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96 氷原フィールド

「あ、暖かそうだね」

「はい」


 氷原を攻略する為、ヴィヴィアンヌさんに作ってもらった厚手のコート。

 少し、もこもこしている。


「だからって角まで付ける必要はないと思うんだけどねぇ」


 若干呆れ気味にくまこさんが僕の頭を見ながら言う。


「セットみたいで、これだけ外すことが出来ないんです」


 僕の側頭部に、くるんとカーブした二本の角。その上にちょこんと乗った耳。

「子羊ちゃんょ!」とヴィヴィアンヌさんは満足げに言い放った。

 耳は要らないという注文は通らなかった。


 それでも、防寒の効果には満足している。

 もこもことしている割に、動きを阻害される様な事は無い。


「か、可愛いよ。良く似合ってる」


 そうノルンさんが笑顔で言う。

 ハティとスコルがいつに無く僕の方を気にしている気がするけれど……餌と思われてたりしないだろうか。


「く、くまこさんは寒くないんですか?」


 ノルンさんも、パールさんも一枚コートを羽織っているが、くまこさんだけは相変わらず半裸に近い姿。


「全然!」

「どう言う神経してるのかしらね?」

「気合が足らないんだよ!」


 そう言う物なのだろうか。


「では、行きましょうか」


 黒さんが、静かに言う。

 目指すは第三の封印。


 ◆


「そ、そろそろ一回休憩にしましょうか」


 氷原を進む一行に、黒さんが提案する。


「……そうだな」


 先頭を行くくまこさんが、五郎の上から振り返りながら言う。

 そして、セーフティーフィールドを展開して焚き火を起こす。


「大丈夫ですか?」

「は、はい。何とか」


 スコルの上で青い顔をしていたノルンさんに黒さんが声を掛ける。


「そう言うお前も、唇真っ青だけどな」


 笑いながらくまこさんが黒さんに言う。


「どうして貴女は平気なんですかね?」

「気合だよ!」


 そう言いながら握りこぶしを振り上げるくまこさん。


「ウチの小六は全く役立たずだ」


 焚き火に当たりながら朝景さんが言う。

 そう言えは、小六は彼の肩から飛び立とうとしなかったな。


「寒さに弱そうですもんね」

「まあな」

「はい。お茶を淹れたわ」


 パールさんが全員にカップを配る。


「今日は、ここまでにした方が良いんじゃないかしら?」


 黒さんにカップを手渡しながら、パールさんがにこやかに言う。


「……そうですね。そうしましょう」


 雪山の寒さには逆らえず、解散となった。


 ◆


 一度ホームに戻り、庭で暴れ足りないくまこさんの相手をする。

 相変わらず僕も五郎も投げられっぱなし。


「ショ、ショータくん。

 あの服、どこのお店で買ったの?」


 少し休憩している時に、ノルンさんにそう問われる。


「これは、知り合いの人に作ってもらいました。

 紹介しましょうか?」

「え、い、良いのかな?」

「大丈夫ですよ。

 ちょっと、注文通りに作ってくれなかったりしますけど」


 ヴィヴィアンヌさんへメッセージを送っておく。


「多分、夕方になると思いますけど連絡ついたら知らせます」

「ありがとう」


 そうして、ノルンさんと約束をして、ヴィヴィアンヌさんから返事があり、彼女をローズガーデンへと案内する。


「いらっしゃい。お待ちしてました」

「こんにちわ」

「こ、こんにちわ」


 前と同じくサヤさんが迎え入れてくれる。

 中には既にヴィヴィアンヌさんの姿がある。


「どうぞ、お入りになってください」


 何故か、ノルンさんが入り口の外で立ち止まっている。


「あ、あの、この子達も……」

「ええ、もちろんです」


 そうか。

 ハティとスコスの事を気にしていたのか。


「お、おじゃまします」

「大きいですね。ウルフ系ですね?」

「は、はい」

「あの、触っても宜しいですか?」

「は、はい」

「では、失礼して」


 サヤさんがしゃがみ込んでスコルとハティに手を伸ばす。


「ああ、柔らかい。白玉とは違った毛並みの良さがありますわね。

 お名前は?」

「ハティとスコルです」

「ああ、すいません。私ったら自分の名も名乗らずに。

 サヤと申します。こちらは、小豆。

 よろしくおねがいいたします」


 一度立ち上がり、丁寧に頭を下げるサヤさん。


「ノルンです。あの、今日は服を作ってもらいに来ました」


 頭を下げ返しながら、ノルンさんが言う。


「それは、伺っております。

 デザイナーは向こうですのよ」

「あ、失礼しました」


 やんわりと手でヴィヴィアンヌさんを示すサヤさん。


「その間、私の方でハティとスコルはお預かりしてますわ。ふふふふふ」


 そう言いながらサヤさんが小さなボールを取り出す。

 ハティとスコルがそれを見て尻尾を振る。


「えっと、よろしくおねがいします」

「はい! たっぷりと遊ばせてもらいます!」


 二匹をサヤさんに預け、ヴィヴィアンヌさんの元へ。


「はじめまて。ヴィヴィアンヌです」

「ノルンです」

「話は聞いてますよ。

 ショータ君、コートの着心地はどうだった?」

「温かかったです。でも、耳は要らないと思います」

「ふふふふふ」


 僕の感想は、愛想笑いで誤魔化された。


「さて、ノルンさん……。

 こんなデザインなら直ぐに作れるけど、どうかな?」


 そう言いながらヴィヴィアンヌさんはスケッチブックを開く。


「あ、す、素敵です。是非」

「じゃ、明日の朝には出来ると思うわ」

「そんなに早くですか?」

「うん! 早く着てほしいのよね!」

「あ、ありがとうございます」

「お茶を淹れようと思うけれど、時間は大丈夫ですか?」

「あ、はい」

「では、少し座って待ってくてくださいな。

 直に仲間も顔を出すでしょうから、ご紹介します」

「あ、はい」


 ソファに座って、ボールを追い掛けるハティとスコルを嬉しそうな目で眺めるノルンさん。

 そこへ、笑顔を浮かべながらティーセットを持ってひよりさんが現れる。


「こんにちわ。ひよりと白玉です」

「あ、ノ、ノルンです」

「ショータ君とファントムもようこそ」


 そう言いながら僕らの前にお茶を置く。


「あの子達はノルンさんの召喚獣ですか?」

「は、はい。ハティとスコルです」

「私も、あの子達と遊んできても良いですか?」

「あ、はい。どうぞ」

「たっぷり可愛がっちゃっても良いですか?」

「え、は、はい」

「やった!」


 許可を得たひよりさんは、スコルとハティの間に抱きつくように飛び込んでいく。

 白玉はノルンさんの足に身を擦り付ける様にしながら床に寝転がり、そのお腹をノルンさんが嬉しそうに優しく撫でる。

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