90 クラン・ローズガーデン
翌日。
ログインした僕は、ローズガーデンのクランホームを尋ねる。
アランさんのお店の裏に作られたその小さな家は、渡り廊下でアランさんの工房とつながっていると言う。
ヴィヴィアンヌさんの意見だそうだ。
あっと言う間に次々に家が建ち、すっかり街らしくなった森の町。
木造ならば一日程度で形になるらしく、源さん達は大忙しの様だ。
「ようこそ、いらっしゃいました」
「こんにちわ」
ドアを開けて僕を出迎えてくれたのはサヤさん。
「小豆、大きくなりましたね」
「はい。
鴉鯉になりました」
彼女の背後を悠然と泳ぐ黒い魚。
光の加減で僅かに青みを帯びて見える。
それが、サヤさんの朧気な雰囲気と相まってとても幻想的に見える。
「ビビさんを呼んで参りますので、座ってお待ち下さい」
「はい」
僕はソファに腰を下ろし、室内を見渡す。
真っ白な壁に猫脚の家具。
そして、クッション部分だけ色違いの椅子。
吹き抜けと二階へと続く螺旋階段。
統一感のある、おしゃれな室内に各々が私物を好き勝手に置きはじめたファンリルのホームとは正反対だなと思う。
どちらも嫌いでは無いのだけれど。
ファントムが飛んでいき、家具の近くで眺める様に浮遊する。
そして、時折楽しそうに揺れる。
「お待たせ」
僕が入ってきた玄関とは違うドアからヴィヴィアンヌさんが現れる。
位置的に、アランさんの工房へとつながる所だ。
「今度は何耳を作りたいの?」
ヴィヴィアンヌさんが笑いながら僕の前に座る。
「いえ、耳は要らないです」
「あら、残念」
そう言いながら笑うヴィヴィアンヌさんは少しも残念そうではなく。
ただ、からかって遊んでいるだけなのだ。
「他に何耳があるんですの?」
お茶を運んで来たサヤさんが問いかける。
「熊とたれ耳……ネズミに馬。あとはどんなのがあるだろう」
僕の頭を見ながら真剣に考え出すヴィヴィアンヌさん。
「いや、耳は要らないです」
「そう?」
「はい」
僕はお茶を手に取り「いただきます」とサヤさんに軽く頭を下げ、一口飲んで「美味しいです」と伝える。
「防寒具、厚手のコートが欲しいです」
ヴィヴィアンヌさんに今日来た目的、要望を伝える。
「防寒具、か。
素材は……あ、羊毛持ってるのかしら?
バロメッツの」
「はい。持ってます」
「じゃ、それで作れる筈だけど、実際の性能というか、効果はなんとも言えないのよね。
寒冷地ってまだ無いから。
でも、必要なフィールドがあるってことよね?」
「そうですね。雪山がありました」
「へー。
どこ?
バロメッツの次?」
「更にもう一つ次です」
そう答えてから、情報を引き出された事に気付く。
まあ、隠す必要も無いから良いのだけれど。
「へー。じゃ、私達も用意しておこう。
それで、急ぐ?」
「いえ、それ程でもないです」
「じゃ、目処がついたら連絡入れるよ。
デザインは、任せてね」
「はい。お任せします」
あまり、人目を引かないものを。
そう思ったのだけれど、そう注文した所で結果は同じような気がしたので黙っておく。
「もこもこで、羊なら……角かしらね」
「あんまり人目を引かない感じにしてください」
やっぱり言うことにした。
「大丈夫。任せて」
そう言って楽しそうな笑顔を浮かべるヴィヴィアンヌさん。
その笑顔に一抹の不安を覚える。
「ねぇー。ビビさん、居るー?」
室内に、大きな声が響く。
「なぁにー?」
ヴィヴィアンヌさんが螺旋階段の上の方へ視線を向けながら答える。
「昨日の服さー、やっぱりちょっと盛り過ぎだと思うのー」
そう言いながら螺旋階段の上に姿を見せたのはセレンさん。
少し丈の短い、黒のフリルスカート姿で、そのスカートの先を指先でつまんでいる。
階下に僕が居るのを見つけ、目が合い、一拍置いて顔を真っ赤にする。
「な、なんで居るのよぉ!?」
そう怒鳴るセレンさん。
その背後で黒い尻尾の毛が逆立つのを見て、彼女もヴィヴィアンヌさんに遊ばれているなと思った。




