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89 光の庭 偵察

 ボス攻略を果たした翌日、ログインした僕はクランホームへと向かう。


「チビ助、予定あるか?」


 クランホームの中に入る前に庭先に居たくまこさんに呼び止められる。


「いえ、特に無いです」

「じゃ、三人で昨日のフィールドに行こう。良いよな? ノルン」

「は、はい」


 ハティとスコルに埋もれ、下半身しか見えないノルンさんが返事をする。

 休日はパールさんがあまりログイン出来ないということなので、僕らは特に予定は決めず自由行動になっている。


「ヒーラー無しだから、適当にぶらついて戻って来よう」


 今日の予定は、こう言う事になった。


 ◆


 うわぁ。

 早いな。


 僕の体より大きい黒い狼。

 ノルンさんのスコルに跨り、その首に必死にしがみつく。


「だ、大丈夫?」

「はい。何とか」


 心配そうに声をかけるノルンさんに、そう返すのがやっと。


 僕らの後ろからくまこさんを乗せた五郎が追いかけて来る。


 僕も大変だけれど、狼の足に必死の形相で食らいついて来る五郎も大変だなと思った。

 その上でくまこさんはとても楽しそうだけれど。


 時折、敵が現れる事はあったけれど殆ど全てをハティとスコル、そして五郎の足は置き去りにした。

 稀に、ノルンさんが迎撃に出て、ハティと一体になった動きで槍の一刺しを見舞って行く。


 そうして、たどり着いたのは、辛うじて何かあったとわかる程度の痕跡が残る遺跡跡。


 この大陸へ初めて降り立った、魔法陣のある遺跡から西へ西へと進んで来た。


 それまでの木もまばらな荒野と違い、索敵にはっきりと分かる程に敵の数が増えた。

 ただし、崩れた遺跡の影に隠れて居るのか姿は見えず、種類もわからない。


「奥へ行くのはまた今度。

 他も見に行こう」


 くまこさんがそう言って踵を返し、今度は南東方向へ進む。


 そうして、荒野の中を走り、丁度遺跡の真南の辺りで再び景色が変わる。


 荒野の中にそびえる岩山。

 その麓に口を開ける洞窟。

 それも一つや二つではない。


「南は洞窟、か。

 ここいらで一回休憩にするか」


 くまこさんがそう提案して、セーフティフィールドを展開する。




「あの、このまま一周するんですか?」


 キャンプセットでお茶を入れながら、ノルンさんがくまこさんにそう尋ねる。


「そのつもり。

 その途中でどっか良さげな狩場があれば止まるけど。

 一応、アタシら遊撃部隊だからね。

 こう言うのも役割な訳。

 ……多分」

「そうなんですね。

 さっきの遺跡と、ここの洞窟。

 そして、東と南にキーアイテムがあるんでしょうか?」

「そうなんじゃないかな。

 私はそう言う謎解き的な奴はあんまりだから、後で全部黒に情報を渡すつもり」

「一体、何があるんでしょうね」


 ノルンさんが荒野の洞窟群を見ながら呟く様に言った。



 そこから、更に南東へ。

 中心から半円を描く様に回った事になる。


「寒く無いか?」

「少し肌寒いです」


 僕らの前には山がそびえる。

 その中腹辺りから白一色に染まる。

 吹き下ろす風は冷気を伴う。


「防寒具の用意が必要そうだな」


 そう言ったくまこさんは僕より薄着なのだけれど、全く問題無さそうだ。

 そして、三匹の獣達も。


 そのまま山沿いを北上。

 なだらかに下って行く稜線の上を見ながら走る。



 東から北にかけ、山脈が続く。

 しかし、北の山の様相は、東のそれはとは異なる。


 山頂から立ち上る黒い煙。

 時折鳴り響く轟音。


「活火山か」

「凄い音ですね」

「ここで最後だから少し登ってみようか」

「はい」


 三匹の獣が人を背に乗せ、草一本生えていない山肌をゆっくりと登って行く。


「敵の姿が全く無いな……」


 先頭を行く、くまこさんがそう呟く。


「逆に不気味ですね」


 続くノルンさんが答える。


「何か、居る?」


 僕の問いにファントムが少し上に上がり、そして横に震える。


「罠か、ただの思い過ごしか……」


 呟きながらもくまこさんは歩みを止めず山をゆっくりと登っていく。

 最も、歩いて居るのは五郎だけれど。


 そんなくまこさんが、いや、五郎が足を止める。


「どうしました?」


 ノルンさんと僕が追いつき問いかける。


「あれ」


 彼女が指差すその先は、やや窪んでおり、そこから白い煙が立ち上る。

 すり鉢状の中心に、透明な水溜り。

 いや、蒸気が上がっている。


「温泉ですか?」


 ノルンさんがそう問いかける。


「だろうね。

 うーん、どうする?」

「え?」

「入る?」

「え、入るんですか?」

「折角だからね」

「え、でも……」


 ノルンさんが、僕の方を振り返る。


「子供じゃん」

「で、でも、流石に裸は……」

「インナー姿までしかなれないけどね。

 私は入るよ。五郎と」


 そう言ってくまこさんは五郎から下りて、仮想ウインドウを開く。

 一瞬彼女の姿がぶれ、身につけていた衣服が消え、地味なインナー姿に。

 と言っても、肌の露出はそれほど変わって無いかもしれない。


「チビ助はどうする?」

「あ、僕は水着持ってます」


 スコルから下りて、水着姿に。


「よし。行こう」

「はい」


 別にお風呂に入りたかった訳では無いのだけれど、スコルに乗りっぱなしで疲れた体を少し休めたかった。

 それに、寒くもあったし。


「……じゃ、私も」


 後ろでノルンさんが言った。


 十メートル程、斜面を駆け下りくまこさんが温泉に飛び込む。


「あー! 丁度良い!」


 僕も静かにそれに続く。


 振り返るとノルンさんがゆっくりと斜面を下って来るのが見えた。

 そして、その奥にフワフワと浮かぶファントム。


 相棒を手招きして呼ぶ。

 遠目にもはっきりと分かるほどピンクに染まり、そしてゆっくりとこちらに向かって……。


 〈ポーン〉


 気付くと、親方の住居の自分の部屋。


「あれ?」


 目の前にファントムがフワフワと浮いて居る。

 くまこさんから、ボイスメッセージだ。


『チビ助、ノルン、無事?』

『し、死に戻ったみたいです。……何でですか?』

『チビ助は?』

「僕も、自室です」

『ログによると中毒死ってなってるな。

 ……有毒ガスが吹き出てるって事か?

 だから敵が居なかったんだな』

『あー。硫化水素でしょうか?』

『何にせよ、対策必要そうだね。

 時間も時間だし今日はこれまでにしよう』

『そうですね。お疲れ様でした』

『お疲れ』

「お疲れさまでした」


 そこで通信が切れる。


「毒ガスだって」


 そう言うとファントムは赤くなって横に揺れる。

 そう言えばログってなんの事だろう。


 明日誰かに聞こう。

 そう思いながら僕はそのままログアウトした。

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