんが仮想ウインドウを操作する。
「オヴェット工房の弟子なんですか?」
「そうらしいよ。知らない?」
「いえ。全く」
そう言えば親方は僕に新しいお弟子さんを紹介してくれた事が無いな。
「すぐ来るって」
そうマリーさんが言った通りに、走って現れたのは青いメガネをかけたグレーの繋ぎを着た女性。
あれは、アランさんの作った服だろうな。
「ろくろ」
そう、マリーさんが紹介すると彼女は片手を真っ直ぐに上げて自己紹介をする。
「オヴェット工房で見習い中のろくろです!」
「ショータです」
「やっと会えましたね! 先輩!」
彼女は、そう、嬉しそうな顔で僕を見下ろしながら言う。
「先輩?」
「はい! オヴェット工房の先輩ですよね!?」
「ああ、そうですね」
「おい、ろくろちゃん。
ショタ君に先輩キャラは合わないのでやめたまえ」
横になりながらアマリさんが口を尖らせる。
「いや、先輩は先輩っす!
そこは譲れません!」
そう言いながらメガネの蔓を抑えるろくろさん。
「こんなショタッ子を! 先輩だなんて! 危ういにも程がある!
ショタ君はそれで良いのかい!?」
何かいけないのだろうか。
「えっと……」
「変な事を口走ると、またペナルティ喰らうわよ?」
「ぐぬぬ」
マリーさんに言われ、アマリさんが歯軋りする。
こうして、僕に同じ工房のフレンドが増えた。
◆
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
朝ご飯を並べる親方には挨拶をして、手早く工房の掃除を済ませる。
「親方、昨日、ろくろさんと言う方に会いました」
「ああ、そうか。
一応、弟子なんだが……」
サラダを取り分けながら答える親方は、珍しく歯切れが悪い。
「どう、思った?」
「……変な人だと思いました」
「だよな。だから引き合せようか迷っていたんだが……会ってしまったなら仕方無い。
仲良くしてやってくれ」
「はい」
僕の周りには、多分変な人ばかりなので彼女が特別変な人だとは思っていないけれど。
「そう言えば、英雄とか、封印とか、親方、知ってますか?」
「天の神の英雄の話なら、少しは聞いた事があるが」
「どんな話ですか?」
「魔神を地の底へと追い返した天の神の遣い。
生贄として捧げられた者の生まれ変わりだとか、天の神の分身だとか、色々な話がある。
魔神が英雄に恋をしたと言う悲恋の物語まであるんだぞ」
「ロマンチックですね」
「まあ、天の神は信ずる神ではないから詳しくは知らないが。
その英雄はやがて蘇り救世主として世界を救うのだったかな」
それが、僕の聞いて回っている封印と関係有るのだろうか。




